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131 公演

ギルドを後にして旧オリーミ公領の本拠地ヌーリスに向かう。川が決壊しても安全な町の南西の若干丘に成っている場所へ向かうことを指示する。万が一ということも有るので、人を集めるなら安全な場所が良い。


「ご主人様、南西の丘陵地は歴代なにも手を入れずに放置されていたので原野状態ですが?」


「丁度よい。原野なら俺達が好きに改造して演劇場にしてしまっても文句は出ないし、丘の頂点に演台を作れば音が町にも流れてジワジワ人が集まってくる。俺達が居ないときは他の演目を演奏する連中もそのうち出てくる。要は文化水準を上げれば上げるほど、辛気臭い戒律でガチガチの宗教なんかやってられなくなるってことだ。」


「主さま~~、丘が見えてきたよーー。」


ほんとに単純な丘だ。木も生えていない、草原に成っている。羊でも飼えばいいのに。


「木も生えてないんだな。」


「雨が降ったときしか水が無いので。草も限られていますね。」


コレなら道も付ける必要もない。誰も居ないのでダナイデ様に単純な演台を作ってもらう。音が町の方向に流れるように、背面に簡単な衝立も造る。こうしておくと音が反響して演奏に深みが出るしな。


「よし、こんな感じでいいだろう。早速練習がてら、演奏を始めるか。」


済んだ音色が一帯に流れてゆく。障害物が無いのでかなり遠方まで届くことだろう。初めて音楽を聞くミテオが目を丸くして聞き惚れている。そのうち体が自然に動き出し、前で踊り始める。


「おー、ミテオ上手に踊るじゃないか。」


丘付近で遊んでいた子供が真っ先に近くまで寄ってくる。ケルート人の時同様、真新しいものに真っ先に反応するのは子供だ。はじめはぼんやり聞いていたが、子供の中からミテオに呼応して踊る子供が出てくる。すぐにほとんどの子供が思い思いに踊り始める。


”やべ。なんか俺が新しい宗教作れそうな気がしてきた…”


曲が終わって皆で拍手して踊っていた子どもたちを賛える。2時間もすると子供の様子を見に来た親がポツポツと集まってくる。踊っている子供の群れを少し離れて見ている。


よしよし、だいたい予想通りの反応だな。軍隊の太鼓ぐらいしか庶民は聞いたことがないはずだから、新鮮だろう。ライアーなら太鼓やドラのような威圧感はないから怖がることもない。それにライアーなら簡単に自作できる。大人でも子供でも、そのうち誰か自作して弾き始める者がきっと出てくる。ソロでも十分演奏できるしな。そうだ、どうせならココでいくつかライアーを造って子ども達に渡しておこう。


そっとダナイデ様を見ると、伝わったようで皆に隠れてライアーの木枠を3個用意してくれた。子ども達を集めて真ん中で鋼線を張ってライアーを造っていく。子どもたちの中でも一際賢そうな子供に出来上がったライアーを渡して、皆で交代で使うように諭しておく。他の子供もそれを聞いているので喧嘩にはなるまい。3個のライアーを子供達に渡して今日は解散させる。親達も三々五々子供を連れて散ってゆく。


旦那イオリさま、うまく広まりそうですわ。」


「娯楽が少ない世界だからな。娯楽が多い俺の元の世界でも、一定のフアンが居たライアーだ。この世界なら圧倒的だろう。」


「ご主人様、この調子で色々な場所で演奏すれば、すぐにライアーが広まりそうですね。」


「そうだな。それにライアーがエフタール王国で広まれば、将来ケルート人と本格的に交渉が始まったときにスムーズな交渉に繋がるかもしれない。」


「同じものを使っているというだけでも、親近感がありますね、ご主人様。」


「そういうことだ。」


だが、実際に公演してから子供にわたすライアーに気がついて慌てて造るとか、まだまだ甘かったな。次の公演は予め作り置きして渡せるようにしておこう。



その後も日を改めて、農漁村やジャラランバード、ギルドの村、王都などで公演を繰り返した。2週間も経ったころには、たまに道端でライアーを練習している子供も見かけるようになる。


「伊織さーん、いるー?」


ついに来たか。ヴァーミトラだ。


「その声は、ヴァーミトラさんだねー。なんだい。」


まあ、要件の予想はついている。巷で評判のライアー楽団を連れてこいと顔見知りのアーミル将軍に勅命でも下ったのだろう。そうなるように仕向けているのだから当然だが。


「伊織さん、実はねー」


案の定、アーミル将軍に下命があったらしい。ただ勅命ではなく、孫娘にせがまれた王妃様の内々でのお召しということだ。王都で身内だけの晩餐会を催すのでそこに連れてきて演奏させるようにアーミル将軍が依頼されたとのこと。


「それは好都合です。勅命の場合は堅苦しい連中が演奏の妨害に出る恐れがあったけど、そういうお召しであれば妨害の恐れもない。先手を打って王妃様とお孫さんを丸め込んでしまえば、堅苦しい連中も四の五の言えなくなる。純粋にライアーが聞きたいとの仰せなら、魔王の前ででも演奏しますよ。」


「よかったー。引き受けてくれるんだ。アーミル将軍も心配しててね。なにせ伊織さんは自由人で傾奇者だから ”そんな堅苦しい場所は御免こうむる” とか言われたらどうしようとか、ビビっていたんですよ。しかし、伊織さんホントに多芸だねー。こんなことまで出来るんだ。」


「いや、元々は俺の才能じゃないですよ。新しく嫁に来てくれた、このベレヌイの才能です。ほんと綺麗な音色でね。あまりに勿体ないので楽団つくって皆に聞いてもらおうってなった訳で。」


「また増えたんだ、お嫁さん。とにかく、明日か明後日でも連絡しますので、王都に行く準備をお願いしますね。すぐ帰って心労で倒れそうなアーミル将軍を安心させてあげなきゃ。」


「はは。アーミル将軍を困らせるようなことはしないから、安心してていいのに。ついでに、エビ持って帰って差し上げて。」


…よし、これで最初の段取りは整ったな。王都か。王都の中枢に乗り込むのは初めてだが、誰が来ているだろう。国軍総司令マッケンは非公式な場だから来てないか。できれば此の機会に味方に付けたい人材のようだが。せめて王国の経済官僚が来ていればな。国内振興策の種でも蒔いてやれば帝国との格差を広げてやれるのに。





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