50 困惑
ミドリの指摘に意表を突かれる。
たしかに、閉塞した元の世界に比べれば、この世界には夢がある。
なにせ税が軽いので働けば働いただけの実入りになる。
パートの130万の壁とかはこの世界では有り得ない。
労働生産性が低すぎて重税掛けられないにしても、自力救済の余地がある。
………
……
…
「主さま~、クーク湖に着いたよ~~」
いかん…ミドリも俺も 『考える人』 で固まってしまっていた。
ー下手の考え休みに似たりー
いまは目の前の課題に集中しよう。
「まずは魞のつづきを造るとしよう。テイルは桶の水を頼む。」
「わかったー。いーっぱい、にしておくねーーー。」
前回作った 『つ』 につなげて若葉マークのように竿を打ち込んでいく。
琵琶湖の魞のような綺麗な傘型ではないが、まあこれでも行けるだろう。
「よし、これで一応右側は出来たな。どんな具合か、先端の狩場を見てみるか…
ミドリ、あの網を沈めた辺りまで行ってみよう…」
この世界では誰も網での漁をしてないので、捕り放題の予定なんだがどうかな?
「ご、ご主人様、魚が…魚が溢れそうです!!どうして!!」
「お、うまく集まっているな。これならテイルが楽々手掴みで取り放題だな。」
「ご主人様、なぜ?なぜ、こんな事になるのですか?簡単に逃げられるのに…。」
「心を読むのだ…。魚の気持ちになってな。…な、わかるだろ…」
「…さかなの…こころ…きもち…」
くっ、くっ、くっ…これは止めれんな。まあ、嘘でもないけどな。
俺が読んだのではなく、琵琶湖の昔の賢い漁師さんが魚の心を読んだんだけど。
「せっかくだ、ついでに魚も数尾、持って帰ろう。テイルを連れてくるぞ。」
「…さか…な…さん…」
ミドリが完全にトリップしてしまっている。仕方ないので自分で舟を岸に着ける。
「テイル、ミドリと交代して、桶も一つ持ってきてくれ。魚いっぱいだぞ。」
「わかったー。ミドリちゃん、降りて…ミドリちゃん??」
「あ、テイルちゃん…うん、降りるね。…さかな…」
フリーズしているミドリは岸に置いておき、テイルと魞の先端に行く。
先端では魚が溢れて飛び跳ねている。
「主さま~~。お魚ぎゅうぎゅう詰めだよーーーー」
「そうだな。大きい魚5匹ほど、桶に入れて持って帰ろうか。」
「子供も可愛いから連れて帰りたいの~~」
「ああ、それなら小さいのも適当にいれて帰ろう。」
さて、魞は上手く出来たが、適当な林は…あそこが良さそうか。
「ミドリ、テイル。今日はさらに新しい仕掛けも作っておく。あの林に行こう。
木の横の…ココにしよう。ミドリ、まずはココに一本、竿を立ててくれ。
撓るので大丈夫と思うが、倒れないように深く突き刺してほしい。
ミドリ…」
「…はい。ココですね…」
ちょっと薬が効きすぎたか。
竿のもう一本は…ここらでいいかな。
「もう一本を、ココに…」
5m程度の間隔で2本の竿を立てる。いろいろな角度で2本の竿を5セット立てる。
「よし、次は網だ。ミドリ。
この糸を幅2m長さ5mちょいの長方形の網に造形してくれ。
獲物が大きめなので、大雑把な目の粗い網でいいぞ。」
…
…
「…出来ました。」
「よし、では、テイル、その横にある木に登ってこのアミの端っこを竿の上に結んでくれ。」
「わかったーー。下の端っこも結ぶのかなーーー」
「下の端っこは、網がふわふわのダブダブになるように、かなり上の方に結んでくれ。」
中途半端に中たるみのバレーボールのネットのようなものが出来る。
「よしよし、いい感じだな。他の4ヶ所も同じように張ってくれ。」
…
…
「よし、仕上げに横に棚糸を通して、中程で全体を少しだけ引っ張って全体を、ふわっと…そうそう。」
「ご主人様、出来ましたがコレは?」
「コレは霞網という罠だ。どうなるかは次来た時のお愉しみだな。」
元居た世界では禁止されていた罠なんだけどな。
多くの鳥に有効で根こそぎ捕獲しちゃうので禁止されていた程だから、こんな雑な造りでも効果は有るだろう。
「…『霞網』…」
ミドリの憂いを含んだその表情がまた、仄かな儚さを醸し出して…
よし、よし、今夜お父さんがしっかり抱きしめてあげよう。
…種明かしもその時にな。




