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159 総大司教

「どうしたんだい?伊織さんから俺を呼び出すとか、初めてじゃないかな。」


「ヴァーミトラさんはこの公演旅行の王国側の繋ぎ役でもあるので、王国のお役人様への依頼ですよ。」


「相変わらず、棘のある言い方で結構なことです。で何すればいいの?」


「聖ハスモーン教の偉いさんに面会したくて、それも内密に。」


「?聖ハスモーン教の枢機卿には帝都で嫌でも会うけど。」


「枢機卿のような政治面のトップじゃなくて。本当の信仰上のお偉いさん。ほとんどの時間教会に籠もってずっと神様とやらにお祈りしているような人が居るはずなんだけど…」


「御主人様。それは総大司教ですね。信仰に特化した最高位の権威です。現世の政治には口出しせずにほぼ教会から出ることもありませんが熱狂的な信者からは枢機卿よりも高位と認識されているようです。」


「ありがとう、ミドリ。それ、その総大司教さんに内密で会えるように手配してほしいんだ。」


「んー、まあ総大司教は元々現世の政治には噛んでいないので、会うなら嫌でも内密になるけど…会う理由がないなあ。」


「あるよ。イオリが一神教とはどういうものか興味があるのでこの機会にご教示願いたい…といえば、その総大司教が本物の信仰者で信仰を導く気概の持ち主なら大喜びで時間造ってくれるはず。」


「なるほど…それなら枢機卿に知れても『物好きな奴…』でスルーされるからいいか。それじゃ、真正面から面会依頼を出しておくね。」


これでよし。あとは主目標の『黒幕さん』と会うべきかどうかだが。


旦那イオリさま、『黒幕さん』に会われるのは危険ではありませんか?」


「ダナイデもそう思うか。こちらから行動起こして『黒幕さん』に合う機会を造るのは、その行動だけで『黒幕さん』に手の内を読まれるキッカケになりかねないからなあ。」


「『黒幕さん』が御主人様のようなタイプであれば、親善使節には違和感を持っているでしょう。コチラが何もしなくても向こうから探りに出てきているのでは。式典の折に四囲に注意を払っておけば、ご主人様なら見た瞬間に『こいつに違いない…』と感じられるとおもいます。」


ミドリがやけに鋭い。今宵のミドリは血に飢えているのか。素直な性格の上インドア派なので、俺の毒の周り具合も程よく、結構なお点前なのか。


「なるほど。ミドリの云う通りだな。ほっておいても向こうから覗きに来るし、探りにも来ない程度なら脅威ではないと。」


「しかし御主人様。よく総大司教の存在が予測できますね?一度も話に出ていないはずですが。」


「似たような状態の国が元の世界にも結構有ったからな。政治的指導者には失敗がつきものだ。一度も失敗しない政治的指導者など居ないと言っても良い。だが一神教でしかも神権政治の国が政治的指導者をトップに据えると困ったことに成る。」


「あー。神様が失敗をさせている事になってしまうのですね。ご主人様。」


「そうだ。一神教の神は唯一絶対。間違いなど起こさない。にもかかわらずトップの政治家が間違いを犯したなら、それは神がわざと間違いを犯させたことになってしまう。だから一神教のトップ、特に神と密接に関わる職は政治にも現世にも触れてはいけないのだ。」


イギリス王室も日本の天皇家もだいたい事情は同じだよな。古くは卑弥呼だってそうだろう。なのでトップ一人が政治も宗教も兼職している中国の皇帝は、政治的不安定=皇帝の不徳になってしまい、易姓革命に正当性を与えてしまっている。逆に言うと、転移前のローマ教皇のように宗教のトップでありながら事あるごとに政治に口出しするのは墓穴を掘っているんだよな。


「でも旦那イオリさま、そういうお立場の総大司教様にお会いされても、現実には意味がないように思えますが…」


「うん。あの世の話をいくらしたところで普通は無意味だな。だが今回に限っては多少意味が出てくる場面も有るように思うので、打てる手は全部打っておきたい。」


「主さまーー。町が見えてきたよーー」


屋根の上のテイルの報告だ。流石に馬車は速い。荷車リヤカーでの移動とは偉い違いだ。まあ、6頭立てだしな。国境まで途中泊なしで移動できるのはさすがだ。外の景色もいつのまにか木が減って草や苔の地面が多くなり標高が高くなっている感じが出てきている。


「あれが。交易都市サフラン。」


エフタール王国は石も使うが、比較的木製建築が多かった。だが帝国は森林が乏しく岩と砂漠の国なので、建築物の殆どが石造りのようだ。公式使節なので国境の検問も停止することなく素通りする。そのまま町の中央の広場で3台の大型豪華馬車が停止、警備兵が周囲に結界をはって一般人と遠ざけている。


「サフランへようこそ。」


町のお役人の案内で帝国での第一歩を踏み出す。


「さて、千載一遇のチャンスだ、しっかり始めるか。」


「…御主人様。右後ろのあの人…」


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