どうしてこうなった?
「あんたと私の契約をもう一度確認するわよ」
次の目的地への旅の途中、アマネが勢いよく言葉を放った。
「あんたと私の契約は、あんたの故郷に辿り着くまで。それまでは、私があんたの旅のサポートをする。そうでしょ?」
「そうだけど……なんだよ、今更確認なんて」
「契約内容には、ゲノヴァとの戦闘なんて含まれていないの! この前の村みたいに、あんたが勝手にゲノヴァと戦闘しても、私が手助けをする義理はない!」
なるほど、つまり、アマネはこう言いたいのだ。
この先、ゲノヴァと戦闘することになっても、契約範囲外だから手伝わない、と。
この前の村で、ゲノヴァを倒してもロクなお礼を貰えなかったことに未だに腹が立っているらしい。
「はいはい、分かったよ。今度からは俺一人で戦うから」
「そういうことじゃない。旅をスムーズにするためにも、旅のプロである私の命令に従いなさいってことよ。私がゲノヴァと戦うなって言ったら、戦わないこと!」
「いや何様だよ……」
「馬鹿ね、あんた。ゲノヴァと戦って足に怪我でもしたら、それだけ旅が長引くのよ。まぁ、私としては、あんたがゲノヴァに食われれば、契約がなくなって楽なんだけどね」
「ねぇ、俺、一応依頼者なんだけど……
「はっ、依頼者ですって? 脅迫まがいに契約を迫ってきたくせに」
「うぐっ……」
痛いところを突かれて、ヨゾラは反論できない。
確かに、アマネと契約した時の状況を考えれば、そう言われてもおかしくない。
「悪かったよ……」
「ま、あんたの要求が私の体じゃなくて旅の手助けだったのは、唯一良かったところだけどね」
「……」
そう言われて、ヨゾラは、アマネのことをまじまじと見る。
「な、なに、いやらしい目で私を見ているのよ」
「……うん、やっぱ、お前に欲情することだけはないわ」
「なんですってぇ! こっちだってね、あんたみたいな根暗野郎なんかお断りよ!」
「うるせぇよ! 世界中の人間が、お前みたいに自信過剰なやつばかりだと思うなよっ」
「誰が自信過剰ですってぇ!」
いつもの調子でアマネと喧嘩をして、互いに言いたいことを言い合って疲れた頃になって、やっと目的地の町に辿り着いた。
この町はサラの村と違って、ゲノヴァ対策がきちんとされている。町の周りに堀を作り、簡単にゲノヴァが町に近づけないようにしていた。
「んで、宿はどうするんだ?」
堀に橋がかけられるのを他の商人たちと待ちながら、ヨゾラがアマネに小声で尋ねる。
「お前の手配書のせいで、安心して宿に泊まれないぞ。またカルロスの手下に追われるのは、嫌だからな?」
「安心しなさい。この町の町長は、カルロスと仲が悪いことで有名よ。カルロス傘下の商人は誰一人、この町で店を開くのを許してもらえないほどにね」
「なるほど、カルロスの手下も、軽い気持ちでお前の手配書を配ることはできない、か。流石は、カルロスの傘下だった命勘定のアマネ。そういった商人の事情にも詳しいんだな」
「……うっさい」
橋がかかり、町の中に入れば、何やら町全体が騒がしかった。
宿へ歩きながら観察すると、町人たちが町の至るところに飾り付けを行っている。
「オゥ、旅人さん、いいタイミングでこの町に来たネ! 明日はお祭りだから、是非楽しんでくださいネ!」
ピエロの恰好をした男に、一枚の紙を渡された。
どうやら、明日は建町記念で大きな祭りをするらしい。だから、明日の祭りのために、町人たち総出で飾り付けを行っているのだろう。
「へぇ、いろんな催し物をやるって。面白そうじゃん」
「言っておくけど、明日は朝早くから出発だから」
「えぇ……ちょっとは楽しんでもいいだろ……」
「呆れた……私たちは、カルロスに追われているのよ? 悠長にしている暇はないわ。それにね、私は早くあんたとの契約を終わらせたいの」
「ケチ……」
「ケチで結構。商人はケチな生き物よ」
アマネと一緒に、これからの旅に必要なものを買い揃えていく。特に重要なのは、地図の購入だ。
「まいどぉ〜」
地図屋から地図を受け取る。
この世界で、地図はかなり高価なものだ。
ゲノヴァがいつ襲ってくるか分からない環境で、地図を作成するのは困難極まりない。
だから、地図は当然、高価になるし、描かれている範囲は、その町の周辺地域、だいたい次の町までだ。
旅をするなら、町に訪れる度に地図を買わなくてはいけない。しかも、地形はゲノヴァによって容易に変えられてしまうため、その町で昔購入したとしても最新の地図を購入しなければならない。
昨日まで使えていた道が、今日になるとゲノヴァによって塞がれてしまい通れないなど、よくある話だ。
地図を購入した後、すぐに宿を見つけてチェックインする。どうやら、店主の様子から見るに、カルロスとのつながりは無さそうだった。
ふかふかのベッドとの再会が予想以上に早かったため、ヨゾラは部屋に入った途端に、思い切りダイブした。体がベッドに優しく受け止められるのと同時に、体中の疲れが癒される。
「はぁ、幸せ……」
「解せないわ……」
うんざりとそう呟いたのは、ヨゾラと同室に泊まることになったアマネだった。
「なんでっ、またあんたと同じ部屋に泊まらないといけないのよ!」
今日も、別々の部屋で泊まることはできなかった。
それがアマネは不満なのだろう。
「文句を言ってもしょうがないだろ? この部屋しか空いてなかったんだから」
「二回も連続なんて、耐えられないわ……」
「前回はベッドが一つだけだったけど、今回は二つだからいいじゃん」
「それでも嫌なものは嫌!」
「どんだけ、別々の部屋にこだわるの。我儘か?」
「商人は我儘な生き物なのよっ!」
「さっき、ケチな生き物って言ってたよね」
「ケチで我儘な生き物ってこと!」
「立ち悪すぎだろ、その生き物……」
アマネの怒りをなんとか鎮めて、その日を終える。
久しぶりにゲノヴァ、カルロスの手下に警戒することなくぐっすりと寝ることができた。この調子なら、これからの旅もなんとかやっていけそうだ。
そう思っていたヨゾラ。
予定通り、早朝にこの町から出発するつもりだった。
だけど、それは中止となり、代わりに村の祭りの催し物の一つにアマネと一緒に参加することになる。
『さぁ始まりました! 毎年恒例のカップル参加大会~!!』
「はぁ…………どうしてこうなったかなぁ」
気が付けば、ヨゾラはアマネとカップルのふりをして大会に参加していた。




