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117 戦術展開

2日かけて塩湖の別荘にたどり着く。今日はここで一泊だ。移動中に自分用の長弓と数種類の音のかぶらも出来た。もちろん、普通に射掛ける矢も造って有る。


「ココに来たら、何はなくともメガロドンの卵確認しないと…」


よし、大丈夫だ。今日も綺麗なオレンジ色だ。眺めているうちに長メガロドンがやって来る。ダナイデ様が予め連絡してくれていたようだ。ダナイデに通訳してもらってメガロドン用のアクセサリーを付ける。器用に尻尾を水面から出してくれたので簡単に取り付けられた。


「どうかな、邪魔にならないように造らせたつもりだけど…」


旦那イオリさま、全く問題ない、とても気に入ったと喜んでいますわ。」


「それは良かった。塩湖自体はどうだ?だいぶマシになったのかな?」


「…塩湖もジワジワ元に戻ってきて、だいぶ楽に生活できるようになったと言ってますね。」


「なら一安心だな。これだけ干上がって濃縮されたのに、よく頑張ったものだ。」


「…危なかったようですわ。卵だけ誰かに頼んで黒の海に疎開も考えて居たと言ってます。」


塩湖の回復状況も解ってやれやれだ。今夜は例によってテイルにしがみ付いて卵を眺めながら眠る。長メガロドンもすぐ横に来て…たぶん、眠っているのだろう。こうしていると一応家族っぽいと言えるかな。たまにしか来れない父親か。なんか、平安貴族の男みたいだな。



塩湖付近は緯度が高くなってきているためか、今朝は曇っている。雨は正直好ましくない。ちゃんとした陣地が出来ていたら雨のほうが守りやすいけど今回は望ましくないな。色々準備もあるし。


旦那イオリさま、カザーフの森もそうですが、ココから北の地方は雨は少なくて、ほとんど霧か霧雨ですわ。人の移動にはほとんど影響ないですわ。」


「そうか。霧が多いのか。それも作戦に組み込んでおかないとダメだな。」


話もそこそこにケルテイクのガラディーに会いに出発する。昼前には以前会った場所まで移動できて、また鏑矢を打つ。2回目なので普通に落ち着いた様子でケルート人たちがやって来る。


「グリフォンに乗る者、伊織。今日もグリフォンは居ないのか。」


「ガラディー、急にすまないな。グリフォンは働きすぎだったので、休ませている。今日はケルテイクの危機なので急いできた。以前ちょっと話した戦争好きの連中がココに攻めて来るようだ。迎え撃つ準備をしたほうが良い。」


「いきなり攻めて来るのか。」


「ああ。彼らの指導者が変わったんだ。ケルテイクと話し合う気は最初から無い連中だ。」


「攻めて来るなら戦うだけだ。」


「やってくるのは、たぶん、1000から2000人の新しく作った軍隊だ。」


「そんなに多くで来るのか。軍隊とはなんだ?」


「戦うために人を集めた組織だ。正規兵だから普段から訓練だけして普通の仕事はしない連中だ。」


「そんな奴が1000人以上も。ここらのケルテイク全部集めても、戦える男は400か500しか居ない。」


「そうだろうな。だから上手く戦わないと大変な事になる。俺に考えがあるので聞いてくれるか。」


「聞こう。そんな奴らと戦うにはどうすれば良い?」


「先ずは…」


先ず第一に、斥候の説明をする。2人一組にして、鏑矢と数日分の食料を持たせる。それを4組造る。今回は山越えで来るので先に頂上を抑えておけば見通しが良いので発見は簡単だ。2組だけ先発させて、残り2組は交代用にする。山越え最短コースと、一捻りした場合の1路外のコースを警戒する。道の無い場所をやって来るので、敵の移動は沢伝いになる事も説明する。敵の部隊を見つけたら此方にかぶらと狼煙も上げる。


「敵がやってくる場所が決まったら…」


平地に出てくる場所にも斥候を出しておく。この斥候は敵が来るタイミングも場所も解っているので本隊から一組で良い。敵が平地に降り立って隊列を組んだらかぶらで本隊に知らせる。


