66 動員
昨夜は良い香りに包まれ、吸い込まれるように眠りに落ちてしまった。
ちなみにダナイデ様は眠る必要はなく、家で俺が眠っている間もずっと膝枕だ。
…寝るときは、時々添い寝してくれても良いのだけどな…
流石にそれはお願いしづらい。ミドリとテイルのポジションだし。
が、昨夜は香りに誘われるように、2人はダナイデ様に寄り添って寝てしまった。
…これは少しまずい状況だな、なんとか改善せねば…
ダナイデ様を確保しつつ、ミドリとテイルを左右に侍らせるには…
まあいい。今日1日、ゆっくり考えるとしよう。
「今日はスライムを狩ってからオリーミ公領の本拠地を散策しておこう。」
「ご主人様、本拠地はジャラランバードのすぐ北東の街、ヌーリスです。」
「それなら、十分見て回れそうだな…」
ー彼を知り己を知れば百戦殆うからずー
と云うからな。直接見ておくに如くはない。
別に俺が戦っているわけじゃないが、マーマナやダナイデ様は譲れん。
人間としての義理?と、マーマナやダナイデ様なら比べるまでもなく後者でしょ。
「ミドリさん、わたしにも教えて下さいね。」
「はい、ダナイデ様。この黄色い粉を袋に集めて…」
こういうときはミドリが説明してくれるので助かるな。
俺は新しいことだけ考えれば済む。逆に少しは俺も運動しないとダメだな。
「今日は俺も核拾いに参加するわ。」
「主さまが働くんだー、めずらし~~」
「ご主人様、疲れたらすぐに言ってくださいね。」
ミドリが行きの膝枕をダナイデ様に振る。すでに春日局の風格がある。
彼女にこんな才能が有ったとは…あと数人増えても安心だな。
………
……
…
スライムを狩り、ヌーリスへ向かう。ダナイデ様もスライム狩りを楽しんでいた。
久々に俺も運動してほどよい疲労感がある。いまはミドリの膝枕だ。
「旦那さまは、わざと数千だけしか、スライムを狩らないのですね。」
「はい。手前で漁師が漁をできればいいだけですので。」
「ナーガも1回10匹だけでしたね。旦那さま。」
「俺たちが食べるのと、多少資金が増えれば十分ですから。」
まあ、使える奴と思われると陸でもない事になる…という経験則があるからな。
組織の上の連中は、使えると見た部下を使い潰して昇進してきた奴が殆どだ。
ミドリやテイルを踏み台になど、俺が居る限りは許さない…
「主さま~~、お引越しかなーーー」
ヌーリスに近づく程、大きな荷物で街から離れゆく人々とすれ違う事が多くなる。
積年の軍事行動の負担が顕在化しているようだ。
逆に街へ向かうのは、A級B級のパーティーだ。見るからに足取りが重そうだが。
「ご主人様、ヴァーミトラさん達が居ます。」
A級B級のパーティーに混じってファルコンノートの面々が居る。
彼らまで呼ばれているとは…
「こんにちは、ヴァーミトラさん、こんなとこで何やってるんですか?」
「え!!イオリさんこそ、何故ココに…」
「俺達は、ちょっと観光に。行ったことがない場所を見に行こう…って。」
「はぁ…いつもながら羨ましいことで…」
ヴァーミトラによると、
戦況が思わしくないと見たオリーミ公が全力動員を掛けたらしい。
自領だけでなく、周辺の下級貴族、一部の国軍にまで手を回している。
A級B級の転移者パーティーにも、漏れなく通達が出ている。
ファルコンノートも元が転移者創設なので、動員されるとの事だ。
「そんな強引な事、よく出来ましたね…」
「勿論、最初で最後だと思うよ、イオリさん。資金も続くわけないし。
金蔓に期待していた綿花畑も一夜にして壊滅しちゃったしね。」
…は…は…そりゃ高濃度塩水だもんな…綿さんごめんね…
「ヴァーミトラさん、つまらない戦で無駄死には無しですよ。」
「ああ。適当に手抜いてさっさと帰るつもりさ。」
士気は最低っと…でも数は力だからな。どうしたものか。
「でさあ…イオリさん。そちらの美女は紹介してくれないの?」
「あぁ。こちらは最近懇意にして戴いているダナイデさん。」
「ダナイデですわ。旦那さまにはとてもお世話になっておりますの。」
流石年の功だ。優雅な挨拶が堂に入っている。
「ヴァーミトラです。いや、お美しい…別世界の女神のようだ……」
ヴァーミトラ…ようだ…でなくて。それ、ほぼ正解…
ヴァーミトラ達はオリーミ公の居城に入るのでお別れする。
俺達は、オリーミ公の居城をぐるっと一周してみる。
「不必要なほど高い尖塔は天守同様、威信を誇示する意味だな。」
「ご主人様、天守って?」
いかん。また独り言が出てしまっていた。
「ミドリ、天守は俺の居た世界の古城にあった建造物だよ。ま、飾りだな。」
居館もやたら高めの位置に作られていて、四方の城壁塔よりも高い。
下々の者を睥睨して自己満足に浸っているのだろう。
俺としては的がわかりやすくて有難いが。
逆に防衛施設は貧弱だ。外殻塔や城壁も薄いし低い。
空堀も水濠も設けられていない。
まあ、城壁が低いのは居館からの眺望を確保する意味も有りそうだが。
「要は、攻められる事など微塵も心配していない尊大な領主って訳だ。」
「ご主人様、ここ数十年は転移者急増で、ずっと人間側が押していましたので。」
「そうらしいな…ミドリ、これだけの規模の街だ、川が有るのではないかな。」
「主さま~、川の匂いが判るようになったのかなーーー」
大きな町は利水しやすい川の傍か、街中に川を取り込む事が多いと説明する。
「テイルの感じる力が主さまに沁み込んだと思って嬉しかったのに…」
「もっと沢山ペロペロしてくれたら、沁み込むかもしれないなぁー」
「判ったー、がんばるー」
ミドリの冷たい視線は、この際無視しておく。
各々の良さを引き出すためには、こういうプロセスも有りなのだ。
いずれミドリにも判るときがくる。




