75 王国軍
陽も落ちてミドリもマーマナも戻ってきた。
「マーマナちゃん、鰭も鱗もピカピカだねーー」
テイルが真っ先に気が付く。真珠層のような輝きだ。
「明日の夜のために、長老様に磨いて戴きました。」
「良い心がけですね。マーマナさん。私も期待していますよ。」
ダナイデ様、いったい俺をどうしたいのだろう?
先手を打って、今夜はミドリを抱き寄せて寝よう。正室には逆らえまい…
…
…
「おはようございます、ご主人様。」
普通にミドリに起こされる。
さすがに、ダナイデ様も自重しているようだ。
「おはよう…ミドリ、今朝も良い天気だな。」
「主さま~~、今日も海がキラキラしてるよーー」
テイルは基本、早起きだから、すでに屋上で海を見てきたようだ。
「今朝も凪か。…ミドリ、ココから王都は遠いのかな。」
「王都エルズルーはジャラランバードを挟んでヌーリスの逆側です。
黒の海に隣接しては居ませんが王都の外港トラゾンの村のすぐ南です。」
「では、トラゾンの外れに上陸して王都に行く。マーマナ頼めるかな。」
「イオリ、任せて。人気のない海岸に着けるね。」
鏡のような黒の海をマーマナに曳かれてトラゾンの外れを目指す。
陸上と違って直線コースなので、見る見る岸が近寄って来る。
「水上移動は早いな。」
「イオリ、アスピドケローネさんがすぐ前の海の下で見張ってるよ。」
普通は別の魔物の邪魔が入るので使えないコースだったのか。
最近は、いろんな魔物に借りが積み上がる気がする…家も2軒貰うし。
「じゃあ、マーマナ、帰りはまた呼ぶので安全な場所に隠れていて。」
「イオリも気を付けてね。」
マーマナは素直だな…10代後半から歪んで来る人間との差は何だろう?
「とりあえず、トラゾンの村で荷車を買う。」
「旦那さまは、荷車が無くてはダメですね。」
「ご主人様は荷車が無いと、すぐに休憩です。」
「主さま、ときたま、昔思い出して泣くんだよー、ダナイデさまー」
「旦那さまが?…それはまた。鬼の目にも涙ですわ。」
おまえら、本気で主と敬っていないだろ…
「ご主人様、荷車でエルズルーの何処にいきますか?」
「取り敢えず、王城からだな。あとは軍の施設、街の様子だな。」
…
…
トラゾンからエルズルーの道は珍しく石で舗装されている。
戦時には外港であるトラゾンが狙われるので備えているのだろう。
「立派な道が造って有るんだな…」
「3代前の国王様が、造られた道ですね、ご主人様。」
「公領や侯領をのぞいたエフタール王国の本領はどのくらいだ?」
「本領はオリーミ公領とほぼ同じ、国全体の1/5程度です。」
中国古代の周の東遷前のような感じか。
王国一体となって事を起こすのは難しそうだな。
「主さま~~、王城が見えてきたよーー」
「あれか。案外低いな。尖塔はヌーリスの2/3程度だ。」
ほぼ正方形の王城の周囲に結構大きな水濠が廻らしてある。
城の北側が大手門、裏の南側に搦手門が有る。
黒の海の制海権が無いので、北からの敵襲を想定した造りだ。
「しっかりした造りの城だ。四方の城壁塔も手間のかかる円塔で堅固だ。」
「ご主人様、そうなのですか?ヌーリスの城のほうが少し大きいですが。」
「ヌーリスは見掛け倒しだったからな…」
当然、居館の場所も外からでは見えない。分厚い城壁が視界を遮っている。
3代前の国王とやらが、この城も造ったのだろう。すると、国軍を見ておかねば…
「ミドリ、城は良く判った。国軍の施設はあるかな。」
「ご主人様、街の西外れに、練兵場があるはずです、行きますか?」
「練兵場が常設されているのか…なおさら見ておかねばな。」
練兵場が常設されているなら、常備軍が有るはずだ。
戦の度に徴兵でなく、常備軍が有るとなると手強いぞ…
だが、国の1/5程度の本領で常備軍とは、おかしな話だが。維持できるのか?
「あれが練兵場のようです。たしか、だれでも自由に見学できるはずです。」
精強な常備軍を見せて、志願兵を募っているのだろう。
貧民階層の若者には成りあがるチャンスでもあるからwinwinという訳だ。
この世界、転移者の伝手が無いと冒険者の道が閉ざされているようだしな。
コロシアム型の観客席で練兵の様子を見る。少数の部隊が今日も練兵中だ。
「なっ、馬鹿な。重装弓騎兵じゃないか…しかも長弓…」
「?ご主人様、あの兵隊が、なにかおかしいのですか?」
「異常だ。変態とも言える。3代前の国王とやらが整備した軍隊か?」
「たしか、そのはずです、ご主人様。」
皆に説明する。
馬にまで装甲をする重装騎兵は敵陣突撃用で当然接近戦だ。だが、彼らの一番大きな武器は長弓を持っている。長弓は当然、遠距離戦闘用で接近戦はしない。普通は騎兵なら短弓で、急接近して短時間に多数の矢を放って退避するヒットアンドアウェイが騎弓兵の常識で、機動力重視の軽装甲が普通だ。さらに、奥の部隊は騎乗での剣や短槍での訓練もしている。弓の習得だけでも大変なのに、さらに剣や槍も習得となると一生かけて訓練しないと物にならない。
「つまり、彼らは遠距離から矢で攻撃し、敵軍が接近してきても逃げずにギリギリまで矢で射竦めておいて、両軍がぶつかる瞬間に弓を捨てて短槍重騎兵として逆に突撃するつもりなのだ。」
「そんなことが出来るのですか?ご主人様。」
「練度次第では出来なくもない。俺の元の世界で『鎌倉武士』と呼ばれていた兵士がそうだった。『一騎当千』という専門用語まで有った。だが人生すべてを使って習得する技術なので、そこそこ裕福な連中しか無理で、数を揃えることは難しい。」
「そういえば、国軍の規模は2000人程度とのことです。ご主人様。」
「2000か。前線に投入できるのは、半分の1000ってとこだな。」
今の戦いの決着がつくまで早くて10日、まあ15~20日はかかる。
それから、国軍が動くとしても1か月以上先の事だろう。
それまでには、今の国軍司令官がどんな奴か探りをいれないと。




