77 王都教会
「ミドリ、最後は教会に行っておこうか。」
「エルズルーのザラスター教教会は王城の北側ですね。」
「それなら帰り道の途中で寄れるな。」
教会だのは街の北側に南向きで建築される事が多いよなあ。
やはり南向きの建物にして陽の光をうけて輝かせたいのだろう。
「あれが王都エルズルーのザラスター教教会か。」
「主さま、おおきいねーー」
敷地も大きいが、中央にそびえ立つ煙突のような塔が目を引く。
教会の中央施設に塔が設けられているようだ。
案内処にはココでも巫女さんが待機している。
「ココは異教徒でも見学できるのかな。」
「はい、静かに見学される場合は大丈夫ですよ。」
「立派な塔があるな。あの下に神が祀られているのかな?」
「いえいえ、あの塔は綺麗な空気を取り込むための換気塔です。」
室内に溜まった温められた空気を上部に逃がす換気塔なのか。
煙突効果で、一旦空気の流れができると継続的に換気できる…と。
本殿?の中にはいると、やや薄暗い落ち着いた雰囲気だ。
中央一段高い場所に聖火のような炎が安置されている。
「ご主人様、この炎がザラスター教のご神体で1500年以上受け継がれています。
各地の教会にも同様に守られています。」
教会が新しく出来る度に、新しい火種に火を貰って御神体を増やしていけるので、信者にしても受け入れやすいな。火を燃やし続ける必要も有るので尚更新鮮な空気は重視されているのだろう。
「王都には聖ハスモーン唯一神教は進出してないようだな。」
「ご主人様。エフタール王国にとっては唯一神教など外国の異教です。ザラスター教は戒律も少なくて生活の隅々まで空気のように染み込んでいます。注文の多い唯一神教が庶民に受け入れられるとは思えません。」
戒律が多い宗教は庶民には面倒なだけでも支配者にとっては都合がいいんだよな。内政が行き詰まるとそういう宗教を国教化して利用しようとする為政者も出てくるものだが、ミドリにはまだ理解できないだろうな。
「巫女さん。荘厳ですばらしい教会でした。」
「またいつでもお越しください。神のご加護を…」
「そうそう、ザラスター教には贅沢の神様はおいでですか?」
「贅沢の神では無いですが、芸術の神ブラギー様がおわします。」
「なるほど、芸術の神様…有難う。」
「王都はだいたい解ったので、今日は帰ろうか。」
「旦那さま、何故教会に?旦那さまは神頼みから最も遠い人かとおもいますが。」
「最近は精霊さま頼みになってきてますけど。…唯一神教が王国にどの程度浸透しているかが心配でした。ほとんど進出できてなかったので、宗教界の圧力で王国軍が動くことはなさそうです。」
「旦那さま、宗教で軍が動く事など有るのですか?戦を起こしたがる神など居ませんですよ。戦神は戦の怖さや恐ろしさを知らしめる神ですが。」
「本当に神に仕える者ならそうでしょうけど、得てして組織のトップは現世利益に熱心でしてね。信者に来世での救済を匂わせて、現世での滅私奉公を強要し命知らずの死兵に仕立て上げて侵略戦争する事が、まま、有るのです。」
十字軍なんて、いくつかの小国が踊らされて国王が戦死とかしてるしな。だが、この感じならエフタール王国全体が 神権・聖ハスモーン唯一神帝国 と呼応して攻めてくる事はなさそうだ。
「旦那さまの元の世界は、修羅の世界ですね…」
「全く。妖精さまとか、数千年前にお隠れになっちゃって、神話世界での言い伝えでしかありませんから。直接にお会いできるなんて無理も無理です。」
ダナイデ様と話しているうちにトラゾンの村に戻ってくる。
村外れの森でダナイデ様が造ってくれた大木の洞に荷車を隠す。
荷車は舟に積めないしな。上陸用舟艇が欲しい。
近所にいたのか、呼石を使うとすぐにマーマナが現れた。
「マーマナお待たせ。今日は疲れたわ。ボコボッケで入浴してゆっくりしよう。」
「じゃあ、別荘に曳いていくね。マーマナも入浴しちゃお。」
「そうですね、旦那さま。今日はマーマナちゃんとお二人で入浴なさってくださいね。ミドリさんとテイルさんは、私にちょっとお付き合いくださいね。」
ミドリもテイルも百も承知とばかりに頷いている。
きっちり、外堀も内堀も埋められているようだ。
…ダナイデ様…。ご配慮感謝。児童福祉法は忘れます。




