16 凱旋(1)
作戦は見事に成功して、猪が1頭穴の底でもがいている。駆け寄るミドリを制して落ち着かせる。
「まだ暴れている。コレを放り込んでしばらく待て…」
白い欠片を袋ごと渡す。ミドリが投石のように力いっぱい投げつけている。教えておくか。
おっさんにした説明をミドリに聞かせる。…膝枕で。
「ご主人様、すごいです。論理的必然なのですね。さすが 【固有スキル】 読(3) です。」
いやいや、読(3)全然役に立ってないから。
すごい…だけ受け取っておく。下から見上げるミドリの膨らみも意外にすごいぞ。
「ではそろそろ村に帰るか。」
ミドリが手早く血抜きして、穴掘り棒を天秤棒がわりにして2人で担ぎ上げる。重い。
何回も休憩して、やっとの思いで村まで帰る。ミドリに少し残念な子と見られたか?
これは早急に人員を増やさねば。当面大物はあきらめて小物限定で狩ることにしよう。
「そう言えば、行きも帰りも他の転移者に会わなかったな。」
「ほとんどの転移者はすぐにもっと奥の、魔物が多い地区にいっちゃうみたいです。
それに、…すぐに死んじゃう人がほとんどですから。
それでも凄い人が時々来るので、この頃は魔物をやっつけて新しい村も出来ています。」
ああ、最近のヌルゲーの悪影響だな…
「ふーん。この世界では人間側が優勢なんだ。まあ、俺たちには関係ないけどな。」
………
……
…
ギルド前までたどりついた。
疲れた…けど、ここでは膝枕を自重する。俺は32歳、空気の読める男だ。
「おう、イオリ、大物だな。
いったいどうやって捕ったんだ?血抜きの傷しかついてねえぞ?
これなら毛皮も使えるから銀貨20枚だ。」
「わかった。それで頼む。毛皮か。このあたりで捕れる毛皮で一番高いのは何の毛皮だ?」
「そりゃあ、ミンクイタチだな。水辺に居るが結構草原近くまででてくることもあるぞ。
イオリのように無傷で捕れたら高値で買うんだが、獲物が小さいから大抵傷だらけでよ…」
横にいたミドリが獰猛な目で、にっ…と笑ったのは見なかったことにしよう。