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122 埋葬

指示したとおりケルート人達は狙うこと無くひたすら曲射を繰り返している。勿論、自分もせっせと射る。

何人かは言うことを聞かずに狙って撃つかと思ったが、ちゃんと指示通りに撃っているな…


「…伊織、敵は前後に部隊を分けるようだ…」


小岩に登って長弓を撃つガラディーが敵陣の状況を教えてくれる。


「…ガラディー、前方の部隊がたぶん突っ込んでくる。後方は退路確保で居残るだろう。前方の部隊を射るようにしてくれ。」


「解った。短弓に伝令をだして知らせておく。」


敵の指揮官は落ち着いているな。先制攻撃を受けても飛んでくる矢が少数なのを見抜いて部隊を混乱させなかった。矢が飛来する中で新兵が混乱していないのは、相当な重装歩兵なのかな。


「…ガラディー、敵の装備は見えるか?どんな武器か解るといいんだが。」


「敵は体全体が銀色だ。金属でおおわれている感じだ。顔まで覆う防具もつけているようだ。だが、時々長弓の矢が浅いが刺さっている。武器は長い尖った棒。前に伊織が言っていた『槍』ににているが、先の方に横にも何か刃物が付いている。」


…横向きの刃物付きか。ハルバードだな。軽めのフルアーマーを装備してきたのか。短弓では近距離でないと貫通は難しそうだが、関節部分や顔面は完全に受け止める事は出来ないだろう。逆に長弓なら中近距離になると深く刺さりそうだな…


「…伊織、前の部隊が動き出すようだ。指揮官を先頭にして尖った縦長の隊列を造っている…」


尖った隊列。鋒矢の陣型か。新兵がほとんどだから指揮官先頭でないと部隊が動かないからか。敵の指揮官はなかなかに熟練者だぞ。


「ガラディー、それならそろそろ早足で動き出すだろう。中間地点まで出てきたら、側面の短弓に射撃開始の鏑矢を放ってしらせるので、教えてくれ。」


「…解った。なにか揉めているようだが…一人隊列からはずしたようだ。動き出した!!」


現場で一人、足がすくんだか。一人だけなら上出来だな。先制されてもっと落伍するかと思ったが。


「走るというよりは、早足程度だが真っ直ぐ近づいてくるぞ。先頭の指揮官の装備だけ、とくに頑丈なようだ。時々矢が刺さるのに、先頭だけは刺さらないで弾かれている。」


「大丈夫だ。距離が近づけば刺さるようになる。」


「だいぶ出てきているぞ。敵の隊列が、縦の棒みたいになってきた。」


後方の兵が前に行く兵を盾がわりにしてしまい、陣形が縦列になりつつあるのか。だがこれだと短弓が撃ち出すと両サイドから矢を浴びて、足が止まりそうだな…


「…もうすこし、…もう少し、…よし、半分まで来たぞ、伊織!!」


キーーーーーー


3本目、総攻撃の合図の一際甲高い音の鏑矢を放つ。左右に伏せていた短弓の数百の矢が一度に敵陣に襲いかかる。恐らく敵陣ではザーザーと大雨のような音で矢が着弾しているだろう。


「伊織、敵の動きが止まった…あ、いや、少数、30か40人ぐらいだ、全力で走って突っ込んで来るぞ!!指揮官も走ってくるぞ!!」


「やはり来たか。的をその突っ込んでくる連中に集中するんだ!!」


「…左右ももう、そうしている。だが、それでも突っ込んでくるぞ。敵にも勇者がいるな!!」


…もう俺の目でも見える。少しでも矢をふせごうとハルバードを前にかかげ、頭を下げながら突っ込んでくる敵兵。先頭はムロータ将軍だろうか、年季の入った重厚な鎧だ。此方は全員が弓兵、接近戦に成ってしまえば人数差は関係ない。敵の間合いに成るが…30m…20m…10m…

