56 教会
「ご主人様…」
「ぁ…うん…もうちょっと…」
…
…
「ご主人様…そろそろ…」
「あと5分だけ…いや、3分…」
…
…
「もう、しっかり朝ですよ…」
「ふぅ…朝か…」
「主さま~~。このお水ぷくぷくしてるの~~」
「ん?それ、どこから持ってきたんだ?」
「向こうの山の、白い石の隙間から一杯流れてきてた…」
「向こうの山って、あんな遠くの…」
テイルの足なら、行けるのか。天然の炭酸水だな。あの山は石灰岩か。
「その水は綺麗だし、旨いんだ。暇なときにいっぱい取ってきてくれ。」
「わかったー。」
「明日はマーマナと会う日だな。今日は依頼のあったスライム狩っとこう。」
「ご主人様、帰りはどうしますか?」
「そうだな、家も出来たし本を買いに行こうか。」
「ご主人様、有難うございます。」
「テイルは本よめないの。」
「テイルにはブラシしてやろう。」
「♪♪」
………
……
…
家が硫黄地帯に建ててあるのでアミール湖が近い。
二人とも慣れたもので3324匹を午後にさしかかる頃には狩り取ってしまう。
「ここにも誰も来てなかったな。」
「ご主人様、ヴァーミトラさんがギルドに伝えてくれたようですね。」
「では、本を買いに行こうか。」
………
……
…
ジャラランバードへ向かう。本屋は無い。
大きい薬屋には薬草図鑑、大きい教会には神話の本といった具合だ。
「ここの教会はまだ 聖ハスモーン教 ではないんだな。」
「ご主人様、エフタール王国は代々、最高神アフランを戴くザラスター教ですね。」
「最高神ってことは、他にもいろいろな神様がいるのかな?」
「はい、生有る物には全て、其々(それぞれ)の神が居る…とされています。」
…
…
ザラスター教の教会に着く。とくにお布施の要求はない。
「わりと自由なんだな…門番もなにもない。」
「はい、ご主人様。いろいろな神様が居ますので…」
ザラスター教はいろいろな神様が居るので多方面の寄付がある。
エフタール王国もザラスター教を庇護しているらしい。
戒律もゆるいのでほとんど揉め事が起きなかったと云う…
「ですがご主人様、聖ハスモーン教が生まれてからは軋轢も多いです。」
「唯一神しか認めてないんだよな。聖ハスモーン教。そりゃ揉めるわ。」
教会の中庭にある、案内所のような小屋に着く。
小屋には巫女さんが常駐している。
今日も全身を黄丹色の衣装で包んだお姉さんが対応している。
「ここで得られる本は何があるかな?」
「はい。このアヴェスは無料ですよ。」
ビラ1枚だけの簡単に覚えられる呪文のようなものを渡される。
「有難う。ほかに神々の事が書かれた本とかは無いか?」
「学者様でしたか。神々の事績が記録されているヤシュートがあります。」
「ほう、面白そうだな…それを貰おう。」
「銀貨3枚になりますが…」
「良い。必要経費だ。」
ヤシュートは辞典サイズの分厚い本で、びっしり幾多の神様が書かれている。
「ご主人様、有りがとうございます。」
「読み応えありそうだな。うん?あれは?…」
教会入口で怒鳴り合いをやっている。
はた迷惑な連中だな。遠くで数人が生暖かく見ている。
(だから、神はただお一人、ハスモーン様だけなのじゃ。)
(俺達はべつにハスモーンなんて知らねえって。)
(ハスモーン様を信じれば、たとえ罪人でも天国に導いてもらえるのだぞ。)
お、面白いことになっているな。これは俺の出番だな…♪♪
「おい、ハスモーンって神様は誰でも天国に連れていくのか?」
「は?あ、貴族様ですか。はい、慈悲深いハスモーン様は皆お救い下さります。」
「たしか、ハスモーンは最近、この世に顕現したはずだったな。」
「はい。五百数十年前、世の乱れを見かねられて降臨されたのです。」
「ほう、すると何か、600年前の人々は誰も天国に行けなかったのか?」
「え?」
「いや、600年前にはまだハスモーンは居なかったのだろう?」
…
…
「そ、そのような昔のことは、私には…て、帝国の国教会にお尋ねください。」
逃げたな…
…
…
「ご主人様…あまり深入りは…」
「主さま~~なにか良い事したのかな~~、みんな手振ってるよ~~」
こちらも軽く手を挙げて応える。
「はは、逆かな。ちょっと虐めた。」
「ご主人さま…」
「ミドリ。…まあ、程々にするから。」
聖ハスモーン教…ね。いじり甲斐があればいいんだが。




