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106  太公望

アーミル将軍邸を後にして、家路に付く。今日もコカトリスがのんびり飛んでいる…


「村まで足を延ばしてコルストンに珊瑚と真珠も預けておこうか。」


旦那イオリさまのお傍に居ますと、世のうつろいが早いですわ。」


全くだ。この展開の速さには少し閉口するな…こっちにも都合があるのに。


「ご主人様が、だいぶ前、教会で『贅沢の神様』が居られないかお尋ねだったのは、贅沢品を普及させる御積りがすでに有ったのですね。」


「まあな。ザラスター教が多神教と聞いていたので、それなら贅沢神か、その類似の神様が居るだろうと思っていた。大抵の場合、多神教なら悪神や祟り神も居るからな。贅沢神ぐらい可愛いもんだろ。」


「でも、なぜ贅沢品が良いのですか?ご主人様。」


「聖ハスモーン教のような一神教ってのはやたら窮屈でな。なんせ神が唯一神ただ一人だ。必然的に品行方正、酒もタバコも女もやらない、朝寝坊なんてもっての外、四角四面の一分の隙もないご立派な神様に成るしかないんだわ。当然贅沢なんて許されるわけがない。表向きはな。だか教団幹部は人間だ。そんな一分の隙もないご立派な人間な訳が無い。その矛盾を露見させるには贅沢品を世に氾濫させるのが一番手っ取り早い。貧民連中がうまい酒を飲み高級な飯を当たり前に食っているのに、教団幹部が粗食で通す…なーんて3日も保たないさ。幹部の腐敗が露見したら我慢していた末端の信者が教えを守る気も失せるって。」


「なるほど…ご主人様とは思えない、合理的です。」


…なんか引っかかる言い方じゃないか、ミドリ。俺はいつも合理的なはず。


「あら、旦那イオリさまは、感情の赴くままに先ず決めて、後付けで論理をこじ付けていくスタイルがお得意ですわよね、ミドリさん。」


「はい。荷車リヤカーに乗るのが当たり前になった時も、ダナイデ様のおっしゃる通りでした。上手く丸め込められました。」


「な、なにを言う…あれはタマタマだなぁ…」


「膝枕の時も、うまく乗せられていました。」


「膝は…まぁ…上手く乗ったとは思うが、事実重要な役目が有ってだな…」


過去の糾弾会場になりかけた頃、硫黄地帯に人影が見える。


「主さまー。赤いドロドロのとこ、だれか座ってるよ~~」


「珍しいな。あれに目を付ける人間が俺以外に居るとはな…」


誰だろうと近ずいてみると、そこには !


「セ、セイコ・サオリ さん??」


「(チラッ)………」


「あの、こんな場所で何されてるんですか?ゴダン・オーディンの他の方は?」


「…釣りをして太公望を待っていた…」


…はぁ?釣りって、糸も竿も持ってないだろ。第一、こんな硫黄沼に魚が居るかって。…しかし驚いたな。脳筋上等、イケイケドンドンのセイコ・サオリが『太公望』てな単語知ってたんだ…


「太公望ねぇ…なにかお悩みのようですね。俺の家がすぐ近くだから、とりあえず来ますか?丁度良いエビも有るし食べましょう。」


予定を変更して、真っ直ぐ家に帰る事にする。家でもふさぎ込んでいるセイコ・サオリにムロータ将軍の時と同じロブスターを出す。


「まあ、とにかく食べましょう。美味いロブスターですよ。そうだ、ミドリ、ミドリの買い置きのウシュクも出してくれるかな。」


酒も入ってやっとポツポツと話し始めるセイコ・サオリ…


「…始めはゴダン・オーディンを結成して魔物と渡り合う事で自分の技量を高められるとウキウキしていたんだ。だがすぐにセイコサオリの成長に仲間が付いてこれなくなった。セイコサオリの望む相手と戦う事は仲間を危険に晒すことになり、すぐに行き詰まった。そこで軍の求めに応じて先鋒を買って出た。こんどこそ心躍る相手と渡り合えると思った。実際、ワイバーンとの一戦は久々に気が晴れる一戦だった。だがすぐに魔物側が戦法を変えてきた。だれもセイコサオリを相手にしなくなった。軍の組織としての弱点を悉く突かれて何もできずに敗退した。当然だ…いくさは個人戦じゃない、団体戦だからな。ならばと身を隠して魔物を奇襲しようとしたが…魔物が勾玉をつけていたんだ。あの、日本古代の有名な勾玉だぞ!…だからすぐに気が付いた。セイコサオリはタマタマ人間として転移してきただけなのだろう…とな。たぶん、あのグリフォンも転移者だろう。…もう、セイコサオリは何をどうしたら良いのか、まるでわからん。何故こうなってしまったんだ…?」


…全部、おりが悪さしたからです…とか、さすがにテイルも言わないようだ…やれやれ。しかし、さすがミドリ秘蔵のウシュク。効果抜群だな。


「セイコ・サオリさんは純粋に強くなりたい、武を極めたいってことで良いですよね?」


「ああ、そうだ、戦など本来どうでもよいのだ。良い敵を求めてずっとまよっているのだ。」


「わかる!!。わかりますよ、それ。」


…おい、ココでそんな怪しげな目で見るんじゃない、ミドリもテイルも。ダナイデまで…


「あ、ごほん。実は俺も若かりし頃同じだったんですよ。俺は将棋ですけどね。良き敵を求めてまよう、あるよなあ。俺も近隣の道場アチコチまよいましたよ。当時はインターネットなんて無かったしね。思い出すなあ、違う道場なのに他所で出会った人と当たったりね(笑)。大阪の十三の道場のすり減った駒とか感動ものだったですよ。今でもやってるのかなあ…」


「そ、そうか、解るか。お前もそうだったんだな。こんな人間はセイコサオリだけかと思っていた…」


「セイコ・サオリさん、それなら話は簡単だ。武を極めるために切磋琢磨できる良き敵、あるいは遥かな高みに居る師匠が居たらいいんですよね。」


「そうだ、その通りなんだ。セイコサオリは、そう云う場を求めているんだ。」


「知ってますよ、一人。セイコ・サオリさんが十分に歯応え感じられる相手を。しかも、殺し合いに成らずに何度でも『ぶつかり稽古』できる相手。」


「居るのか、居るんだな。会わせろ、いや、会わせてくれ、頼む。」


「会わせても良いですよ。セイコ・サオリさんだしね。ただ約束してください。その方は山の隠者です。世間に出てくる事を極度に嫌っています。その方と仲良くしている僅かな方々も似た方々です。なので、皆の事や、私がその方に繋がりがある事など、全て内密に。」


「おお、山籠もりされておるのか。さもありなん…もちろん秘密は口外せぬ。手合わせして師匠と呼べるのであればセイコサオリも山に籠るのだ。どうせ口外など出来なくなるしな。」


「セイコ・サオリさんに二言無しと聞きます。契約成立ですね。では、明日にも向かいましょう。しかし、なぜセイコ・サオリさんはこの硫黄地帯に来たのですか?」


「ん?ああ、それは行き詰まったらココに行けと、最近噂になっているからだ。どうにもならない屑の転移者だった連中がココに来て人が変わったように生き生きとしていると、一部で評判になっているのだ、知らないのか?」


な! 


…『虹の架け橋』グッドジョブだ。あとでロブスター差し入れしよう。





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