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162 幽閉

サフランの公演を終えて次の予定地のトレゾントへ向かう。サフランの役人は意外にも袖の下の要求はなかった。さすがに国賓相手なので自重したのか、あるいは、奴がきっちり釘刺していたのか。なにもかも奴が一枚噛んでいるような妄想に駆られそうに成る。


「いかんな、どうにもあいつが気になってしまう。」


「あれれ、伊織さんでもそんな相手が居るんだ。」


先の依頼の件で、今はヴァーミトラも同じ馬車に同乗している。


「まあね。ヴァーミトラさん程ではないですが、それなりに気になる人は居ますよ。」


「また女性ですか。」


ん?俺はヴァーミトラにどういう人間として認識されているのか…いつかミドリとその背後に居るダナイデに完璧に管理されているマスオさん状態だと説明しないとダメだな。


「残念ながら、陰気で目付きの悪い青年ですよ、昔の俺みたいな。」


「陰気だったんだ…目つきは今でも時々悪くなりますね。伊織さん。」


「主さまは、匂いも悪くなるときがあるのーー。」


「…で、ヴァーミトラさん。えーっと、総大司教だったか。面会はできそうですか。」


「そうねー。昨日の今日で、まだ返事は帰ってきてないですが、まず大丈夫っぽい手応えだったですよ。全くと言っていいほど政治と縁切りされているようで、純粋に信仰に影響が出る場合、たとえば外国に教会をつくるような…そんな時ぐらいしか、枢機卿とも会わないとか。おまけに一般人の前に出ることも控えるように枢機卿に釘刺されているようでね。当然たいてい暇だそうです。」


なるほど。国の実権を枢機卿が握っている体に一般人には思わせておきたいだろうからな。枢機卿の政治と齟齬が出る発言を総大司教にされたら困るってことも有るか。逆に言えば、総大司教の影響力はそれだけ大きいわけだ。


「…というのが、公式発表なんですけどね。伊織さん見習ってちょっとお土産握らせたらだいぶ違ってました。」


「…お土産ね…」


「ええ。出る前に国王陛下から直接工作資金だって渡されちゃって。こんなのやったこと無いから困っちゃってたんですよ。全然使わないで持って帰ったら馬鹿丸出しだし。何処で使っていいのかも解らないし。なのでやっと出会えたチャンスなので、そこそこ握らせたんです。」


「へー。そのままヴァーミトラさんのポケットに…とかしないんだ。」


「伊織さんと国王陛下の遣り取り目の当たりにしてなければ、それも有りでしょうけど、アレ見ちゃったら無理無理。国王陛下が怖いと思ったのは初めてですよ。たぶん、内務卿もびっくりしたはずですよ。」


「まあ、国王陛下覚醒しちゃったみたいだからねー。で総大司教は?」


「総大司教の実態は幽閉状態らしいですよ。ほんの少しの腹心が毎日の食事を運んだりして仕えているだけで、現実には教団の事まで枢機卿が無断で好き勝手やってるようです。ときには総大司教の名前も使って。」


なるほど。有りがちだな。それでも中堅役人は現実路線の枢機卿のほうが、ガチガチ信仰最優先の総大司教よりもマシという事なんだな。


「なるほどねー。いやあヴァーミトラさんもやるもんですね。お陰でかなり帝国の実態が見えてきましたよ。こういった裏工作はヴァーミトラさん指名しようかな。」


「無茶言わないでください。ヴァーミトラはまだ結婚もしてない身の上なんですよ。貴族の暗殺の的になるのは絶対イヤだから。」


「パーテイーのメンバーが美人揃いなのになぜ結婚してないんですか?全員、嫁にすりゃいいのに。」


「テュロスちゃんはいい子だよーー。ヴァーミトラさん。」


「テ、テイルさんまで。いい子は解ってますが…」


「ああ、キッカケがないんだ、それなら今度アーミル将軍に頼んでおきますよ。いや、そうだな、将軍なら 『ファルコンノートの実力を十全にひきだすためには、全員をヴァーミトラの嫁にするしかないっ!!』 って言ったほうが効果的かな。」


「い、伊織さん、それ冗談で済まなくなるから絶対ダメ。」


「残念。ヴァーミトラさんは俺の手引ではお気に召さないらしいので、テイル、直接テュロスちゃんにこの遣り取り連絡しといたら?」


「わかったー。ヴァーミトラさん、もう安心だから任せておいてーー。」


「ちょ、テイルさんも伊織さんも、ホント、やめて。」


「ふふ。まあヴァーミトラさん、すでに大きく王国は変わりつつ有りますよ。冒険者で低級魔物狩りして生計を立てるような時代じゃなくなる。いち早く国王陛下の懐刀になって裏方とは云え公務員になったほうが絶対将来が明るいって。もう、腹括りましょう。アーミル将軍はもうルビコン川渡ってますよ。」


「? ルビコン川って、三途の川の別名ですか? でも、確かに冒険者の時代じゃ無いとは薄々思ってたんです。伊織さんがスライム大量狩りしてた頃から。」


「そうそう。それにすでに国王陛下の目として同行してるし工作資金まで託された。ヴァーミトラさんはとっくに現国王側近の一人として色分けが終わってます。いやあ、国王様もなかなかえげつないですね。見事な人攫いだ。」


「…そうかー。俺はもう、国王陛下に退路絶たれていたんだ。…はぁ…国王様ひどい。」



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