のこり10mほどの地点で突っ込んできた敵の殆どが足をとられて転ぶ。無事なのは遅れていた2人か3人だけだ。

指揮官はそれでもすぐに立ち上がったが、片足が満足に踏ん張れていない。立ち上がった指揮官に長弓が浴びせられ、流石の重装備にも矢が立ち始める。敵兵の戦意は完全に砕け、半数はその場でただ伏せている。残りを指揮官がまとめて撤退していく…何人かは全く動かない…


本陣からケルート人達が出て、動けない敵兵に矢を突きつける。手を上げて無抵抗の敵兵の装備を剥ぎ取り、手早く裸に剥いていく…2人、いや3人か。動かない敵兵が居るがケルート人達は放置している。死んだか。


「まさか、あいつらも素っ裸まで剥がされるとは思わなかっただろうな…」


ざっと15~16人が丸裸にされて尻を蹴られて敵陣に追い立てられていく。足が立たない者も居て仲間に両側から支えられてやっとの思いでノロノロと戻っていく。敗戦の撤退はいつの時代でも悲惨だ。


「…やっと裸の連中が敵陣に収容されたようだ。どうする?伊織。短弓の包囲を狭めて敵の後陣に打ち込むか?」


「いや、やめとこう。前陣だけひどい目にあって、後陣は無傷だ。敵部隊の中で仲間割れも出るだろう。ここで本気で攻撃したら、また敵が一丸になってしまう。ヤケクソの反撃で接近した短弓から被害をだしたくないしな。距離をとったまま包囲して、適当に短弓を打ちつずけてくれ。たいした打撃にはならないだろうが落ち着いて撤退準備させてやる義理もない。」


「退却を急かすのだな。いいだろう、伊織、そのままの位置で交代で打たせよう。」


敵部隊は30分ほどで撤退していった。後陣のあった付近には大量のハルバードと防具が遺棄されている。できるだけ身軽になってひたすら退却する道を選んだようだ。使える武器や防具はケルート人の戦利品にするように伝える。


「伊織も1本、持って行け。」


ガラディーがハルバードを差し出すが俺の腕力では扱えないので、ケルート人が使うように譲る。俺が接近戦をする時はその日が命日だし…


「それより、ガラディー。戦死した敵兵の3人だが丁寧に埋葬してやってくれ。」


「敵を埋葬するのか?」


「放置しているとり病が心配だ。それに戦死するのは勇者だ。敵とはいえ勇者に敬意を払うのはケルテイクにとっても不名誉ではあるまい。」


「ああ。そうだな、そうしよう。敵の指揮官も立派な奴だった。」


ケルート人が埋葬した敵兵の墓に丸太を縦割りにして墓碑を立てる。


ー ケルテイクと果敢に戦い力尽きし勇者ここに眠る ー


ケルート人には暦が無さそうなので、単純にこれだけ書いておく。後年いつの日か、王国や帝国の人間がこの地を訪れたときに文字が書かれていると物議を醸すだろうが、どうせ歴史の彼方の話になっている。ケルート人が野蛮ではないという証拠を造っておくほうが重要だ。

罠の回収や矢の回収、柵の解体や運んだ物資を元に戻す戦後処理をしていると、山頂からまた鏑矢が放たれる。


ヒョロロローーーーー


ややのんびりした間の抜けた音色だ。


「敵兵が山の向こう側をくだり始めたようだ、伊織。」


「ああ、もう装備も無いし別働隊も無いだろう。斥候たちも戻るように伝えてやってくれ。」


ミドリ達も後陣を払って合流してきた。


「ご主人様、見事に作戦が決まりましたね。」


「まあな。だがそれはケルート人が戦士として優秀だったからだ。いくら作戦を凝らしてもそれを実行出来る素養が無いと意味がないからな。抜け駆けも無かったし、斥候も一切攻撃せずに情報収集に専念していた。現実にはなかなか出来る事じゃない。ケルート人の罠も素朴だが実用性の高い優れた罠だった。…ん?今頃また伝令か?」


村の広場で勝利のうたげがあるので皆参加するようにと少女?の伝令がやって来る。


「…うたげか。殺し合いに勝ったからと言ってうたげも変なものだが、まあ、普通はそうなるものか。せっかくのご招待だ、有り難く参加するとしよう。」


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