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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
終章 いずれ菖蒲か杜若
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五十三話

〜ディスクリプション オブ サテライト〜


 あるところに一人の科学者がいた。その科学者はその時代の誰よりも頭が良かった。そんな彼が提唱したのは魔力を活用し半無限のエネルギーとするというものだった。彼はそれを魔科学と称した。

 しかし世間は彼と魔科学を否定した。それはひとえに彼にしかその理屈を理解できるものがいなかったからである。


 彼がいつから狂ったのかは誰にもわからない。最初から狂っていたかもしれないし、最期まで正気でいたのかもしれない。


 最初は魔力を帯びた鉱石の研究だった。

 その研究が進んでいくにつれて、その研究は鉱石だけではなく生物にまで及んでいった。魔力を行使するためには結局意思が必要となっていることがわかったためである。


 始まりに手を付けた生物はにれの木だった。

 そうして誕生したのが最初の人造悪魔である。

 実験はうまく行った。喋れるようにまでなった人造悪魔はかなり強力で、ここから魔科学の進歩は加速した。


 次に手を着けたのは人間だった。彼の最愛の妻を人造悪魔に変えた。

 魔科学を正しいと信じればこその行動だったのかもしれないが、彼のその行動は周りから強く批判された。


 それでも彼は止まらなかった。

 人間の体は魔力を行使する上で、不都合が多かったので肉体の殆どを機械へと組み替えた。最初こそアンドロイドのような人間型に拘っていたが、スペックを求めるにつれて徐々に大きくなり、最終的には巨大な機械に付随する人間型の機械のようなものになってしまった。

 

 しかし彼は満足していた。様々な実験から二人目の人造悪魔は一人目とはまた違った個性を持っていたことがわかったし、この人造悪魔達はとても従順である。



 彼は妻と協力し三人目、四人目の人造悪魔を制作した。

 その素体は彼らの息子と娘である。一度人間をベースに作ったことがあったので、その経験からかなりスムーズに作ることが出来た。

 二人目の人造悪魔ような大きな機械を用いずとも、二人目の人造悪魔と接続することで、子機のように一部機能を制限しながらも十分な働きを見せた。


 しかし人間ベースだとどうしても機械の体せざるを得ない。コストも掛かる。

 そうして次の実験体に選んだのは、半分鳥で半分魔人のフェザードという種族だった。抵抗されたが四人の人造悪魔がいれば一匹確保する程度、造作もなかった。


 人間へ施した技術の応用ができる。そしてこれならば機械の体にしなくても十分運用に耐えられる。

 今までとは異なり反抗的なので、従順にするために記憶か精神かにも改造が必要そうだった。


 彼はこの過程で『記憶や自我』と『魔力』の結びつきの強さを理解した。人間は脳に記憶を保存しているが、どうやら魔力を持つ生物は脳だけでなく魔力そのものにも記憶を保存するようである。

 それならば彼の専門分野である魔科学がそのまま通用する。


 魔力の中に記憶を入れる技術さえ確立できてしまえば、そこから記憶を修正することなど彼には容易い。


 そこから彼の魔科学、そして人造悪魔制作は急成長を遂げた。

 強い魔力を持った生物を使えばその分だけ強い人造悪魔が作れるし、そういう魔力を持った生物ほど記憶をいじるのは簡単で、捉えるのは難しい分見返りも大きかった。


 グリフォンや海龍、鬼、龍……果てには天使や悪魔までも人造悪魔とした。悪魔を人造悪魔にするという傍目には意味のわからない行為も単純に彼の支配下に入るという事を考えれば無意味ではなかった。

 実際には彼にしかわからない別の何かがあったのかもしれないが、それについては今となってはわからない。



 それから彼は人造悪魔制作に満足したのか、自らを人造悪魔へと改造を始めた。

 彼の妻子だった人造悪魔達の手伝いもあって、彼の悪魔化はスムーズだった。機械の体を使わずとも、他の魔力を持った生物の部品を使えば色々都合がつくこともわかっていたし、彼は妻子とは全く異なった最も強い人造悪魔となった。


