62 作戦(3)
今日は狩りをせずに帰ってきた。夕方からゆったりと寛ぐ。
池の魚が観賞魚のように同じ向きで泳ぐのを池の縁でボンヤリ眺める。
テイルは屋上で夕日を浴びているようだ。
ミドリはミニチュア『霞網』を手造りして構造解析している。
今日は時間がタップリあるので、ゆっくり風呂でブラシングしよう。
…
…
…
「では、ミドリ、こちらに。」
「はい、ご主人様、お願いします。」
もう慣れているので、ごく自然に後ろから抱きかかえてブラシを当てていく。
思えば、ココまで来るまで遠い道のりであった…
婚約者なのだから堂々とすりゃいいんだが、俺は小心者だがらな。
「しかし、ミドリ。この世界はいろいろな魔物が居るものだな。」
「はい。ご主人様。人の前にはめったに出てこない精霊も多いと聞きます。」
「ニケ…も精霊に近いんだよな。」
「ニケはかなり特殊なようです。精霊でも鬼っ子とも云われています。」
戦の気を食べる…だものな。平和なときは冬眠でもしてるって事か…
「よし、いいぞ。では次はテイルおいで。」
「主さま~~、今日は前側も全部~~~~」
「よしよし。じゃあ、台の上でゴロゴロしながら全部ブラシしような。」
ふにゃぁ~…蕩ける~…く~~…zzz~~
気持ちよすぎて寝てしまったようだ。
しなやかな肢体。体脂肪率5%ってところかな。俺とえらい違いだ。
テイルが寝てしまったので、ミドリが俺の櫛を通しに来てくれる。
台の上で腹這いになると、添い寝のような態勢でゆったりと…
ゴン…ゴン…
ゴン…ゴン……ゴ~ン
あぁ…やっぱりなぁ…。来ると思ってた。
「お楽しみ…いや、お寛ぎのところすまぬ。イオリ殿。」
「いえいえ。たぶん来られると思っていました。グリフォンさん。」
予想通り、グリフォンがやってきた。予想外だったのは…
「どうにも気が急いてな。イオリ殿。薄暮を待ちきれず来たのだ。」
「で…その、そちらの、お美しい御方様は?」
頭に朝顔の王冠を戴く、グラマラスな美女が佇んでいる。
まてよ…この姿、なにかの絵画で見たような…ルフエーブルのニンフ!
「こちらはカザーフの森の木の精霊。人間にはドリュアスと呼ばれている。」
「ダナ◎●イデ◇■す。」
グリフォンのマンディーが通訳に入って、短時間で会話ができるようになる。
今日実施したカザーフの森の開削妨害が成功してムロータ将軍別動隊が撤退した。
その礼にわざわざ来たと云う…
「ドリュアスのダナイデ様…」
「ご主人様、綺麗な方ですね…」
「優しそうな精霊さまだ~~」
ミドリは勿論、起きてきたテイルも、初対面なのに怖がらない。
やや太めの容姿は、やはり穏やかな雰囲気を醸し出している。
「そんな、大したことでは。それに、所詮は一時しのぎですけども。」
「それでも、森は救われました。それからダナイデとお呼びください。」
「うむ。我もマンディーで良い。グリフォンのマンディーだ。」
双方の紹介がひと段落したので、また風呂の足湯に場所を移す。
「イオリ殿。お陰でセイコ・サオリの進撃を止める事が出来た。
だが、今日、新たな動きがあった。被害はでなかったが…」
マンディーが云うには、やはりJターン挟撃を目論んできたようだ。
今後は嫌がらせの効果が落ちて、長期戦になりそうと云う…
「ではマンディーさん、セイコ・サオリがJターンした時に真後ろから 『ホンの形だけ攻撃』 して、思い切り派手に勝鬨を挙げるってのは…」
「?? それに何の意味が…イオリ殿…」
マンディーに説明する。
これを繰り返せば、セイコ・サオリ以外の人間側の兵士はセイコ・サオリが負けて逃げ帰って来たと見えるはずだ。挟撃のために戻ってきたと説明したところで挟撃した戦果が上がらなければ、タダの言い訳と思われてしまう。そんな評価はセイコ・サオリのプライドが許さないだろうから、Jターン挟撃はすぐに終了するだろう…と。
「ふむう。なるほど、プライドのう…イオリ殿もそうなのか?」
「はは。俺は散々 罵倒される側だからプライドとは無縁ですよ。」
俺だけじゃない。中堅サラリーマンなんて皆そうさ。紙切れ一枚だけの表彰状、部下の居ない形だけの役職、数千円しか給与があがらず責任だけタップリ増える昇進。そんなもの誰も欲しくないっての。
「ですが、マンディーさん。これでセイコ・サオリが形だけでも勝利の体裁を造りに来るかもしれません。」
お姉さんに指摘された、第一案の一直線に突っ込んで来る可能性を説明する。
「この場合は絶対真正面で受け止めないで下さいね。大被害がでますよ。突っ込んで来る正面は放置して好きなだけ突っ込ませましょう。突っ込めるだけ突っ込んだら同じコースで真っ直ぐ帰って行きます。なので、帰り道の両サイドで待ち伏せして、セイコ・サオリが真横通ったら、ゴダン・オーディンの他のメンバーを中距離攻撃してください。適当に軽くでいいです。防具が破損してちょっと怪我する程度でいいかな。」
「イオリ殿。その有利な状況でも、たったそれだけ?なのか。」
「ええ、十分ですよ。
『セイコ・サオリの自己満足のために何故俺達が被害を…』
と、ゴダン・オーディンの他のメンバーに不満の種を撒くわけです。
険悪な雰囲気に気付けばセイコ・サオリは二度とこの手は使えない。」
「…なんとも、不思議な戦い方じゃわい…イオリ殿。」
「さらに…まあ、仕掛けてこないとは思いますが…
もしも、セイコ・サオリが突出して来ずに、単純に引いたら追いかけないでください。斥候出すのも危険です。この場合もセイコ・サオリが引いた瞬間に、思い切り派手に勝鬨を挙げましょう。同じ効果がでます。」
「相分かった。イオリ殿。来て良かったわい…」
説明している間、ドリュアスのダナイデがじっと見つめて来る。
美女に見つめられて年甲斐もなく顔が赤くなるのを感じる。
「イオリさんは優しい方ですね。
双方に被害が無いように終わらせようと、そのような工夫を…。」
「ご主人様は、嫌な相手には意地悪です。でも、それは合理的です。」
「主さま、ねーー、自分で闘えないから、いつも寝転んで考えてるの~~」
お前らなぁ…そうそう、忘れていた。
「あと、マンディーさん。俺達が黒の海に楽に行く方法ないかな?」
「ほう、黒の海にのう…」
「エルブール山脈沿いの海浜に、別荘造りたいなーーーって。」
「イオリ殿なら簡単ではないか…
マーマナに迎えに来させて小舟でヘルマンド川下ればよい。
C級やD級の魔物はマーマナが居れば何も寄りついては来ぬ。
帰りもマーマナに小舟引かせれば直ぐに帰れる。
お主達3人を曳く事など余裕じゃ。
そうじゃ、今度マーマナを呼ぶための呼石を届けさせよう。
呼石を水中で叩き音を出せば、黒の海どころか中の海でも届く。」
ほう、呼石…たしかに水中は音がよく届くが。
水棲生物のセイレーンは音を良く感知するのかもしれないな。




