79 ケルート人
「では、塩湖方面へ出立しよう。遠いので忘れ物の無いようにな。」
「イオリ、私は行けないから、留守番してるね。」
…
…
4人で早速塩湖方面へ出発する。
道と言っても、ボーリング場のガーターの溝を大きくしたようなレールの上を、荷台にコロがついた大型スケボーで走るので、傍目にはボブスレーのような感じだ。
牽引役のテイルは森の中で、返って活き活きと走っている。
「こ、これは早いな…」
「ご主人様、うっかりすると振り落とされそうです。」
ダナイデ様はちゃっかり自分だけ荷台に根を張って固定している。
「旦那さま、コレぐらい急がないと2日で塩湖まで行けませんですの。」
「それで、このような道を…」
森はダナイデ様の領域なので魔物や鳥獣、虫に邪魔されないのが救いだ。
「ミドリ、黒の海の北側のこの森が塩湖の北西まで繋がっているのは判ったが、この森のさらに北はどうなっているんだ?ずっと森が繋がっているのかな。」
「ご主人様、この森の北側は灌木混じりの草原が延々とはるか遠くまで繋がっていると云われています。ガイアーの大地と呼ばれていて、ケルートという人型の魔物の支配する土地との事です。」
「あら?ミドリさん、人間側ではそうなっているのですね…。旦那さま、ガイアーの大地は魔物側では亜人のケルート人が支配している事になっています。」
「つまり、ケルートはどちらの陣営からも正体不明で、孤高を保っていると…」
「旦那さま、ケルート人との接触は我々のほうが多いと思いますわ。お隣ですし。ケルート人は他の亜人同様に道具を使い言葉で意思疎通しています。寒い地域ですので動物の毛皮を着込んでいるから魔物と勘違いされているのでは…」
なるほど…それだと隣接していても、被差別民の扱いだったかもしれないな。
古代の中国やヤマト王権が辺境の異民族を蛮夷扱いしていたように。
これは利用できる要素が増えたかも。ケルート人にとっては迷惑かもしれないが。だが、どうせ遅かれ早かれ中央権力の刃はケルート人に届くので、それなら今のうちに組織化してやれば中央権力に飲み込まれず独立も保てるから、長い目でみれば良いはずだ…
…などと思案しているうちに、今日の野営予定地点に到達する。
ダナイデ様が簡素な小屋を造ってくれる。例によって水道も付いている。
「主さま~~、屋上で見張ってるから安心してねーー。」
テイルがミドリも咥えて屋上に行ってしまった。
完全に、はじめから仕組まれているとしか思えない。
「では旦那さま、僭越ながら、私が上に…下から上に吸い上げるほうがしっかり取り込めますので…」
植物の構造そのままに、下から上に吸い上げる事が得意だ…と…
って、え?うわわ…
…
…
「…ふはぁ~~…」
見事に吸い上げられて、すっかり空っぽだ。
ホントに寿命が伸びているのだろうか。凄く縮んだ気がするが…
「旦那さま、ご心配ありませんですわ。何もかも一旦吸い上げて入れ替えてありますから。血管の中も、新生児の赤ちゃん並にすっかり綺麗に成っておりますわ。旦那さまは脳梗塞や心筋梗塞などとは無縁の人生になりますの。」
そういう事だったのか。
素晴らしい、そういう事にしておこう、今後のためにも…
「ところで旦那さま、何故急に贅沢品に興味を持たれたのですか?まだお考えが纏まっていないようで、私にも靄がかかっていて見えてきませんですの。」
「ダナイデ…まだいろんな読み筋が交錯してしまって形になってないので内緒でお願いですよ。軍事行動起こすには資金が要るので、その資金を我々が吸い取ってしまえないか…とか、莫大な資金ができたら魔族領と亜人領の間に我々が国造っちゃって双方から侵攻出来なくさせられないか…とか、今日聞いたケルート人と接触してケルート人の国を造らせて、天下三分の計で3竦みにすれば、亜人側も迂闊に動けなくなるのじゃないか…とか、まだ頭の中ごった煮です…」
「天下三分の計?」
「元いた世界で『諸葛亮』って人が提案した戦略です。1:1では負けそうでも、3竦みにしてあれば、一番強い者がつねに2面作戦強いられるので、なかなか勝ちきれないんですね。実際、その戦略で一つの時代が生まれました。」
「旦那さま…いろいろな方法があるのですね…」
「とりあえず、全部やれるだけの事は準備しようかなと。でまだ他に 『神権・聖ハスモーン唯一神帝国』 対策が必要です。あの国は軍事行動に資金はほとんど不要ですので。」
というか、根本は唯一神帝国じゃないのかな。
オリーミ公爵なんて、結果的に代理戦争させられて自滅しつつあるし。
唯一神帝国の力を削ぐ方法か…