 彼はその力を試さずにはいられなかった。

 そのために彼はとある悪魔に目をつけた。


 その悪魔は何故か別の悪魔と共に人間と一緒に暮らしていた。


 彼はその人間をその二人の悪魔に見られないところで殺害した。

 その上で人間の死体を見つけた悪魔に、それをやったのは天界の神々だと囁いた。そしてその復讐の手伝いを買って出たのだった。


 そしてそこから彼は作った人造悪魔達にサテライトと名前を付け、最も古い作品から順にエイプリル、メイ、ジューン、ジュライ、オーガスト、セプテンバー、オクトーバー、ノーヴェンバー、ディッセンバー、ジャニュアリー、フェブラリー、マーチとした。

 彼はここから衛星サテライトのマーチとなった。


 そうして悪魔と共に天界へと侵略し、返り討ちにあったマーチがどうなったのかは記録されていない。

 ただ一つ言えることは、マーチの行いは褒められたものではないにせよ、彼自身が天才であり、そして相応に努力もした結果が魔科学の真髄でありそれをうまく使えればもっと良い使い方もできたはずということである。

 例えば認知症に対しての回答として魔力に記憶を持たせることや、最初に提唱したようにエネルギー問題の解決など、彼に相応しい友人がいたならば或いはそういう未来もあったかもしれない。

 


 サテライトについての記述はここまでで終わっている。



「……ねぇアルス。これって誰が書いたものなんだろう?」

「恐らくマザー……この記述で言うところのメイだろう。」

「にしては、所々変じゃない?」

「どうしてそんなことが気になるんだ?」

「いやぁ……これだけマーチと距離が近かったなら止められなかったのかなって思ってさ。」

「確かにな……書き方的に完全に部外者ってわけではないだろうしな。」


「このデータは元々マザーが持っていたものデス。なのでマザーが書いたものでアルことは恐らく間違いアリマセン。そのデータを発掘したメディスが一部を修正シタ様デス。」

「なるほど〜納得〜。せっかく教えてもらったけどベテルギウスについてわかることはなかったね。」

「スミマセン……。」

「あっいや!責めてるわけじゃないよ!」

「ソウデスカ……?ソレデハ、ベテルギウスの話に入りマショウ。そちらなら少しは訳に立つかもシレマセン。」



 〜 ベテルギウス物語 〜


 ある所に一人の悪魔がいました。

 その悪魔の名前はベテルギウス。彼は生まれた時から忌み嫌われ、孤独な生涯を送っていました。

 そんなベテルギウスに手を差し伸べた一人の人間がいた。その人間は剣を作る為に魔界へと来たらしく、初めはベテルギウスは興味がありませんでした。


 しかしその人間が魔界に家を立て住み始めた頃にはすっかり仲良くなり、同じ家に住んでいたシリウスという名前の別の悪魔とも親友となりました。


 ある時、その人間は過去に類のない最高傑作を二振り作り上げ、それを信頼の証としてベテルギウスとシリウスにそれぞれ譲りました。


 とても優秀なその剣をもらって、元から強かった二人の悪魔は友としてライバルとして互いを高め合っていきました。二人の実力は拮抗し互角でした。


 ある日。


 何者かによって一緒に住んでいた人間が殺されていました。

 シリウスとベテルギウスにはとても信じがたい光景であり、一人はひどく絶望し、一人はとても激怒しました。

 

 これをやったのは誰なのか。

 どうして殺されなければならなかったのか。


 その殺された現場を見ていたという悪魔がいました。

 問うてみると、どうやら天使が『悪魔に強大な力を与える危険思想の人間』と判断し殺したらしいのです。

 『だったら望み通り、その強大な力でおびやかしてやろう』とベテルギウスは決起しました。話をしてくれた悪魔も協力してくれるらしく、仲間と一緒に天界へと攻め入ってくれるようです。


