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旅仲間の言うことなのに信じてくれない

 説得を諦め、ヨゾラは急いで二階の部屋へと駆け上がる。


「アマネ、起きろ! すぐにここから出るぞ!」


 ヨゾラは未だに寝ているアマネに叫びながら、荷物を手際よくまとめる。すぐに荷物の整理は終わったが、アマネが起きる気配はない。仕方なく肩を激しく揺さぶって起こす。


「アマネ、起きろ!」

「……うぅん? なによ、ヨゾラぁ……」

「早く起きろって!」


 寝ぼけている様子のアマネだったが、至近距離で目が合った途端。


「きゃあぁぁぁ!!」

「ごふっ!?」


 叫び声をあげながら、腹にグーパンをしてきた。


「やっぱり欲情して襲い掛かってきたじゃない! あんたも他の男どもと同じだったのね! 不潔、けだものっ!!」


 なんという濡れ衣だろう。


「違うって! カルロスの手下がすぐそこまで来ているんだよ!」

「はっ、そんなウソに私が騙されるとでも思っているの? あんたも遂に本性を現したわね」

「馬鹿なことを言ってる場合じゃないっ!」


 そんなやり取りをしていたら、一階からドタバタと足音が聞こえてきた。


「くそっ、もう来やがった!」


 扉の鍵を閉め、椅子や机で扉を急いで塞ぐ。これで、少しは時間が稼げるはず。


「え、嘘……もしかして本当のことなの?」

「さっきからそう言ってるだろっ!」


 窓を開けて、外を見る。

 ここは二階。直接飛び降りるには少し高い。しかし、逃げ道はここしかない。

 窓のすぐ近くに、足場となりそうな立派な木が生えている。


「アマネ、木に飛んで降りるぞ!」

「は!? 荷物はどうするのよっ!」

「もうまとめている! 重い物は諦めろっ!!」


 重い物を取り出して軽くなった荷物を背負って、ヨゾラは思い切りよく窓から飛び降りた。


「っと……荷物軽くしておいて良かった……」


 飛び降りた枝はミシミシと音を立てたが折れずに済んだ。あと少しでも荷物が重ければ、折れていただろう。ヨゾラはそのまま地面へと飛び降りる。

 周りに敵が潜んでいる様子はなく、ヨゾラは安堵の息を吐く。そしてすぐに、頭上から悲鳴が聞こえてきた。


「っ、きゃあぁぁ!?」

「ぐへっ!?」


 木の枝が折れて、アマネが落ちてきたのだ。

 ヨゾラは彼女と彼女の抱える荷物の下敷きになる。


「痛い……ん?」

「俺の方が痛いんだけど……」

「あらら……クッション役、ご苦労様」

「後で絶対に泣かす、こいつ……!」


 ムカついたヨゾラは、どいたアマネにすぐさま文句をぶつける。


「言ったよな、重い荷物は諦めろって! そりゃあ、太い枝も折れるに決まっているだろ!」

「うっさいわね! この子たちがどれだけ高価な商品か分からない!? あんたが一生働いても買えないほどよ!」


 アマネが大事そうに胸に抱える商品。

 それらは、ヨゾラが置いていくと判断した重い商品だった。

 商人であるアマネとしては、置いていくことがどうしてもできなかったのだろう。しかし、重量のあるそれらを抱えれば、ヨゾラの体重を耐えた枝でも折れてしまうのは当たり前だ。

 そんなことは考えたら分かるだろ、とヨゾラはムカつきが収まらず、アマネに反論する。


「あ、なんだと? じゃあ、凝りもせずにお前が今も履いている黒い下着も、さぞ高価なものなんだろうな?」

「あ、あんた、また見たの!?」


 アマネが顔を赤くして、スカートを慌てて押さえる。

 落ちてきた際に一瞬見えた黒い物体はやはりそうだったか。


「とにかく置いていけ。邪魔になるだけだ」

「嫌よ!」

「こんな時までわがままは――」


 そこでヨゾラの言葉は途切れることになる。

 ヨゾラたちの居た部屋が、突然爆発したのだ。

 夜に響く轟音。それと共に、ガラスの破片が落ちてきて、ヨゾラは咄嗟にアマネに覆い被さる。幸い、大きなガラスの破片が落ちてくることはなく、小さな破片が背中に積もるだけで済んだ。


「えっと……あり、がと…ぅ」

「くそっ、奴ら正気か!? こんな夜中に大きな音を出したら、ゲノヴァを村に呼び寄せてしまうだろ!」


 アマネの呟きは小さくて聞き取れなかったが、爆発で頭が一杯だ。

 夜中に、遠くまで響く音を出してはいけない。それは常識だ。

 ゲノヴァの中には、夜中に活発に動く種類もいる。夜中に大きな音を出せば、そいつらに自分はここにいますと教えるようなもの。数体のゲノヴァが襲いに来れば、村はお終いだ。実際に、それが原因で壊滅したという村は珍しくない。


「それだけ、奴らも本気ってことよ」


 アマネがそう言い放ったところで、破れた窓から数人の男たちが飛び降りてきた。二階の高さでも怪我することなく地面に着地している。その様子から、彼らが訓練された人間であることが推測できる。

 彼らは全員、紋章が刻まれた赤いマントをしている。アマネを追っている大商人、カルロスの手下である証明だ。


「あんたら、分かっているのか? 爆発のせいで――」

「無論分かっている。だが、カルロス様の我慢も限界だ。ここでお前たちを逃してしまえば、結局、我々に命はない」


 ヨゾラの言葉を遮るように答えたのは一番歳を取っている中年の男だった。おそらく、この中でのリーダーなのだろう。


「あんたらの事情なんか知るかよ! 俺が言いたいのは、この村の人たちの安全を脅かすなってことだ!」

「村のことなど知らん。俺たちも自分のことで頭が一杯だ」


 中年の男は腰の短剣を抜き、その先をアマネへと向ける。


「命勘定のアマネ、お前をカルロス様の前に連れていく」

「私がそう言われて、大人しく捕まると思う?」

「抵抗するのであれば、殺してもいいと言われている」

「相変わらず、カルロスは物騒ねぇ。自分に逆らうものを許さないんだから」


 短剣を向けられても、アマネは不敵に笑う。

 アマネは相変わらずだなと思いながら、ヨゾラは周りを見る。

 完全に囲まれていて逃げ道を見つけることができない。

 戦うしかないかと諦めていたら、不意に地面が揺れた、気がした。

 いや、気のせいじゃない。地面が揺れている。最初は僅かだったが、どんどん大きくなっている。


「はぁ……やっぱり、こうなるか……」


 ヨゾラのため息交じりの呟きに、追っ手のリーダーは眉をひそめる。


「この揺れが何かわかるのか?」

「さっき言ったろ、ゲノヴァが近づいてきてる。こんなことをしている場合じゃない。村の皆を非難させないと」

「では、すぐに終わらせるとしよう」


 短剣を構えて、襲い掛かってくる追っ手たち。彼らの頭には、アマネを捕らえることしかないらしい。


「馬鹿っ! 今動くと――」


 ヨゾラが注意しようとした、その時。


「グガラァァァ!!」


 地面からゲノヴァが現れ、追っ手のリーダーを丸呑みした。

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