146 ローテク競争
グリフォンのマンディーが確定情報を伝えてくれたので、次の戦場が海上か湖上になるのが確定した。遠からずメガロドンの偵察で、塩湖方面の状況も連絡があるだろう。しかし水上戦となると、もともと制海権をとっていて水棲大型獣が居る魔物側が圧倒的なのに、相手軍師はどういうつもりなのだろう。魔物側には飛行する個体もそこそこ居るのに。よほど火薬を使った兵器の開発がすすんでいるのだろうか。
「…まさかと思うが、砲の開発もしているのだろうか…」
「旦那さま、『砲』?とはどういった物でしょうか。」
「ダナイデ、『砲』ってのは大きな筒の底に火薬をつめて、火薬の前に弾体をいれて、火薬の爆発力を前方向に集めることで弾体を撃ち出す兵器だよ。」
「まあ、火薬にそのような使い方が…」
「でも、結構造るのは大変だ。筒自体が火薬の爆発に耐えられる必要があるし、筒の底の蓋も爆発に耐える必要がある。筒と底のつなぎ目も同様。そして筒が真っ直ぐでないと弾体がどこに飛ぶかわからないし、筒と弾の大きさに隙間が多いと火薬の爆発力が隙間からぬけてしまう。」
「造りにくそうですね、旦那さま。」
「うん。此の時代の技術では無理だと思っていたのだが…」
たしか初期の大砲は前装式の鋳物一体型の砲だったはず。この世界では鋳物は見たことがないが鋳物一体型でつくれば後ろ蓋の隙間は心配なくなるが。鋳物が無理となると、鍛造…ってもっと無理だな。もっと原始的で作りやすい物…ロケット弾か。矢に筒をつけて火薬を推進力に使う。これは簡単にできそうだ。矢の先端に爆発用の装薬を別に付けておく。信管が無いので火縄では着弾前に爆発するのも有るだろうが、それでも結構な効果はありそうだ。いつ爆発するかわからないから爆発せずに着弾したものが不発がどうかも不明で近よれない。一種の対人地雷をばらまくのと同じ事になるな。数ヶ月もあれば相当な数を装備できるし、弓で射て射程を伸ばすことも出来る。適当に射ても時限爆破出来るのでそこそこ程度の対空火力に使えるか。
「…そうか、使い捨てでやれば、砲もつくれるかもな。」
「旦那さま?」
「砲を精巧に作れない場合でも、筒自体を使い捨てのつもりで撃つなら方法はあるかもってことだ。再利用しないなら、太めの竹筒に火薬詰めて隙間埋めに小石でも詰め込んで導火線つければ10mや20mは飛ばせられる。それを多連装、10本5段とか7段とかまとめて一組で作り置きしておけば、飛んでくるのがただの石でも接近戦になる直前で打ち出せば恐ろしい効果が出るだろう。」
「そんなものを撃たれたらテイルも避けられないよーー」
「ああ。元々、弓も砲も面制圧の使い方が普通で狙って撃つものじゃないからな。飽和攻撃だからなにがしかは必ず当たる。それに、これなら中型船にも搭載できるし陸上に持ち込むこともできる。ロケット付きの爆裂矢に多連装使い捨て砲か。大型船には投石機も積んで爆弾も投げてくるだろう。水中には爆雷。」
「ご主人様。そんなに新兵器色々持ち込まれたら対処できません。」
「まあな。間合いに入られてしまうと双方被害甚大の消耗戦になる。長射程からアウトレンジして戦力をすりつぶすのが重要だな。幸い此方には飛べる個体がそこそこ居るので高高度爆撃ができる。」
「あっ。そうですね。グリフォンさんや、ワイバーンさんに爆弾落としてもらえば…」
「うん。だが高高度水平爆撃は当たらないとしたものでな。命中率はせいぜい3%程度と元の世界の実戦での記録がある。精巧な照準装置があってその程度だ。勘だけで適当に落とすなら1%程度だろう。急降下爆撃すれば一気に命中率は跳ね上がるけど、近距離だと迎撃されて危険だ。」
「ダメですか…」
「ダメと決めてかかる事もない。まあ、ぼちぼち対策は考えていこう。」
そうだ、全くダメなわけじゃない。命中率1%なら100倍の数落とせばいい。1発は当たることになる。小型で効果的な弾体を開発できれば良いってことだな。自由落下させるので推進装置は不要だから、やりようは有りそうだが。
自陣営で一番欲しいのは魚雷なんだよな。命中率も高いし一撃必殺だし。まあ、魚雷が作れっこないと思って相手も船造ってるのだろうけど。そうか。よくよく考えてみれば、魔物側は最初から飛行機や潜水艦を持っているのと同じ状態なんだよな。武器が無いだけで機体や船体は出来上がっているのと同じ状態だ。のろい木造船ですすんでくる相手なら、本来簡単に捻り潰せるはずなんだが。
「結局相手側は死者がいくら出ても殉教ってことですませられるので、損害無視の飽和攻撃を最初からしてこれるのが問題な訳だ…」
こっちも損害無視で攻め合えば圧勝だろうが、それは出来ないしな…。
「だが、マンディー、お陰でかなり局面の予想が具体的にイメージできるまで煮詰められてきた。近々、俺達は帝国に乗り込むことになっているのであとは俺たちに任せて、通常通りの警戒で待機していてくれ。」
「そうか。では戻るが、なにか必要があればいつでも呼んでもらいたい。」
「ああ、次の戦いではマンディーにも頑張ってもらう事になるだろう。そのときは頼むよ。」
夜明けまでに帰らねばならないので、マンディーが漆黒の空に消えてゆく。次の戦いでまたマンディーに借りが増えてしまいそうだ。