 それでも天界へと登るには戦力的に不安が残ります。

 ベテルギウスは考え、その結果シリウスに与えられた剣も使おうとしました。


 シリウスの不意を突き、深手を負わせました。

 それでもシリウスは止めようとしてきましたたが、知ったことではありません。

 そのままシリウスを力尽くで黙らせ、剣を奪い去りその二振りを持って十二のサテライト達と共に天界へと攻め込みました。


 サテライト達が周囲の弱い天使達を蹴散らしてくれるのでベテルギウスはどんどん前に進んでいきます。


 そんなベテルギウスに立ち塞がる一人の悪魔と一人の天使がいました。

 その二人が持っている剣は、一緒に暮らしていた人間が作ったものであると一目でわかりました。

 彼までもベテルギウスを否定するのかとベテルギウスは悲しくなりました。


 ベテルギウスと天使と悪魔の戦いはベテルギウスの敗北で終わりました。



 そしてベテルギウスはいくつかの魔力に分割されて、封印されました。



 〜 ベテルギウス物語 終 〜



「終。かぁ……そっかぁ。どうしよう、アルス?」

「そうだな……。ベテルギウスが今どこにいるのか……その手がかりになりそうなものもなしか……。」



「アルスサン達は今ベテルギウスがいる場所を探してイルのデスカ?」

「そうだ。言ってなかったか……?」

「聞かれてもわかりマセンデシタガ、もしベテルギウスが何処かへ行ったのならドコか思い入れガアル場所にイルかもシレマセン。」


「思い入れのある場所か……話の中に出てきた人間と出会った場所とかか?」

「それだと魔界であの世界になっちゃうからそれはないよ。ボクには何も思いつかないけど、グレンとかカナタンとか何かわからない?」


 グレンは黙って首を横に振った。

 かなたは……


「あれ?カナタンは?」

「あん?話している途中でトイレいくって行って消えたぜ?」


 いなくなっていた。

 と、いなくなったことに気付いたと同時に戻ってきた。


「ふぅ……ただいま。お兄さん。わかったよ。」

「なにがだ?」

「ベテルギウスの居場所。アカツキの丘陵っていう場所にいるよ。」

「それはどういう場所なんだ……?」

「……封印されたベテルギウスが最初に目覚めた場所だね。今見てきたから間違いないよ。」

「なんでそんな勝手に……。」

「今のぼくは戦えない。だからせめてそれぐらいはやらないとね。ベテルギウスとかサテライトの起こりはぼくは知ってたしさ。」

「そうか……ありがとう。」


「シグザル、ありがとう。俺達は行くよ。」

「アルスサン。ワタシも連れて行ってクダサイ。戦力になって見せマス。」

「ダメだ。連れてはいけない。」

「……ソウデスカ……。」

「すまない……。その気持だけ受け取っておくよ。」

「……ハイ……どうかお気をツケテ……。」


「お兄さん。」

「……かなたも待たせてすまないな。」

「ううん、全然。サテライトやベテルギウスのことはお兄さん達も知っておかないといけないことだと思うからさ。」

「……そうか。」

「お兄さん、この剣。貸してあげる。」

「貸してもらっても……使い方、わからないぞ。」

「わかるよ。大丈夫。ぼくが持ってるより百倍いいからさ。だから返しに来てよね。」

「かなたはどこで待ってるんだ?狭間の世界で待つのか?」

「ううん、ここで待ってる。お兄さんが返しに来てくれないとぼくどこにも行けないから……必ず返しに来てね。」

「あぁ。わかった。」

「狭間の世界まで行って、お兄さん達を送るゲートとぼくが帰るゲートを作ったら渡すね。」

「わかった。」


「ねぇグレン。これから……戦うんだよ。」

「うん?何当たり前なこと言ってるんだ?」

「……そうなんだけどさ。ルヴィナとかネコ助とも戦わなきゃいけないのかなぁ……。」

「それは……旦那と話して、その上で姉御達がどう出るかだろ。」

「グレンは戦う覚悟……できてる?」

「当然……って言いてぇけど正直なとこ、憎い相手でも悪い奴でもない、ましてや仲が良い相手と戦うなんて今までなかったから、覚悟とかっていうより、考えるのをやめた。」

「そっか……じゃあ今のグレンはバカなんだ。」

「お前なぁ……。まぁいい。お前もバカになれよ。そのが苦しくないぜ。」

「うん……。ねぇ、誰も悪くないのに、誰もが苦しんでる。」

「そうだな。ベテルギウスだってやったことはともかく、話を聞いていると別に最初から悪い奴でもないみたいだしな。」

「ボク……悲しいよ。」

「そう……だな。だから戦うんだ。割り切るためにもこれ以上悲しませない為にもな。」

「うん……。」


 暗い狭間の世界。

 そこを抜けてアルス、薫風、グレンの三人は、ベテルギウス達のいるアカツキの丘陵へとたどり着いた。

 ベテルギウスは大きな狼と戦っている。

 ニコルは大きくなっていて、堕天使と戦っている。 


 そして少し離れた所に逆光に照らされた見知った女性の姿があった。

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