175 主力
「旦那さま、マーマナの方も敵船に接触したようですわ。攻撃を始めるようです。」
黒の海のほうでも、塩湖から一呼吸遅らせて帝国がやってきた。恐らく塩湖でこちらの飛行部隊を引き付けたのを確認して出てきたのだろう。連絡方法は謎だが。こちらには飛行部隊は配置されていないのでセイレーンとアスピドケローネでどれだけ削れるかだが…
「敵船はものすごい数のようですわ。数えきれないと言ってます。攻撃自体は上手くいっているようですが。」
セイレーンは予定通り舷側を炎上させているようだ。こちらは上甲板を燃やすのと違って結構なダメージになる。もし左右両側を炎上させられれば、酸欠状態になるので船を放棄するしかなくなるだろう。
「旦那さま、敵が細長い筒を持ち出してきてセイレーンの周囲になにかが飛んできているようです。どうしますか?」
筒…前にテイルが見たアレか。何かの銃器を造ったようだな。
「銃だな、危険なのでセイレーンは一時退避。セイレーンは夜を待って攻撃再開と伝えてくれ。セイレーンの退避完了後にアスピドケローネは敵船団の側面から呼吸を合わせて波を起こして攻撃。」
「ご主人様。体当たりでも転覆しない船ですが、波で効果が有るのでしょうか?」
「ミドリ、船は横波には弱いんだ。大波が来れば舳先を波のくる方向に向けないと流石に転覆する。ちゃんと舳先を波に向ければダメージは無いが、その分進撃が止まる。アスピドケローネもいつまでも波を送り続けることはできないだろうけど、かなりの時間稼ぎにはなるだろう。」
「旦那さま、さきほどの銃とは?」
「実物をみてないので詳しくは解らないが、以前テイルが港で見た筒の事だろう。細い金属製の筒に金属の弾をいれて、火薬の爆発を利用して弾を打ち出しているはずだ。長い筒だからそこそこ命中率もいいだろう。弓矢の数倍の威力があるはずだから射程内に入るのは危険だよ。」
「それで、暗くて狙えない夜に攻撃を…」
「うん。黒の海方面はどうやら補給船も一団となって押し出してきているようだ。海面上だけで撃退は難しいな。補給船と戦闘用の船の見分けがつかない。とりあえず片っ端から攻撃するしかないな。積み荷の荷下ろしが終われば補給船は戻るだろうから、戻る船が出始めたら優先的にそれを狙う。」
「荷下ろしに成功する船が多くなると、戦いが長くなりますね。ご主人様。」
「そうだな。敵もそれを狙って最初にありったけの船で突っ込んできているのだろう。」
「戦闘用の船も補給に戻る事は無いのですか?」
「流石に弾薬を野ざらしで海岸に積み上げることは出来ないからな。使った分をすこしずつ船から取り出さないと、丸ごと爆破されたらおしまいだ。」
「なるほど。それで帰る船は補給船だけと…。」
「旦那さま、いくつかの敵船は転覆したそうですが、他のほとんどは舳先の向きをかえて波を乗り切っているそうです。」
「そうか。アスピドケローネは敵船が向きを変えている間は休息。再進撃を始めたらまた波を送ってできるだけ嫌がらせをしてくれ。」
「主さま~~、いつもは嫌がらせのとき楽しそうだけど、この嫌がらせは面白くないの~?」
「テイルには隠し事ができないな。残念ながら、今回はいつものような余裕が無いからな。」
「伊織、状況はどうだ?」
「ガラディーも上がってきたか。まだ見えないが一進一退だな。せっかく来てくれたんだ、このまま監視に加わってくれ。しばらくすれば視界に敵が入って来るだろう。目の良いベレヌイとガラディーが遠くの状況を見てくれると助かる。」
「そうだな。敵が接近するまで暇だしな。しかし、凄い石の壁だな。伊織は石も造れるのか?」
「これは石を繋いで隙間を埋めてあるだけだ。だが、強度自体は石と変わらない。」
「そうなのか。隙間が全くないので、大きな石を繰り抜いたのかと思っていた。」
「旦那さま、アスピドケローネが大波を造れなくなったので一旦休憩するそうです。」
「わかった。またお願いする事になるのでしっかり休んでくれと、伝えてくれ。」
「帰りの船を足止めして殲滅するのですね、ご主人様。」
「ああ。一団となって突っ込んで来る最初の船団は殲滅できないが、バラバラで往復する補給船なら足止めしながら虱潰しで燃やせるからな。空船だから転覆しやすいのでしっかり波をおこせばけっこう転覆させられるかもしれないし。」
「正面の敵はあまり攻めないのだな。後方を主に攻めて。伊織の世界ではこれが普通なのか。」
「そうだな。正面の敵は装備もしっかりしているし武器も多いからな。敵の比較的弱い部分を攻めるのが普通だな。」
「そうか…。これだけの大軍だし仕方ないな。」
まあ、第一次大戦までは守備側優位だったけど…。この世界ならまだ塹壕戦での睨みあいもギリギリ有効だろう。塹壕戦は戦車の登場で効果が激減したけれど、今回はどうかな。まさか戦車まで準備してきてる?って有り得るか?戦車でなくても、空堀を仮設橋で渡るとかしてくるだろうか?
「旦那さま、いまからご心配されても仕方ないですわ。先は長いので見てからでも宜しいのでは?」
「そのとおりだな。いまさら悩んでもしかたないか。有りがとう、ダナイデ。」