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100 ヒュドラ

セイコ・サオリの相手として白羽の矢が立ったヒュドラは、エルブール山脈にある活火山に住んでいるという。黒の海の別荘からまっすぐ山を登っていけば会えるらしい。ただ、引き受けるかどうかは俺との話次第でまだ確約は取れていないと云う。


「すみません、旦那イオリさま。ドラゴンだのヒュドラだのは気位が高くて。自分の目で見ないと信用出来ないの一点張りで。」


「それぐらいでないと、セイコ・サオリの相手は出来ませんよ。最初数回はコテンパンにセイコ・サオリを打ち負かせるぐらいで丁度です。」


「ご主人様、では明日は別荘へ移動ですね。行く先々で罠の増設と交換もしていくので荷台が窮屈ですけど、我慢してください。」


うむ。正室ミドリがいよいよ板についてきたな。指示せずとも罠の件はキッチリ進んでいく。


「『柴漬け漁』の仕掛けも引き上げて見ないとな。まあ、絶対掛かっている筈だが…」


「主さま~。エビなんてどうやって食べるの~~」


「テイル。『柴漬け漁』で捕れるのは小エビだから、煮込んでスープにするぐらいだな。エビをスープにすると甘くなって美味いんだぞ。」


そう云えば、この世界では甲殻類を食べていない。イカ、タコもだな。冷静に考えてみたら、エビ、カニ、イカ、タコなんて、食べれるとは思えない形状をしている。最初にカニを食べようとか思った人間はチャレンジャーだ。


家に帰り着くとテーブルの上には花札・株札・サイコロ以外に将棋の駒も数セット完成されて置かれていた。あれから『虹の架け橋』の3人と全然顔を会わせていないが、ひたすら製造に集中しているようだ。


「これは、予想以上に頑張って造っているじゃないか。」


「ご主人様。この調子なら、『エロ本』のほうも期待できそうですね。」


…エロ本に一番 はまりそうでヤバいのは、ミドリ、本好きのお前なんだが…


「明日からまた遠征になる。皆今日はしっかり休んでおくようにな。」



昨夜はテイルにガッツリ襲われた。活火山の山登りで活躍するので、その前受け金の回収だそうだ。テュロス当たりか?そんな用語をテイルに教えたのは。


「いよいよヒュドラとご対面となると、緊張するな。」


「あら、旦那イオリさまでも、ヒュドラやドラゴンは興味ありますか?ただの我儘なまま大きくなった、自分が一番強いと思い込んでいる脳筋ですよ。」


「脳筋結構。お互い脳筋同士なら、三流TVドラマのように殴り合った後で爽やかな笑顔で握手出来るだろう。」


「ご主人様。三流TVドラマ?って。」


「元居た世界の演劇だよ。一つのパターンでな。殴り合った後で抱き合って泣きながらお互いを褒め称えて夕日に向かって走り出すのだ。」


「主さま、それ、きもーーーーい。」


「非合理的です。あまりにも理不尽です。」


旦那イオリ様、ちょっとそれは……」


「…今からまさにそれを再現しようとしているのだから、ヒュドラやセイコ・サオリの前ではニッコリ微笑んで見守るようにな。絶対に残念な子を見るような目をしてはいけない。た、頼んだぞ。」


セイコ・サオリ籠絡プロジェクトの方針を説明しているうちにヘルマンド川に着く。


よびいしでマーマナを待つ間も女性陣は ”そんなさんなシナリオで大丈夫か” とか ”世の中の現実を教育すべきだ” とか騒いでいる。


俺もこんな手使いたくないよ。キモいし。でもコレが一番セイコ・サオリを釣り上げやすいので仕方ないんだよ。陳腐で臭い筋書きだけど、効果があるから多用される。多用されるのでさらに陳腐になる…


「お待たせー」


程なくマーマナがやってきて喧騒が収まる。

マーマナは皆の癒やしでもあるようだ。


「いつもすまないな。今日はいよいよエルブール山脈のヒュドラに会いに行こうと思うので送ってくれるかな。」


「解ったー。じゃあ、また暫くは黒の海の別荘を拠点にするんだね!!」


マーマナが素直に喜んでいる。俺も暫くはマーマナと一緒に居られて嬉しいぞ。


ヘルマンド川を下って鏡のような黒の海の湖面をエルブール山脈めがけて進む。

この世界、亜人が海に進出できていないので、海に出てしまえばお気楽旅だ。


「この海、何故黒の海と云うのかな。全然黒くないのに。」


「伊織ぃー。黒の海はホントに黒いよ。」


「え?マーマナ、何処が黒いんだ、青じゃないか。」


「黒の海の底の方は真っ黒なんだよ。で息がしにくくて苦しくなるの。」


「そうなのか。息が苦しくなる…酸欠状態か。たしかに出口が狭い内海で最奥地の溜り水だから、対流はしにくいだろうな。でも、魔物が黒の海と呼ぶのは判るが、亜人も黒の海と呼んでいるよなぁ?」


旦那イオリさま、それはダナイデが知っていますわ。大昔、まだ亜人が皆、今のケルート人のような生活をしていたときは、ケルート人のように魔物とも普通に交流が有ったのです。人間が大きな群れを造り、次々群れを吸収してさらに大きな群れ、国を造るように成っていつの間にか群れの外とは敵対するように成って行ったのですわ。でも交流があった頃の記憶は失っても、黒の海の名前は残っているのですわ。」


さす、1億五千万歳のダナイデ様。歴史を聞くには最適だな。


「なるほどなあ。それで黒の海か。」


黒の海の語源がわかる頃にはエルブール山脈に切れ込んだ湾の奥に着く。山頂付近から活火山の噴煙が立ち上っている。


「うわぁ…これ、登れるのか…とてもじゃないが無理だろ。」


「ご主人様、そう云われると思ってすでに考えてあります。」


ダナイデがテイルの背に合わせてクーリーが背負うような荷台を造ってくれる。どうやらテイルの背に付けられた荷台に後ろ向きに座って乗ってなさい…という事らしい。昨夜テイルが言っていた『前受け金』とはこの料金だったのか。


「すまんな、テイル。下が丸見えで結構怖い。ゆっくり上がってくれるかな。」


「主さま~、怖いなら早く登っちゃったほうが、時間短くて良いとおもうよーー。」


「い、いやな、怖いながらも景色もゆっくり楽しみたいかなーって。は、は。」


「解ったー。じゃあゆっくり登るねー。」


ゆっくりとは云え、結構な速さで上がっていく。湖面がドンドン遠ざかり黒の海全体の輪郭も解ってくる。


「ホントに空豆みたいな形なんだな、黒の海。」


速さは無いがパワーのあるミドリは勿論、ダナイデ様もふわふわ軽やかに登っている。


…ダナイデの、あの抱きついたときの質量はどこに消えたんだろう…


「ご主人様、火口です。」


頂上の鞍部にたどりついたので、テイルから降りて火口を見る。

火口の手前、中程に待っていたぞと云う風情で3つ首の龍のような巨大な『キングギドラ』、いやヒュドラが居る。


「あれがヒュドラ……どう見ても『キングギドラ』にしか見えん。まあ、色は赤で金色ではないが。」


さて、ココからは俺の仕事だな。まずは言葉だが…


「魔物にくみする伊織と云う異端の人間はお主じゃな…」


はぃ? 

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