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168 教義

「んぐっ…んぐっ…んぐっ…ぷはーーーーー、生き返るわー」


「ふお、ふお、ふお、良い飲みっぷりじゃ。伊織殿は飲みなれておられるのう…」


「ん、そうなのか?」


「この国では、ビエールは薬扱いで取引されているだけでのう。薬を一気飲みする病人はそうはおらぬ。どれ、まだ薬が足らぬようじゃ、もう一杯飲みなされ。」


「うむ。ひどい筋肉痛なので助かる。ビエールだけでなく酒類は薬扱いなのか?」


「一応そうなって居る。嘆かわしいことじゃ。本来聖ハスモーン教では禁酒など無いのじゃが。」


「なに?そうなのか?」


「そりゃそうじゃ。大地の恵みを何故禁じる必要がある。それでは酒神に顔向けできまい。」


「酒神って、おい、唯一絶対の神に酒限定っておかしいだろ。」


「何を言って居る。色々な神が居るのに決まっておろうが。たった一人の神になにができる。そんなことすれば落ちこぼれだらけじゃ。」


「………」


「うーむ。伊織殿はなにか誤解して居るようじゃな。聖ハスモーン教の唯一絶対の神というのは個々人が選択した神はただ一人という意味じゃぞ。酒神も戦神もといった厚かましいことはするな…という意味じゃ。ほかの神も尊敬するのは当然じゃが、コロコロ浮気はよろしくないという事じゃ。」


「ほーう。するとどの神様を主に信仰するかは自分で決めるのか?」


「本来の聖ハスモーン教はそうじゃ。」


「本来の…か。」


「…枢機卿どもがの。神の取次を自分達に一本化するために唯一の意味を捻じ曲げてしまっておる。」


「権威を集中させるためか。」


「しらぬ。国としての政の必要からだと言われれば、儂はなにも言えぬのだ。」


「それじゃあ本来の聖ハスモーン教は爺さんしか知らぬのか?」


「いや、ここに来た熱心な信者は皆わきまえておる。」


「教団幹部たちか?」


「枢機卿の手下どもがここに来るわけなかろう。普通の兵士、普通の子供、普通の農民、そういった者も馬鹿ではない。枢機卿の云いざまに疑問をもったものがここに来るし、ココに送り込まれてくる。」


「送り込まれる?」


「枢機卿の云うことの教義上の矛盾に気がついた者の相手は枢機卿も嫌という事のようじゃな。真面目に信仰している者の相手は疲れるのじゃろう、連中に信仰心は無いからの。」


「なるほど。で、階段に埃が結構積もっていたが、今までに何人ぐらいがここに来れたんだ?」


「そうじゃのう、ざっと1000人ほどかのう。」


「爺さん、60歳こえてるだろ、40年ちかくかかって1000人かよ。」


「仕方あるまい。自分で考えられぬ盲目的な信者のほうが圧倒的なのじゃ。じゃが、その1000人がこれはと見込んだ者には本当の教えの意味をこっそりと広めておるので、その数倍は正しい信仰を得ておる。だからこそココも維持されておるのじゃ。」


「なるほどな。もう一つ聞きたい。俺の居た地域の一神教では命は神からもらったものだから自殺は禁止されていたが、そこらはどうなんだ?」


「ほう、知っておるのか。帝国は厳しい気候なのは知っておるの。そこで生まれた聖ハスモーン教も人命は貴重じゃ。必然的に自殺は思いとどまらせる方向で発展してきておる。命は神の物…とまで傲慢な考えではないが、自殺は神を悲しませるので思いとどまるように…という教えになっておるぞ。」


「それは枢機卿のほうでも同じなのか?」


「枢機卿はもっと強引じゃがな。なにせ死なれては徴税できぬからの。」


「なるほどな。爺さんとは気が合いそうだ。」


「…おぬし、いったい何故ココにわざわざ来たのじゃ。すでに聖ハスモーン教の教義は十分理解できておるではないか。おまけになにも悩みも迷いも無いじゃろう。」


「悩みも迷いも無いが、預言と頼みはあるぞ。」


「預言じゃと?お主の神からなにか託されたと言うのか?それでは枢機卿と同類になるぞ。」


「いや、託されたのは俺の理性からだが。」


「傲慢な奴じゃな。神など信じぬ、信じるのは自分だけか。で何が云いたい。」


「それは……」



旦那イオリさま、どうですか、楽になりましたか?」


「ご主人様。総大司教に会いに行って何故最高級ビエールの匂いを充満させて降りてきているのでしょう?」


塔を降りてダナイデに膝揉み治療を受けている。だいぶマシになったがまだまだ不足だ。一晩は治療してもらわねば。


「総大司教はなかなか話せる爺さんでなあ。最後は二人で酒盛りになった。」


「伊織さん。どうしたら総大司教と酒盛りになるのか、じっくり説明いただけますかね?」


「ヴァーミトラさん、聖ハスモーン教の内部もいろいろあるということですよ。でもまあ、聖ハスモーン教が俺の居た地域の一神教と根本的に違っていて助かった。40年に渡る総大司教の地道な活動に助けられるかもしれません。」


「総大司教を味方に抱き込めたのですか、ご主人様。」


「それは無理だ。だがお互いに利のある部分では一致できるということだな。」


「伊織さん、それじゃあ総大司教についての国王への報告は?」


「今は無理だな。会談は成功した…中身は聞くな…とでも言っておいてください。ヴァーミトラさん。」


「あのー、私も立場があるのだけど…」


「大丈夫。王様もヴァーミトラさんにそこまで期待していないから。事実だけキッチリ報告すればOKですって。」




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