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116 退路確保

話しているうちにも黒の海の別荘まで到着する。今日はココで一泊だ。


「ダナイデ、俺が使う長弓を造るので材料を頼む。」


旦那イオリさまも、弓を射るのですか?」


「ああ。まだ付き合いの浅いケルート人だから、俺も現場に立つほうが早く打ち解けるし信用もしてくれるからな。それに、合図のかぶらを打つ必要もあるし。なので、ミドリとテイルは今から矢の材料をとってきておくれ。」


「わかったーー。竹いっぱいとってくるーー」


「ご主人様、ではミドリやじり造っておきます。」


「ミドリ、明日はどうする?ココに残ってもいいが。」


「いえ、ご主人様も闘われるのであれば、付いて行きます。」


「そうか。皆には現場では後方で撤退の場合の退路の準備をしてもらう事になるけどな。」


「かまいません。」


健気だわー。泣けてくるよな。旦那の文句をSNSに書き込んでいる元の世界の女共とどこで差がついちゃうのだろう?…ん?マーマナ、ああ、そうか。


「マーマナは行けないけど、心配しないでいいからな。ちゃんと逃げ道は確保しておくので。」


「海か、せめて川ならマーマナも戦えるのに…」


「マーマナが俺よりずっと強いのはよく解ってるよ。でも、今回はケルート人が勝たないとだめだから。俺は隠れて手助けするだけな。どうしても困ったときは必ずお願いするから。」


「…わかった。今回は我慢するね…。」



昨夜は当たり前のようにマーマナと過ごした。もう、ここらは予定調和されているようだ。ミドリか、遣り手婆の手並みなのか。すでに大奥の秩序は出来上がっているらしい。


「移動に2日かかってケルート人達に会えるのが3日目の午前がやっとだから、今のうちに退路を説明しておくな。」


「ご主人様、着いたときには手遅れとかは大丈夫でしょうか。」


「それはたぶん大丈夫だ。2000人選抜して装備与えて多少訓練して曲がりなりにも合図通りに進退できるようになって、さらに小隊の顔合わせから連携だけでも結構日数が要る。さらに行軍訓練をしつつ砂漠地帯迂回して万年雪の高山登って…途中落伍者も出るだろうしな。どんなに早くても俺達よりは数日、下手すると1ヶ月ぐらい遅れるだろう。」


「そうですか、それなら良かったです。」


「で退路の件だが、たとえ最初の接触で打ち負けたとしても、今回は深追いされることはない。相手はまた高山登って遠路帰らなきゃいけないからな。だから『ここらで帰るか…』というきっかけがあれば帰るはずだ。そこで、予想戦場の500mぐらい後方に第2の防衛線を造る。今回参戦できるケルート人が精々数百だろうから、第2の防衛線にあてられるのは数十に過ぎないが、まあ、十分だ。味方が第2の防衛線まで逃げてきた時に、タイミング合わせて一斉射撃して追撃してくる先頭を集中射する。被害があろうがなかろうが、ココでさらに一戦すれば帰る体力が保たないので帰っていくだろう。」


「そこに私達を?」


「まあ、御目付だな。主戦場で始まったら第2の防衛線に配置された連中も駆けつけたくなる。それをこらえさせる重要な役目だ。ここでダナイデの 虚名…じゃない、カリスマを発揮してもらう。」


旦那イオリさまは、嫁使いが案外荒っぽいですわ(笑)」


「戦闘が始まるまで時間があるので、づめめの重要性をしっかり説いて納得させておいてくれ。後ろが不安定だと前線の主力がが思い切って戦えない。」


「ご主人様。主力は待ち伏せになると思いますが、相手の出てくる場所は特定できるのですか?」


「ミドリも結構気がつくように成ってきたな。勿論、それが重要だ。地形からだいたいは決まってくるが、正確に知るために、ケルート人から数人選抜してせっこうを出す。今回はせっこうの重要性をケルート人に知ってもらうのも目的の一つだ。」


「それならいっそ、此方が山の上まで予め登っておいて、7合目ぐらいまで上がってきた敵部隊を上から打つほうが勝ちやすくないですか?」


「そのとおりだ。それならせっこう出すまでもなく丸見えだしな。だが、それを実行すると完全に待ち伏せになるので、相手の軍師の行動を此方が予測していたとバレてしまう。それは長い目でみて不味い。作戦は旨く行って奇襲できた。ケルート人も慌てふためいていた。だけど思いの外ケルート人が強くて追い返された…そういう体裁にする必要があるので、山の上ではなく麓で迎撃する。そのほうが、敵部隊にも負担が大きいからな。一回余分に山登りすることになるので。」


「なるほど、そういう事なのですね…」


たぶん、相手軍師は勝とうが負けようが、行って帰ってこれたら成功と考えているだろう。実際それで正しいからな。実戦経験させて訓練するのが目的だからそれで十分な成果だ。だけど現場の兵士、それにムロータ将軍も、『これで十分に成功なんですよ…』と云われたところで達成感は全く無い。表面上は納得した振りはしても内心では『この軍師で大丈夫か?』と思うはずだ。事ある毎に少しずつ離間の計を埋め込んで置くのが重要だが、流石にソコまでは、まだミドリでは読めないよな。


「とにかく、面倒な奴には退場して貰わないとな…」


「え?ご主人様?」


「…すまん。独り言だ…」


また声に出てしまった。

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