第1話 ~少女に転生した勇者~
~鍵カッコの使いについて~
「()」は心の声の表現として書いています。
後は同じキャラクターがしゃべる場合には
「今日は天気がいいな」
「外にたこやきを食べに行こう」
のように改行せずカッコをくっ付けて表現しています。
0329:大幅な内容変更をしました!
「(...ここは何処だ?)」
「(あの後、仲間達はいったいどうなったんだ?)」
気が付くと彼は草木の中に倒れ込んでいた
爽やかな風が吹く中、彼は起き上がり辺りを見渡した。
「(緑ばっかで、人の気配は全くしないな)」
「(暖かな気候からアベリシア大陸の南西周辺だと思うが...)」
「(どうやら、ここに飛ばされたのは俺1人みたいだな)」
見渡す為に身体を動かす...その度に感じる謎の違和感
まるで身体が縮んだかのような感覚に彼は襲われていた
そして、彼はその違和感の正体を確かめる為に手足を見つめる
「(あれ...俺の手ってこんなに小さかったか...?)」
子供のような大きさの手足に、戸惑う勇者アデル
小さくなった手足を見て、彼の頭には一つの予想が立った。
それは、魔王の術によって時間が巻き戻り、子供の頃まで戻されたと言う事だ。
戦力差で勝ち目が無いと分かった魔王が子供時代の勇者自身を狙うと言う筋書は考えるに容易い
「(だとしたら、なぜ知性と記憶がそのまま残っているんだ...?)」
なぜか知性と記憶が残っている...それは魔王にとっての致命傷になりえる要素
記憶だけならば、幼い子供がいくら伝えようにも限度があるだろう…
しかし、情報を活用し大人たちを納得させるだけの知性をも持ち合わてしまえば
魔王にとってはこれほど動きづらい事は無いだろう。
あれだけの啖呵を切って、魔術が失敗したのか?
考えれば考えるだけ、彼の疑問はより一層謎が深まるばかりだ
そして、彼は確かめるように手や胴体を触った。
「え、俺ってこんなに柔らかったっけ...」
子供とはいえど男だ、それ相応に筋肉質や骨張った感じがあるはずだ
それに俺は、幼少期から既に勇者として魔王を倒す為に訓練されていた事もあり、手の皮膚は普通の子供よりも硬かった
しかし、手にはまるで女性のような柔らかな感触が伝わった。
驚いた彼は不意に声を出す、それは聞き覚えの無い女の声だった。
それを聞いた彼の脳裏には嫌な予感が過り、すぐさま確かめる為に近くの湖に顔を映して確かめる。
「な...なんだこの少女は...」
そこには、透き通ったブロンドの髪に白く質素な服を着た華奢な身体の可憐な少女の姿が映り込んでいた。
突然の状況に彼の頭はついていけず唖然としてしまう。
自身の姿を実際にまじまじと確かめるも、そこには白く透き通った華奢な身体があった
「嘘だろ…これが俺の身体?」
「(それになんだ、この服装は…!足元に風がスーッと入ってきてなんだか、落ち着かないし…)」
寝ぼけた頭を覚まそうと水を浴びるも水面には、自分自身が少女になってしまったという事実が如実に映っていた。
「本当に...この俺が女になってしまったと言うのか...?」
身体が少女になってしまった。その状況をまだ受け止めきれない
しかし、それに戸惑っていても仕方がない...一先ず自身の能力を確かめ、その能力に応じて今後の方針を決める必要性があるだろう。
「よし、軽く跳躍してみるか...」
ー ぴょん、ぴょーん ー
魔王戦時のアデルなら、家の屋根程度の高さなら軽く飛び乗れられ、
そして本気を出せば恐らく、素の身体能力で数十メートルの高さを飛べただろう
しかし、その驚異的な身体能力は欠片の一つ残っていなかった。
彼(彼女)の跳躍は、傍から見ればまるで愛くるしい小動物のそれにしか見えないものだった。
「まさか、ここまで身体能力は無いとは予想外だ...」
本来なら、すぐにでも人のいる場所を目指して移動を始めたい所だが、ここまで身体能力が無いとなると、野党どころか野生動物ですら遭遇するのはリスクが高いだろう。
非常事態ゆえに出来れば、転移系のアイテムに頼りたい所だが...辺りにアデルのアイデムバックは見当たらなかった。道具に頼れない以上、魔力を不用意に消耗したくは無いが魔法で無理やりこの草原を脱出するしか無いだろう
「仕方ない、第四飛翔術式フライト!」
しかし、アデルの唱えた魔法は発動せず何も起きなかった。
「フライトが発動しない...?」
「まさか、呪文を間違えたか...?」
ふたたび同じ魔法を唱えるアデル、しかし魔法は発動しなかった。
別系統の術式なら発動するかもしれない。そんな可能性に掛けてアデルは知る限りの魔法を唱え続けた...が効果を発動したものは、ただの一つも無かった。
「なんでだ...!あれだけ、唱えて一つも魔法が使えないなんて...」
多くの力を失い、途方に暮れるアデル
