プライドのない嘘
きっかけは、宿をチェックアウトする時だった。
「お前さんたち、祭りは見ていかないのかい?」
宿の主人がそう聞いてきた。祭りが行われるというのに、早朝から出発しようとしているヨゾラたちを見て不思議に思ったのだろう。
「ええ、急いでいるんで……ほんとは見て回りたいですけど……」
お釣りを受け取り、ヨゾラはアマネをちらりと見た。
アマネはさっさとしろと言いたげな目でこちらを見ている。あの様子だと、祭りを見て回ってから出発するのは無理そうだ。
「そりゃあ、もったいない。大会も開催されるってのによ」
「……大会、ですか?」
「お前さん達にピッタリの大会があるぜ」
「いや、大会に出ても、どうせ俺なんかじゃ良い成績は残せませんよ」
「そんなことないと思うがな。あの紙、どこにやったっけ……おいっ、そっちの嬢ちゃんもこっちに来てくれよ」
「私?」
宿の主人が何かを探しながら、出口付近に立っていたアマネに声をかける。
アマネが近づいたところで、宿の主人が一枚のチラシを見せてきた。
「ほら、お前さん達にピッタリの大会だろ?」
チラシに書かれていたのは、参加条件がカップルである大会の詳細だった。
何がピッタリなのか。宿の主人には、喧嘩ばかりしている自分たちが付き合っているようにでも見えるのだろうか。
「はぁ」
アマネが分かりやすくため息をついた。ああ、この態度は怒っているというより、呆れているという感じだ。
「あのね、おじさん。こんな根暗野郎が私に釣り合うと思う?」
「ムカつくな、その聞き方」
「ありゃ、違うのかい? お前さんら、そんな若いのに一緒に旅をしているから、夜逃げでもしてきた訳ありの客だと思ったよ」
大商人に追われている点で訳ありというのは間違ってないが、そう見られるのはヨゾラとしては心外だった。
「いや、こいつと付き合うなんてありえないんで」
「こっちのセリフよ」
「そーかい。残念だ、町の奴ら以外のカップルの活躍が見られると思ったんだけどなぁ」
「そもそも、そんな大会に参加すること自体がありえないわ」
「意外と参加しているカップルは多いんだぜ? 毎年、優勝賞品が豪華だからな。今年は確か、最新の世界地図だ」
「おじさん、実は私たち、付き合っているの!」
「は!?」
意見を一瞬で変えたアマネ。
アマネは目を輝かせて、大会の詳細を見ていた。どうやら、大会の優勝賞品に心奪われたようだ。
ヨゾラと同様に、宿の主人もアマネに対して戸惑う。
「え、付き合ってないんじゃ?」
「やだなぁ、おじさん。そんなの恥ずかしくて隠していたに決まっているでしょぉ。ねぇ、ダーリン?」
「待てコラ」
誰がダーリンだ。
ヨゾラは、宿の主人に聞こえないように小さな声でアマネに話しかける。
「何を言ってんだよっ……!」
「しょうがないじゃない……っ。世界地図がどれほど貴重か分かっているの……? 平民が一生働いても手に入らないほどの価値よ。参加するに決まっているじゃない……っ!」
アマネの言う通り、世界地図は希少なものだ。
一般的に売られている、町周辺の地図でさえ高価なのだから、世界地図など比べ物にならないほど高価なのだろう。
それは、商人ではないヨゾラにも容易に想像できる。だけど、だからと言って、あんなにも否定していたことを嘘ついて肯定するのはどうなのだろうか。
「お前には、プライドはないのか……?」
「お宝のためなら、あんたの彼女役ぐらい演じてやるわよ……!」
「で、結局、お前さん達は大会に出るのかい?」
「出ます!」
食い気味に、アマネが答えた。
ここまでくるともはや凄い。商人のお金への欲求は、凄まじいものだ。
「そりゃあ良かった! 二人の活躍が見れるのは楽しみだよ。すぐに受付に行きな。今ならまだ、間に合うはずさ」
「はいっ! 行くわよ、ダーリン!」
だから誰がダーリンだ。その彼女役の演技は、どうにかならないのだろうか。
参加に乗り気じゃないヨゾラはアマネに引っ張られ、すぐさま大会の受付まで連れられる。
「私たちも参加するわ!」
眼鏡をかけた受付の女性に、アマネが勢い良く言う。
ほんとに参加するのかぁ、とヨゾラがため息をついたところで、受付の女性がアマネに答える。
「分かりました。では、お二人が恋人同士である証拠を提示して下さい」
「「……え?」」