「この知らせが戦闘開始の合図になる。戦闘は…」


敵の真正面だが、長弓の最大射程から撃つ。ケルテイクで長弓が使えるのは20人ほどだがコレを本隊に集中する。細かく狙わず、敵部隊の居る場所にむけて適当に打ちまくる。残りの短弓が使えるケルテイクは敵部隊が真っ直ぐ突っ込んできた場合の両側に伏せておく。初めは遠くに、本体に近ずくほど近く伏せて、敵が突っ込めば突っ込むほど矢の密度が上がるようにする。


「敵は真っ直ぐ突っ込んで来ると何故決まっている?」


「初めて来た場所で道も何も知らない敵だ。適当に横に動くと迷子になって帰れなくなるから、真っ直ぐにしか突っ込んでこない。」


「そうか。そうだな。帰れなくなるな…」


そして、側面に伏せた真ん中あたりを敵が通り過ぎたら、本隊から合図のかぶらを打つので、側面の短弓隊も撃ちまくる。


「敵に勇気があれば、それでも突っ込んで来るぞ。」


「ああ。だから簡単に突っ込めないように、妨害の柵を本隊付近には3重に並べる。この柵は今から造って作り置きする。敵のくる場所が決まったらすぐに進路上に置くので持ち運びできる簡単な物だが、突撃中の相手には大きな効果がある。柵に絡まって、モタモタしている相手を存分に打ち据える事ができるだろう。」


本当は空堀や逆茂木・乱杭を設置したいが、今回は固定陣地ではなくて、相手の出場所に合わせての迎撃だからな。そこまでの陣地は造れない。


「そして、それでも突破される場合のために、本隊後方にめの陣を造っておく。」


めの陣の前方にも柵を置くが、互い違いにずらして設置して、逃げてきた部隊が通れるようにしておく。めには20か30人の短弓で良い。ココに来るまでに十分打ち据えられて弱っているので、さらに新しい陣があるのを見れば、諦めて撤退するだろう。


「戦う前から逃げ道を造っておくのか?」


「そうだ。いくさでは何が起きるかわからないから、つねに退路を用意しておくのは大切だ。まして、まだケルテイクは戦える人が少ないから、一人も死んではいけない。」


「ケルテイクは死を恐れはしないが…。そうか。死ぬと後の者が困るのだな。」


「そうだ。勇気ある者ほど、生き残って戦わなければ子供を守る者が居なくなるぞ。」


「…その通りだ。わかった。これなら数多い敵でも勝てそうだ。矢にはいつも通り毒を塗って良いか?」


「毒?毒を塗った矢で獲物を射たら、食えないのではないのか?」


「毒と言ってもしびれ毒だ。半時ほど動けなくなるだけで時間が経てば消える毒だ。」


「そんな毒があるのか。なかなかいい毒だな。」


「大型の獲物はこの毒が無いとなかなか仕留められない。」


「なるほど…だが今回は毒は無しにしよう。流れ矢が味方に当たる場合もあるかもしれない。それに敵の動けなくなった奴を捕虜にすると後が面倒だ。此方の状況を観察して脱走されたら困る。」


「動けなくなった敵を殺さないのか?敵はケルテイクを殺しに来るのだろう?」


「数人殺してもあまり意味がない。相手も死を恐れない連中なのだ。それよりは酷い目にあって逃げ帰らせて、ケルテイクは強いから、簡単に攻め込むことは出来ない…と思わせた方が良い。毒は次の戦いの切り札として隠しておいた方が得だ。」


「そうか。伊織がそう言うなら毒は使わない。毒も限りがあるし。」


「ああ。だが、その毒は有効だから、普段から少しずつ多めに溜めておいてくれ。」


なるほど、しびれ毒か。たしかに、俺が来るまでの貧弱な弓で大型の獲物を仕留めるには毒しかないか。

…ケルテイクは死を恐れない…なあ。狂信者とケルテイク、マトモに戦えば恐ろしい惨状になっただろうな。だが、俺の案でも戦えば死者は出る。とくに、威力のある長弓の直撃をうければ、当たり所次第では即死もある。遠路の奇襲なので軽装だろうし。…まあ、仕方ない。そこまで面倒見切れない。


「間に合いそうで良かったです。ご主人様。」


「ああ。まだ勝ったわけじゃないけどな。」

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