しかし、呆けている場合では無い。1日でこの草原を抜ける方法が無いならば、今生き延びる方法を考えるしかない。生き延びて人のいる場所にさえ辿りつければ活路は開く「身体能力」「魔法」「アイテム」すべてを奪われた彼(彼女)にはもう一刻の猶予は無い。
「絶対に生き延びて、今度こそは勇者としての使命を果たす...!」
「ひとまずは川さえ、見つければ当面の問題は解決する」
水を持ち運ぶ容器が無い以上、しばらくはあの湖に頼るほか無いが、それでは一向にこの草原地帯から抜ける事は出来ないだろう、それゆえに川を見つけたい。
彼(彼女)は草原を突き進んだ。すると次第に木々が生い茂り、林のような場所に辿り着いた。
「ふぅ...少し歩き疲れたな、そこの木陰で休むか」
「はぁ...お腹...空いたな...」
道中、幾らか食べれそうな野草や木の実を食べてみたものの、当然空腹感は紛れない
「何か…他に食べれるものは無いのか…?」
そう辺りを眺めていると、微かに何かが焦げた匂いを感じた
「...?向こうに何かいるのか?」
普段なら、不用意に付かずこうとは思わないだろう。
しかし、このまま夜明けまでに食料や安全な寝床を確保するのはかなり厳しい状況だった。それに夜は冷える…この身体で火を起こせるか分からない以上、出来れば火があるなら確保したい
ならば一縷の望みにすがってアデルは、その場所に行く事にした。
「...焚火だ!っていう事は誰か冒険者が近くにいるって事か?」
今まで散々な目に合ってきたが、ようやく望みが見えてきた
冒険者に助けてもらえれば、この草原地帯から脱出できる...!
そう考えた矢先の出来事だった。近くの茂みが揺れ、小さな何かが近づいてくるのを感じた
「なんだ...?何か来たか?」
明らか様子がおかしい...そう感じたアデルは咄嗟に近くに落ちていたナイフを持って警戒する
そして、その瞬間...茂みの中からその小さな何かは勢い良く薪の前に飛び出してきた
「グギャア!ギシャアアア!!!」
「!ゴブリンだと...?なぜこんな場所に...!」
迂闊だった...まさかあの焚火がゴブリンが起こした物だったとは...
ゴブリンは魔族の中では最下級の存在だ、知性も身体能力、そういった特別秀でた能力は無い弱者だ
それ故に、彼らは自らの振舞いを知っている...用心深く狡猾な魔物だ
「(どうする...今の身体でゴブリンと戦えるのか...?)」
この身体で真っ向勝負を仕掛ければきっと、打ち合いになって負けるだろう
「(考えろ...!相手はたががゴブリンだ、何か隙は無いか...?)」
そういえば、ゴブリンは基本的に身体能力で相手より優位を取れている場合に限って、敵を撹乱し確実に仕留める為に飛び掛かってくる可能性が高い...しかしその瞬間に大きな隙が出来る
「よし、これしか無い...先に刺すか、刺されるか...タイミングを外せば命は無いが…」
「ギシャアアア!!!」
気味の悪い雄たけびを上げた瞬間、高く飛び上がり、華奢な少女の身体に飛び掛かる。
「(ここだ!しゃがんで攻撃を避けつつ、腹部を狙って逆に飛び掛かるように突き刺す…!)」
その瞬間、ゴブリンは悲痛な断末魔をあげ、息絶えた...
「ふう...なんとか...なったか...」
そう油断した瞬間だった、背後から別のゴブリンが襲い掛かってきたのだ
突然の事に驚きながらも左に飛んで避ける...しかし彼(彼女)の身体能力は今や一般的な少女のそれでしか無く、咄嗟の機敏な動きについていかない…そしてそのまま避け切れず、か細い右腕にゴブリンの棍棒が当たってしまう
「…っあ、ナイフが...!」
「ギヒャヒャヒャ!」
その一撃は華奢な身体とって、致命的な一撃となってしまった。
彼(彼女)の腕はしばらくは動かない、武器も落とし戦う術を失ってしまった
そして辺りにはゴブリンの奇妙な笑い声が、鳴り響いていた
「殴られた右腕が酷く痛む...」
「く、そ...こんなところで俺は...終わるのか...?」
そして近くの茂みがまた、不自然に揺れている...
「(ゴブリンの仲間が近づいてきているのか...?)」
「くっ...そもそも戦わずに、すぐ逃げればこんな事にはならなかったのか...?」
もうだめかと思った矢先、絶体絶命の危機に陥った彼(彼女)の前に茂みの中から1人の青年が現れる
「女の子...!おい、お前大丈夫か?」
「(…っはぁ…冒険者…?よかった...助かった...)」
「ああ、腕が動かない事以外は問題無い...」
「なんか不気味な声が聞こえると思って着てみれば、こんな事になってるなんてな...」
「もう大丈夫だ、後は俺が何とかする」
その言葉を聞いて、安堵したアデルは緊張の糸が解け、そのまま意識が途絶えた
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
何度か読み直している内に世界観を説明する展開が多いと感じ、感情的なシーンを急遽入れてみました。
良かったら、アドバイスや感想をいただけると幸いです!