80 塩湖の家
ダナイデ様にスッキリさせてもらったためか、爽やかな目覚めだ。
これなら2日目の移動も耐えられそうだ。
「では、頑張って塩湖へ出発するか。」
「テイル、頑張るーー」
「…そこそこにな。」
テイルが頑張ると乗り物酔いするから。
…こっちに来ているうちにケルート人との接点が欲しいな…
「ダナイデ、ケルート人との繋ぎは取れますかね?」
「ケルート人は自然と共生する生き方なので、私の森ともうまくやって行けてます。でも部族集団も有りません。皆、家族単位で生活していますので、長が居ません。」
まだ部族もできてない段階か。でも確か、イングランドでは入植が進むにつれて土地争奪の紛争があったはず。亜人側と接触が本格化するまでに組織化の種を蒔いておく事は必要だな。無血でケルート人が亜人政権に取り込まれて傭兵化したら大変だ。
「ダナイデ、ケルート人の普段の暮らしぶりはどんな感じですか。」
「木の実を採ったり、魚を獲ったり…そうそう、空き地に雑穀の種を蒔いたりもしてますよ。病になると休ませて祈るだけの事が多いですが、稀に私に薬を求めて祈る人も居るので、その場合は薬草や薬樹液を与えています。」
だいたいイメージどおりの生活だな。彼らがなかなか捕る事ができないコカトリスを準備して、焼き鳥手土産に接触してみるか…元の世界のケルト人のような人達なら良いのだが。日本に居た『山窩』のようなタイプだと困る。文明に背を向けて何処へともなく消えちゃうのでは毒にもならない代わりに薬にも成らない…
「ミドリ、テイル。塩湖に着いたらコカトリス用の『霞網』を造る。残りの材料だけで造るので多くは仕掛けられないだろうけど、数匹捕れれば十分だ。」
「主さま、メガロドンは焼き鳥食べないと思うよーー」
「コカトリスはケルート人へのプレゼントな…。」
「今度はケルート人のお嫁さんも貰うんだーー、テイルも楽しみ~~」
うっ…これは結果的にそうなるパターンなのか。
メガロドンにも遺伝子残そうと云う人間が俺だ。
傍から見れば、ケルート人にも手を出さないはずがない…と。
「ご主人様。なにも気になさる必要はありません。領主や貴族の婚姻は、政治の手段です。40歳の婆でも嫁に行きますし、生まれる前の赤子でも許嫁にもなります。ましてや異種族間での信頼を強固にするには婚姻ほど確かな手段は無いでしょう。」
「旦那さま、ミドリさんの言われた通りですよ。マーマナにしても、勿論、救っていただいた事が最大の理由ですが、セイレーン全体としての長老の判断があればこそ。メガロドンも同じです。だからこそ、いずれマンディーも…そしてニケのエフソスですら旦那さまの元に参じるでしょう。」
いやー…エフソスさんはマニアだから違うと思うけどなぁ~
…マニア…か。
或る意味、セイコ・サオリもマニアだよな…それなら
「ダナイデ、大物ですがドラゴンかヒュドラで思いっ切り気位が高くて俗世と関わりを絶っている個体を紹介して貰えませんか? セイコ・サオリを事実上戦力外にできるかもしれません。」
「旦那さま、そんな事が…では早速、どの個体が良いか皆に相談してみましょう。」
テイルがじーっと見つめてくる。
あー、ドラゴンやヒュドラにまで手を出すつもりだと感じているんだな。
「ダナイデ、できればドラゴンやヒュドラは雄が良いです。」
「え?雄でですか。…まさか、旦那さま…」
「失敗しても損は無いですし、やってみましようよー♪」
…
…
「ココがアラール塩湖か…」
湖岸は見事に干上がって、ひび割れした塩の塊で砂漠のようだ。
打ち捨てられた、主の無い昔の舟が湖面を彷徨っている。
塩分濃度が上がってしまっているのだろう、舟の喫水がやたら浅い。
「ひどいものだな…」
「ご主人様、これではほとんどの生き物は…」
「絶望だな。塩漬けで生きていける生物など殆どない。」
これでも水位はジワジワ回復しているのだろうが…
よくこれで、メガロドンが絶滅していないものだ。
「旦那さま、あちらの湖岸が比較的、元の岸に近いので、家を造りますね。」
湖の水深が元々深かった場所なのだろう、塩の砂漠が無くわずかに草も生えている。
メガドロンが入ってこれる大きな池を造り、深くて太い溝を掘り塩湖とつなぐ。
「主さま、大きい池だねーー」
「メガロドンだからなあ。これでも窮屈かもしれん…。」
「ご主人様、アレを…」
遠くから一筋の波が真っ直ぐにやってくる。
水面から大きな縦ヒレが出ている。
メガドロンが1頭池に入り、2周ほど回って我々の直ぐ側で産卵を始める。
「…大きい…」
「おっきな卵がいっぱーーい。綺麗な黄色だねーー。」
産卵を終えたメガドロンは少しはなれた場所で休息しているようだ。
水中と水上なので、さすがに会話はできない。
ダナイデ様に通訳してもらう。
「旦那さま、この卵は次世代の長を生む特別の卵と言ってます。この卵に旦那さまが受精させてほしいそうです。」
「了解した…とは言っても、どうすりゃいいんだ??」
「旦那さま、私の手で搾精のお手伝いをいたしますわ。」
「昨日のように吸い上げて、それをダナイデ様が卵の周囲に放出するのですか?」
「いえ、それでは私の気が混ざってしまって受精できませんわ。ですので、私の手で搾精のサポートをしますので、旦那さまが狙いを付けて卵に受精させてくださいませ。」
なん!! 手って、手そのものでって事かっ!!
「…私では不都合でしたら、テイルちゃんか、ミドリさんでも…」
「…いえ、ダナイデさまにお願い致します…ぜひとも……。」




