191 終わりの始まり
今、俺はこの世界での最後をダナイデの膝枕で迎えようとしている。
といっても、体組織の半分以上はすでに植物性の代替部品だ。
この400年ほどの間に本来の体組織の殆どは朽ち果て、ダナイデ製の交換部品に置き換わっているのだ。
神経細胞の交換はさすがのダナイデでもできないようで、騙し騙し保たせた脳細胞も寿命がきている。
「今日も穏やかな海だな。ダナイ…」
「はい。森も穏やかですよ。」
黒の海で俺の子孫になるらしいメガロドンと300年以上前にマーマナから生まれたセイレーンが仲良く泳いでいる。
塩湖に閉じ込められていたメガロドン達は200年かけて造った水路を通り外海にでられるようになっているのだ。
「テイルが逝ってもう380年ほどになるか。」
「そうですね。383年ですね。」
獣人の寿命が人間の半分もないと知らず、気がついたときには屋上で朝日の中で逝っていたのだった。
「テイルの炭酸水は美味かったな…」
「はい。最期に採ってきてくれていたのは樽入りで大量でした。」
テイルは樽を抱え込むようにして眠るように逝ったのだ。
「ミドリの孫は元気にやっているのかな。」
「旦那さま、またそのような言い方を。貴方の孫ですよ。」
ミドリは戦後、ニザーミ様の元でミテオと共に側近として仕えることになった。ニザーミ様はすでに数代前の王だが名君として名を残している。
「エフソス様とは結局あれ以後音沙汰なしだな。」
「旦那さまからコピーした戦史を毎日じっくり堪能していて、ずっと引きこもっていると聞きます。」
ああ。あのコピーはきつかった。すでに賢者タイムに入っているのに強引に再起動させられるような、あの感覚は男でしか理解できないだろう。まさに全てを絞り尽くすように吸い取られた。
「そういえば、グリフォンのマンディーにもついに子が生まれたそうだな。」
「ええ。長命種ですので200年の妊娠期間を経て、やっと生まれましたよ、旦那さまの御子が。」
「顔は俺に似ているのかな。」
「まさか。人型の表現型が出現するのは数世代あと、2万年後ぐらいでしょうね。」
「それは良かった。当分虐めに合わずに済みそうだな。」
「大爺さま、呼んだ?ちょうど炊きあがったからついでに持ってきた。」
ベレヌイの曾孫だったか玄孫だったか…一族の中で一番懐いている幼女が赤飯を持ってきてくれる。
あの河原で手に入れた古代米もいまでは普通に栽培されている。
文字通り、正真正銘の赤飯だ。
「ああ、お前はよく懐いてくれたのでな。ここへ。今日でお別れだがダナイデ様を大切にな。」
「大爺さまはどこにいくの?」
「どこかな。運が良ければ物好きな別の創造神が新たな世界に飛ばしてくれるだろう。」
「そうか、それで赤飯でお祝いするんだね。」
「ああ、そうだ。だが、この世界ほどよい膝枕はないだろうけど…な…」
「どんな創造神さんかな。」
「それは、たぶん、いつも小馬鹿にしていた歴…し…」
…
…
ここは?
《 お主が呼んだのであろうが。 》
呼んだ?
《 散々小馬鹿にしおって、忘れとるのか? 》
まさか、歴史の神?
《 ワシの管理してきた歴史に挑戦したいのじゃろうが。捻じ曲げられるものなら曲げてみせよ。その小賢しい知恵一本でな。 》
…
…
次回から、新たな構想で別世界に伊織を飛ばします。
より現世の歴史にちかい、戦国時代の予定です。
山崎の戦い直前の明智光秀に転移した伊織は果たして生き残れるのか。
ファンタジーのご都合キャラもなく、内政チートの余裕もなしの過酷な初期状態。
歴史の創造神のスキをつくことが可能かどうか、再起動の日まで皆様お元気で。