御伽噺の武器
「誠に申し訳ありません。お二人で一つの部屋に泊まって頂くことになります」
受付にいるのは、若い女性だった。疲れ顔で、目の下のクマがひどい。宿の経営で相当苦労しているのだろう。しかも、この宿に他の従業員の姿はなく、どうやら彼女一人で経営しているようだ。
「そんな……」
ヨゾラはぐったりとした。
宿に泊まる時は、ヨゾラとアマネはいつも別々の部屋で泊まっていた。
アマネに手を出すことなど神に誓ってあり得ない、とヨゾラは自信を持って言える。だけど、アマネは信じてくれず、また、そもそも彼女は男性不信であるため、今まで同じ部屋で夜を過ごすことはなかった。
普段なら、二部屋が空いている宿を見つけるまで探すのだが、今回は旅で疲れて、流石に他の宿を探す気力もない。
それはアマネも同じだったようで。
それ以上文句を言うこともなく、彼女はしぶしぶ部屋の鍵を受け取り、上の階へと向かっていった。
「あの、すみません。宜しければ、これを……」
アマネに続こうとしたら、宿の女主人に呼び止められた。彼女の手には、パンと水が二つずつ乗った盆がある。どうやらそれを譲ってくれるようだ。
あまりの彼女の親切な行動に、ヨゾラは驚く。
「いいんですか?」
「ええ、お疲れのご様子だったので」
「じゃあ……御厚意に甘えて。ありがとうございます、えっと……」
「サラと申します」
「ありがとうございます、サラさん。でも、俺たちみたいな奴にこんなことして大丈夫なんですか? 宿の経営に余裕ないように見えますけど」
「皆さんの健康の方が重要ですから。正直なところ、経営は大変ですけどね、えへへ。買い替えるお金がないので、ボロボロなのは許してください」
魅力的な笑顔を浮かべるサラから、ヨゾラは盆を受け取った。
確かにこの宿はボロボロではある。しかし、汚いわけではなく、むしろ清潔だ。彼女がどれだけ苦労して清掃しているかが分かる。
「ボロボロでも綺麗な宿だと思います。特に、あの絵はきちんと手入れしているんですね」
サラの努力が最も感じられたのは、受付の横に飾られている絵画だった。額縁も輝くほど綺麗で、この宿の中で唯一の新品と言われても疑えないほどだ。
「あれは、両親の遺品なんです。宿を始めたばかりの時に、絵描きの客から頂いたようで」
その絵画には、ゲノヴァと思われる怪物が倒れている姿と、その傍らに一本の剣が描かれていた。
「あの絵に描かれているのって……」
「ええ、ミトロアが描かれています」
ミトロア。
今では誰もが知っている、御伽話で出てくる武器だ。
「ミトロア、か……」
「はい、ゲノヴァを倒すことができるとされている幻の武器です。ゲノヴァの再生能力を無効にすることができると言われていますね」
どんな傷もすぐに再生するゲノヴァ。その能力のせいで、人類は滅亡寸前まで追いやられた。
ミトロアには、そんなゲノヴァの再生能力を無効にする力が存在すると言われている。
「サラさんは、ミトロアについて何か知っていることとかあります?」
「いえ、御伽噺のことぐらいしか……私はミトロアの存在をあまり信じていないので」
「そうですか……」
サラのようにミトロアの存在を信じない人がほとんどである。もし存在しているなら、人類はここまで絶滅の危機に瀕していないはずなのだから。
「……もしかして、お二人が旅しているのは、ミトロアを探すためとか?」
「え? あー、いや、俺とあいつは、俺の故郷に向かっているだけですよ」
そこで、ヨゾラの腹がぐうと鳴った。
「えっと、すみません、部屋でパンをありがたく頂きます」
「ふふっ、そうですね。おやすみなさい」
サラと別れて、ヨゾラは二階に上がる。
自分たちの部屋へと入ると、アマネが既にベッドを占領していた。
「あんたは床で寝なさい」




