130 8人目
家に戻って皆で夕食を囲む。皆が好き勝手に食べたいものを食べる。ミエリキはまだ遠慮がちだがミテオはもう普通に馴染んでいる。子供は順応性が高い。
「どうした、ミエリキ。一番厳つい体のミエリキが一番少食じゃないか。」
「そう言われても、これがどれだけの金額に成るか考えてしまってなかなか喉を通らねえ…」
「金なんか余り物売れば良いのだから、気にせず食え。体が資本の狩人だろ。」
「…ああ、そりゃまあそうなんだが…。」
ミテオがじっとミエリキをみている。いきなりロブスターを取ってミエリキに突き出した。
「え!!?」
「はははっ。なんだ、子供に助けられているじゃないか。エビは初めて食うのかな。俺の大好物だから騙されたと思って食ってみろ、美味いぞー。」
「テイルお姉ちゃん、ここの人みんなお嫁さん?」
「そ-だよー、ミテオちゃん。」
「あっちの家のお姉ちゃんは?」
「あっちの家の3人はまだ臭い時有るし、お嫁さんじゃないよーー。」
「ミテオは臭いかな?」
「ミテオちゃんはパンジーの匂いで、全然臭くないよーー」
パンジーの匂いって、どんなだ??
「じゃあ、ミテオもお嫁さんに成っていいのかな?」
「いいと思うよーー」
「ミ、ミテオちゃん、お嫁さんのこと知ってるのかな?ご主人様、ちゃんと説明しないと。」
「ミドリお姉ちゃん、知ってるよ。いつも一緒に居て、一緒に寝て、一緒に御飯たべて、子供生んで、出来るだけ一緒に死ぬの。」
…うむ。概ね正しいな…最後はアッサリ人が死んでいくこの世界ならではの答えだが。ミドリもこれ以上は何も言えないようだ。
「よし、じゃあミテオも今日から俺の嫁になるか?」
「うん、なる!!」
「ミテオちゃん、もうちょっとよく考えたほうが…」
「考えたよ。お父さんもイオリさまの側にできるだけくっついて色々教えてもらえと言ってるし、沢山のお嫁さんが仲良しだし、お風呂も一緒に入ったし。それに、頑固なお父さんが素直に言うこと聞く人は、イオリさまが初めてだし。お父さんにも、頑張ってイオリさまの嫁に入れてもらえって、何度も聞かされてるし。」
皆が一斉にミエリキを見る。ミエリキが焦げるんじゃないか?
「い、伊織の旦那、まだ子供だが頼む。なにせ俺の仕事に限らず、農民も猟師も簡単に死んじまうから安心できねえ。ココに置いてもらえりゃそれ以上の安心はねえ。伊織の旦那は身分は気にしないと聞いている。お姉さん方も頼む。」
「ミドリさん、これはもう決まりですわね。旦那さまは元々乗り気ですし…」
ダナイデ様の言葉で一斉に視線が俺に集まる。…ダナイデ様時々こういう意地悪するんだよなぁ。
「う、うむ。ミテオもとても素直で可愛いからな。良い嫁になるのは間違いない。それにすでに我が家にも十分馴染んできているので何も障害はないと思うが、どうだミドリ。」
「ご主人様、分かりました。ではミテオちゃんは14歳になるまで私と一緒にご主人様のお側に仕える事にします。」
「うむ。それでよい。良きに計らってくれ。」
くっ、くっ、くっ、ミドリよ、保険を掛けたつもりだろうが、墓穴を掘ったな。今後はミドリもしていた事だからミテオもしなければいけない…と成るというのに。しかも、ミテオに教えるという立派な理由も有るので俺の知る限りのすべてを経験してもらう事になるんだぞ。
「ねー、ミエリキさん。主さまは時々こういう悪い顔で意地悪考えているのーー。テイルもこの顔されてから、時々尻尾クイッ、クイッってされるようになってフラフラになっちゃうのーー。」
テイルは経験者だからな。ミドリも今夜はフラフラに成ってもらうとしよう。
…
…
昨夜はミドリの意識が飛んでしまって、ミドリを真ん中にして両側からミテオと俺で挟んで変な川の字になって眠った。最初が肝心だからな。ミテオにもしっかり見学してもらった。
「今日は玩具をギルドに届けて、敗戦で荒んでいる旧オリーミ公領の本拠地ヌーリスでライアーの初公演をしようか。ん?どうしたミドリ。」
「あ、はい。頑張ります。」
「ミドリさんも旦那さまには、まだまだ敵いませんですね。」
「はい、ダナイデ様。」
荷物が多いので荷車2台に資材を積み込む。ミエリキは単独で罠の管理に向かうので別行動だ。
「ミテオはお父さんと別行動は初めてになるのかな?」
「はい!!」
「そうか。今日は特に何もしなくて良いからな。俺達を見学していてくれればいい。」
ギルドの片隅のテーブルに各種の玩具を置いて好きに利用させる。待っていたのかあっという間に全部が無くなってしまう。
「ご主人様の思惑どおりに、本当に人が動いていく…」
「ミドリ、玩具はお互いメリットしか無いからこうなるのは当然だ。たぶん、もう少し繰り返せば他の人も玩具を造り始める。最初は同様に無料で配布するだろうが、さらに考え抜かれた複雑な玩具が有料で売りに出されるだろう。そして新しい職業が生まれてくるという訳だ。」
「新しい職業…」
「ああ。いままでの職業には適性が無くてあえいでいた者の中から急激に台頭してくる者が出てくる。個性と嗜好が一致した才能が開花すれば誰もその分野では敵わない。あの『虹の架け橋』の3人でもあの調子だろ。宗教にかかずらっている暇など無くなるというものだ。」
「ご主人様は信心されている人を堕落させようとしていると思っていましたが、違ったのですね。」
「いや、堕落させようとしているのは間違っていない。考えても見ろ、人が神様にすべてを捧げる敬虔な信者ばかりの世界を。気持ち悪くて1分1秒も居たくないわ、そんな世界。」
「ご主人様は神様が嫌いですか?」
「俺が嫌いなのは、人が皆金太郎飴のような無個性の同じ面ばかりの状態だ。金太郎飴大量生産するような連中、組織だろうが宗教だろうが、そういうのが嫌いなんだよ。」