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46 福利厚生

「ミドリ、テイル、今日はこれからジャラランバードの町に寄る。

貴族が買い物する、目抜き通りへ行ってくれ。」


「主さま? めぬきどおりー?」

「ああ、偉そうな奴が偉そうな顔して歩いている、そういう通りだ。」

「テイルたちも偉そうにするのかなーー」

「二人は普段通りでいいぞ。俺が偉そうにするから。」


言われてみれば、何故目抜き通りとか呼ぶようになったのかな? 盲点だった。

《 あー、退屈だったー。やっと私の出番ね。 》


「お姉さん。あれだけフル回転で俺が先読みしていたのに何やってたんです?」


《 私は闘い専門なの。小難しい政治の話は守備範囲外なの。 》


「じゃ、なんで今出てくるんですかね? タダの買い物ですよ。」


《 チッ、チッ、チッ…これは闘いよ。

ミドリちゃんとテイルちゃんの心を、がっつり鷲掴みにする立派な… 》


手を振ってお引き取り戴く。

お姉さんが絡むと、面倒な予感しかしない。

目抜き通りを荷車リヤカーで堂々と進む。行きかう人がチラチラ盗み見してくる。

ふっ。…ケツの穴の小さい連中め。

そうだ!!、突き抜けるほどかぶいてやれば、うざい連中も絡んでこなくなるか。


「あ、テイル、そこだ、その店に入るので止めてくれ。」

「?ご主人様、ここは貴族のお嬢様相手の、アクセサリーショップですが…」

「うむ。それで良いのだ。二人とも、一緒に入るぞ。」


今回は3人とも立派な衣装なので、スムーズに店員が揉み手で出迎えてくれる。

軽視する向きもあるが、衣装で無駄なトラブルを回避できるなら整えるべきだ。


「まずは、このミドリが使用する、髪留めを見せてくれ。」

「はい、おおお…ドワーフでストレートヘアーとは素晴らしい。」


珍しく、ミドリがニヤついている。所詮は16歳だからな。


「ミドリ様…。

なるほど、それでお召し物もグリーンで統一なさっているのですね…

それならば…コレ、この翡翠ひすいをあしらった髪留めは如何でしょう?」


言われてみればグリーン系が多いな、ミドリは。全然気が付いてなかったぞ。

店員がミドリに髪留めを付ける。左右に1個ずつのお揃いだ。

2個セットで売り込む手際は抜け目がない。


「おお、良く似合っているぞ。左右2つ括りで前に垂らした姿が実によい。」

ミドリも気に入ったようで、珍しく右に左に、鏡の前で振り返っている。


このスタイル、学生時代に俺の心を卍固めにした決め技なんだよな。

この、見え見えの 『あざと清楚さ』 が男子に密かに絶大な支持があったのだ。

女子には 『男子に媚び売って…』 と不評だったがな。

だが、効果的とわかっていて採用しない、無駄に意地張る女子が悪い。

やらない善よりやる偽善のほうが、数段勝るというものだ。


「よし、ミドリはそれで決定だな。

次は、コチラのテイルだ。尻尾の根元の方を飾るリボンが良いかなと思っている。」


「テイル様。これはまた、見事にお手入れされた美しい尻尾ですなあ。

それならコレなど如何いかがでしょう。

止めの部分には鮮やかな黄色のトパーズを用いています。

黄色と濃いブラウン、白の3色ストライプのちょっと大きめの蝶型リボンを装着しますと…

ね、どうです?…尻尾の毛色とのコントラストが絶妙でしょう。」


「うーむ、見事だ。リボンはシャか。さすが専門家だな。どうだテイル、付け心地は?」

「全然邪魔にならないし、綺麗だからコレ好きーーー」


うむ。さすがテイル、まるでおくさないのが良い。

こういう大型のアクセサリーを身に着けるのは勇気がいるものだが。

深く考えないので、さも当然のように馴染ませてしまっている。


「おリボンは交換用の予備も付けておきますね。また、御贔屓に~~。」


………

……


「ご主人様、このような贅沢よろしいのでしょうか。」

「よろしいのだ。二人は良く頑張っているからな。成果を共有するのが合理的…だろ?」

「主さま~~、似合ってるかな~~」

「うむ。良く似合っているぞ。その尻尾の動き…も良い。」


テイルが尻尾をくねらせている。

そそりまくりだろ…まるで求愛ダンスのようだ。

「ご主人様、あれは・・・」


大通りの真ん中を我が物顔に歩く一団がやってくる。

十二単じゅうにひとえを彷彿させる、ご大層な衣装の一団だ。

いや、この地域であれは暑すぎるだろ。庶民は貫頭衣で平気な気候だぞ。


(アモール司祭よ、都会は倫理が崩壊気味じゃの…)

(司教さま。なればこそ、我々が足を運ぶ意味もあろうかと…)

(アモール、見よ。獣人にあるまじき衣服、さらには、あの華美な装飾品を。)

(まことに。ジャラランバードの唯一神教会設立、急がねばなりませぬ。)


あーはいはい。わざと聞こえよがしに言ってもね。相手が悪かったな。テイルだぞ。


「なーミドリ、このくそ暑さ、貫頭衣でなくて良かったなあ~」

「はい。ご主人様。こういう日こそ、薄着が合理的です。」

「何枚も暑苦しい服重ね着する奴らの気が知れんなあ~。」

「はい、ご主人様。知性があれば、そのような事は致しません。まったく非論理的です。」


さすがミドリだ。まったく感情のこもらない声で言い切った。

狂信者とミドリは対極の存在だからな。

挨拶としては十分だろう。


(ふん。ドワーフ風情が。酒だけ飲んでおればよいものを…)

(プレーナ司教さま、ここは化外けがいの地なれば。こらえて下さりませ。)


あれが、ミドリが言っていた 『神権・聖ハスモーン唯一神帝国』 とかのお偉いさんか。

彼らの信仰の対象は神ではなくかねだな。

神へ本当に奉仕しているなら、こんな都会でなく辺境の貧しい村に行くだろうよ。

わざわざ金の匂いのする都会で教会造る意味はひとつしかねえから。


「下らねえ…。ミドリ、帰ったらげん直しに一杯やるか。」

「ご主人様、それは実に合理的です。」

「主さま~~、なにか嫌な事あったのかな~~」


くっ、くっ、くっ…ほらな。

テイルの耳に念仏…って、あいつら祈りなんてしてねえかもな。













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