166 ヴァーミトラ覚醒?
お姉さんの意見も聞き終えて、帝都行きの馬車に乗り込む。今日は諦めがついた…いや…回復したヴァーミトラが同乗している。
「しかし伊織さん。傍目に見ても結構ヤバい橋渡っているのに、いつも丸腰同然ですね。王都の時だって王様のご下問待たずにいきなり話したり…その場で手打ちにされても不思議ではないんだけど。」
「まあ、そこらは一応保険かけてますよ。ヴァーミトラさん。あの場にはニザーミ様が来てましたし幼子の前で無礼討ちはしたくてもできないでしょう。それに私が長剣とか佩刀していたとして役に立つと思いますか?」
「それは、まあ、さほどの役には…」
ここからはヴァーミトラと馬車の隅っこでひそひそ話だ。
「…それにうちの嫁はミテオはともかく、他は皆強いからね。ベレヌイは一騎当千だし、テイルも本気出せばとんでもないですよ。ダナイデもああ見えて実はうちで最強だし。ココに来ていない他の嫁も皆A級以上の実力だから大丈夫なんです。」
実際グリフォンもメガロドンもA級だし。あ、でもマーマナはB級だったか。
「えっ?テイルさんやベレヌイさんは体格みても強そうだとは思いますけど、ダナイデさんが一番なんですか?」
「見かけによらないよねー。時々ダナイデに粉かけにくる貴族とかも居るけどいい度胸だと思うよ。1秒後に大木で串刺しになってても可怪しくないのに。」
「ダナイデさん、魔法タイプなんだ…でも魔力とか感じないんだけど…」
「彼女だけしか使えない技だから、だれもその力は感知できないんですよ。」
「そうだったんだ…でもよくそんな人とご縁がありましたね。まあ、魔物と交渉までしちゃう伊織さんならお顔は広いにしても…」
…
…
「あの、旦那さま。殿方同士でこそのお話があるのはわかりますが、あまりに露骨ですと如何なものでしょうか。」
「あ、いや、これはすみません。ついその話が横道にそれてしまい……」
ダナイデに筒抜けなのを解っていて喋っているとヴァーミトラは知らないからな(笑)。でもまあ、ある程度うちの嫁の凄さを知っていてもらったほうが、敵地での行動でのミスも減るだろうから。本当はメガロドンに乗せてもらって塩湖渡りとか見せてやりたいけど、まだ早いかな。
「それはそうと、伊織さん。総大司教からの返信がきまして、面会は到着日の夕食会と云うことになりました。夕食会と言っても聖ハスモーン教中央教会の専用室で、余人を交えず1:1での夕食会だそうです。」
「え?そんなまるで密会まる出しでいいんですか?」
「それが、なんでも聖ハスモーン教の奥義伝授は必ず総大司教と1:1でなされるとの事で、それが当たり前なんだとか。今回は聖ハスモーン教の手ほどきという名目ながら、エフタール王国公式使節の団長という事での特例だそうですよ。」
これはラッキーだな。相手は幽閉状態とは云え、名目上は組織の頂点だから側仕えの連中に話が漏れるのを苦慮していたんだが、なにもせずとも良くなった。
「なんと、そうだったんですか。」
「なんでも、聖ハスモーン教中央教会には奥義伝授に使う専用室が設けられていて、それは中央教会にある ベルクフリート最上部だそうです。」
うへえ。どうせこれ見よがしに無駄に高い尖塔だろ。俺一人だから自力で尖塔登山する羽目に…
「専属の魔法使いが尖塔最上階まで連れて行ってくれる話とかは?」
「あるわけ無いです。」
そうだ、ヒュドラの時みたいにテイルに背負ってもらって…あれ、テイル居ないな…
「テイルさんは馬車の屋根の上に行きましたよ。旦那さま。尖塔ですか、お勤めご苦労様です。くるくる螺旋階段回っていくと思いますので目を回して落ちないでくださいね。」
「伊織さん、まだ32でしょ。60才越えている総大司教が歩けるんだし、大丈夫ですって。」
だめだ。ヴァーミトラには俺の嫁の事を知ってもらう前に、俺自身の事をよくよく知って貰うべきだった。
ん?いやいやいや、なんか可怪しくないか?ヴァーミトラをみると微かに口の端が震えている。糞、ヴァーミトラの奴、昨日の腹いせに図ったな…
「ふーん、ヴァーミトラさんそーいう奴だったんだ。」
「そーいう奴に覚醒させていただきました、それもコレも伊織さんのお陰です。」
「旦那さま、良かったですね。気心の知れたお仲間が増えて。」
くっ、ダナイデもヴァーミトラの心読んで一枚噛んでいたのか。テイルを屋根の上に予め移動させていたな。
「旦那さまも多少は運動されたほうが良いですよ。それに丸腰の旦那さまが1:1で囚われの総大司教と会われることにも意味がありましょうし。」
む。俺の命が総大司教にとっての保険という事か。ヴァーミトラとは思えん手際の良さだな。
「伊織さんに教えてもらった用間ですよ。ダナイデさんって、ほんと凄いですね。」