127 ライアー
昨夜はローションマッサージの勢いでそのまま乱○になだれこむかと思ったが、キッチリ管理されていて、いつも通りマーマナとじっくり交流を深めた。これはこれで良いが…イマイチ肩透かしを食った気分だ。
「大量の贅沢品も用意してくれたし一旦帰るけど、魔物たちは今後、くれぐれも慎重に行動するように頼んだよ、マーマナ。とくに水中が危険だ。爆発の力が伝わりやすいから。」
「うん、解った。伊織がそれだけ心配するのだから、よほど危険なんだね。火薬。ちゃんと言っておくよ。」
「よし、それでは、またヘルマンド川まで頼む。」
…
…
「すごい…伊織様はこうやって遠路ガイアーの大地まで来てくれていたのですね。」
「いや、まあ、最初は黒の海のマーマナと会うための家造っただけだったんだけどな。ダナイデの繋がりでメガロドンと縁ができて、その時に北の大地にケルテイク達が居る事を知って、ケルテイクが悪用されないように、足を伸ばしたのが始まりだよ。」
「でもそれでケルテイクは救われました。長弓も知らずに戦っていたら、追い返せても凄い被害が出ていたはずです。」
「ん。まあ、ギリギリ間に合ったってとこかな。実は俺、元の世界でもケルテイクの音楽が好きだったんだよなー。どうなんだろう、こっちの世界のケルテイク達ってこんな楽器つかうのかな?」
船板に直接ライアーの絵を描いてみせる。
「あー、伊織様、堅琴知ってるのですか!!これ私も弾きますよ。」
「おお、ベレヌイもライアーが弾けるのか、こんど聞かせてくれ。本物のケルテイクのライアー、これは凄いぞ。」
皆??な顔をしている。まあ、そうか。元の世界ではケルテイクは失われた民族で消息不明だからなあ。それで俺だけやたら感動しているけど、こっちでは普通の実在だから音楽ぐらい有って当たり前か。しかし、こっちに来てから娯楽としての音楽に接したことはない。これは、イケるか?
「ベレヌイ、ベレヌイの絶好の仕事を思いついたぞ。ベレヌイはライアーで王国中を吟遊詩人の要領で弾き歩いてタレントに成るんだ。俺達も補助楽器で盛り立てる。打楽器ならだれでも使えるからな。音楽も立派な贅沢品だ。ましてベレヌイは容姿も悪くないし若くて可愛いから人気沸騰間違いなしだ。そして王国で名を上げて、その実績で帝国に我々皆で堂々と入り込んで公演する。帝国の情報が入手しにくくて困っていたんだが、これで一気に解決だ。」
「ご、ご主人様、あまりに話が飛躍していて判りません。もう少し丁寧に教えて下さい。」
「あ、すまん。一人で舞い上がってしまったな。まずはとにかくライアーを聞いてみることが先決だな。」
ヘルマンド川にたどり着き上陸後、すぐにダナイデ様にライアーの木枠を造ってもらう。それに霞網の補助に用意して持っていた細い鉄線を張っていく。
「ご主人様、これ、神様が持たれている琴と同じものでは?」
「あー、そういえば、天使の絵とかにも出てくるし、オルペウスだったっけ、コレを持っている神様も居るよな。」
張り終わったライアーをベレヌイが微調整して各弦の音の高さを決めていく。自分がいつも弾いている状態に調整できるのを、皆息を殺して待つ…
「…うん、こんなものかな。いいよ、伊織様。弾いてみますか?」
「おう、頼む。」
ライアーをベレヌイが弾き始める。シンプルだが透き通るようなライアーの音色に皆がドンドン引き込まれていく。一曲弾き終わる頃には皆が魅了されてしまう。
「…はぁ……心に染み入る音色だな、やはり。」
「ベレヌイちゃん、すごーーーい。もっと弾いてーーー」
「哭きたく成るような、音色です、ご主人様。」
「旦那さまが興奮されるのも当然ですわ。これは…。」
「いい音色だねー、伊織ーー。」
「マーマナは耳がいいし水中は音がよく伝わるから尚更だな。」
「旦那さま、これは確かに人々を魅了できますわ。」
「どうだ、素晴らしいだろう。ということでだ、ベレヌイを軸に楽団を造るぞ。ライアーがこういう音色だから、濁った音の楽器を混ぜるのは良くない。なので、補助楽器の第一はトライアングルだ。金属棒でこういう三角のものを造ってぶら下げて叩くと良い音が出る。そして次は鈴だ。ちょっと造るのが手間だが、なんとか造れるだろう。軽く降ってリズムを取るのに適している。そして、最後が鉄琴だ。いろいろな長さの金属棒を叩くことでいろいろな音が出る。副音階をカバーするには適切だろう。」
マーマナと別れを告げ、家に帰り各々楽器造りに精を出す。一番困難と思われていた鈴だが、ミドリの造形スキルでうまく作成することができた。正確なリズムを刻むのに適したミドリにそのまま持たせて練習してもらう。トライアングルも数種類の音を造り、数種類の和音も出せるようにする。鉄琴は俺が設計してミドリと協力して作成した。持ち運びできるように、垂直にぶら下げる形態に造る。一通りできたので、ベレヌイに主旋律を弾いてもらい、各々が思い思いに音をすこしずつ加えて曲の奥行きを広げてゆく。夢中で練習しているうちに数時間が過ぎすっかり夜になっていた。
「いいぞ、早速1曲は仕上がったな。さらに練習して、4曲ぐらい準備できれば公演を開始できるだろう。」
「ご主人様、ただあちこちで弾いて回るのですか?」
「ああ、ストリートライブと言ってな。無料で通行人に聞いてもらう。当然人の集まる場所が良い。ジャラランバードでやれば貴族が飛びついてくるだろうが、それでは音楽が貴族限定になって広がらない。まずは農村漁村、下町中心に活動したい。」
「旦那さまらしいお考えですわ。貴族に広めて一気に帝国に影響与えたほうが簡単でしょうに、わざわざ足元から固められる。」
「宮廷だけに独占させたくないんですよ。最終目的は多様な娯楽を帝国の信者に知らしめてゴリゴリの一神教なんてバカバカしいと知ってもらうためですから。死んで神に召されるよりも生きて今を楽しめる、そう思えるようにしないとね。」




