33 視察
「ご主人様、最初から帰りは乗る予定だったのですか?」
「勿論そうだ。当然、考えて居た。」
「なるほど………。 合理的です。」
なんだ、その間は…
「主さま乗せて引っ張るの~~」
ふっ。まあいい。こういう事は堂々と中央突破する方が上手くいくものさ。
32歳の経験値は小娘では計り知れない奥行があるのだ。
しかしセイレーンとはな。それに謎の魔物まで。
ギルドマスターに聞いてみるか。
………
……
…
「例の川にまた見に行ったんだが、セイレーンが居たよ。」
「なに、セイレーンだと。珍しいな。たぶんそいつは幼体だな。
セイレーンは基本海に居る魔物だ。
だが、幼体は川に上がってきて小型の魔物を餌にする。
幼体でも戦闘力はB級だから、近づかないほうがいいぜ。」
ほう、そういう生態なのか。
「群れたりはしてない感じだったな。」
「ああ。セイレーンだけでなく、B級以上はめったに群れないな。
群れると餌の調達が苦しくなるからな。」
食物連鎖の上位に居るから群れたくても無理なわけか。
元の世界でも虎や鷲は孤高だったしな。ま、ライオンみたいなのも居たが。
「そうなると、ナーガはしばらくお預けだな…」
「それがいいぜ。それとB級狩るとB級に上がっちまうから気をつけろよ。」
「それはそうと、今日はえらくザワついているな。人も多い。」
「今日は軍の偉いさんが視察に来るんだ。AB連中が売り込みに顔出ししている。」
「わざわざ売り込むのか。物好きだねえ。」
「まあ、そう云うな。
戦果報酬が別途支給されるし、一応、軍の支援もなくもない。建前ではな。
少なくとも軍が居る場所は退路になる。頼りない退路でもな。」
ああ。そういう考え方も有りか。
(おい、来たぞ…)
(今日の視察はドーストン家のアーミル将軍…か。ハズレだな…)
(チッ。ドーストンならフアルコンノートが収まってるだろうに。)
(何しに来たんだ?フアルコンノートの捨て駒は御免だぜ…)
「ヴァーミトラ、彼がそうかね?」
「ええ。彼が『残り福』のリーダー木村伊織さんです。」
え?俺なの??
「初めまして、イオリさん。私はドーストン侯爵直属、近衛騎士団長アーミル。
このヴァーミトラから貴方の事をお聞きしています。
日が浅いので低ランクだが類稀な戦果を挙げているとか。
一度、ゆっくりお話しがしたいと思いましてな。」
「もうご存じでしょうがヴァーミトラです。私からも是非一度お茶でも。」
「これはご丁寧に。木村伊織です。…が、買い被りですよ。
見てのとおり、体格も装備も貧相なD級です。
とてもとても侯爵家のお手伝いができる実力などありませんよ。」
「いやいや、余人はともかく、このヴァーミトラの目は誤魔化せませんよ。
スライム数千匹。1日で狩れる量じゃありません。
たとえ範囲魔法使っても100や200まで。5発も全力で撃てば魔力切れです。
弱点の氷魔法で薄く広くかければなんとか届くかもですけどね。
だがそれでは氷を砕いて核を取り出すのに手間も時間も足りない。」
ふーん、シミュレートしてるんだ。真面目な優等生タイプか。
「いや、うちの子が優秀なので、働きやすい職場にしてるだけでして。」
嘘じゃないぞ。
「まあ、今日はそれぐらいで。ではまた機会があれば使いをだします。」
「私も個人的にでも、ぜひ一度…
フアルコンノート、大抵は下屋敷のレストラン、ラ・メゾンに居ますので。」
(おい、わざわざ『残り福』に繋ぎつけに来たのか?)
(イオリ、もしかして、思ってる以上に大物なのか?)
(いやあ、違うだろ。フアルコンノートの捨て石にしたいだけだろ。)
(でも、捨て石相手にわざわざ正式に名乗り上げるか?)
(ったく、最近わかんねえことばっかだな…)
ヴァーミトラか。
困ったな…人間は悪くないんだろうが、違うんだよな。
《 目つけられちゃったみたいね。 》
「ああ、お姉さんか。どう思う?」
《 侯爵家近衛騎士団長が相手じゃ、お誘いきたら行くだけ行くしかないわよ。 》
「だなあ。向こうも正規の手順踏んできてるから、面子あるしなあ。」
《 こっちも行くだけ行って、堂々と断ればいいんじゃない? 》
「それが一番よさそうだな。ゴルフとか全部断ってたのにな。転移前は。」
《 お茶とか言ってたし、スカッシュとか蹴鞠じゃないだけマシでしょ。 》
蹴鞠があったら逆に見てみたいわ…
「だな、まあ、旨いお茶だしてくれたら味覚も共有できるんだろ。
しっかり味わって飲むとするかな。」
《 そうね。お茶菓子がでたら、ちゃんと食べてね。 》
………
……
…
「ミドリ、テイル。服が早速役に立ちそうだ…」
「ご主人様何かあったのですか?」
「A級を抱えている貴族。ドーストン侯爵家とかのお偉いさんに目つけられた。」
「え?でも、私達D級ですよ。」
「ああ、だから堂々と断るつもりだ。
正式に呼ばれたら皆で行くことになるので、そのつもりでいてくれ。」
「テイルも行かなきゃダメなの~~?」
「テイルはついてきて、飲み食いだけしてればいいからね。」
「だったらいく~~」
「ドーストン侯爵家…」
「ミドリ、なにか知っているのか?」
「いえ、噂だけですが、あそこは貴族でも評判が良いです。
転移者を金で雇ってごり押しするのでなく、コツコツ自前の兵団整備してるとか。
転移者には儲け口にならないので不評ですが、平民とかには人気があります。」
「フアルコンノートを抱えているそうだが。」
「フアルコンノートは今は転移者は居ません。創設者の転移者は戦死してます。」
ほう?ヴァーミトラは2代目か。エルフだしな。当然、転移者ではないか。
「ドーストン侯爵家なら無茶は言ってこないと思います。」
わからんぞ、民受けの良い奴は身内に無理な負担かけていることが多いし、
一般人に評判が最悪な奴は官僚に受けが良かったりするからな。
まあいい。
せめて給仕ぐらいは可愛い獣人メイドを期待しよう。




