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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
終章 いずれ菖蒲か杜若
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五十二話

「薫風……。」

「ふふん!これがボクの実力だよ!アルスは今まで騙されてたのさ!」

「……。薫風の実力がどうであれ、薫風は薫風だ。」

「だからボクを置いていくの?」

「……いや、そうじゃない。本当は薫風がいない間にこの世界から旅立ってしまうつもりだった。そうしようとしたんだが、グレンに止められて、自分のやろうとした事を振り返った。」

「うん。」

「それで、俺が間違ってた。薫風が強くなったとかどうとか関係なく、今まで一緒に旅してきた仲間を見限るような事をして悪かった。すまない。」

「アルス。アルスってほんとバカだよね。いーよ、特別に許してあげる。」

「ありがとう。」


 アルスと薫風は今までにない絆を得た。


「アルス……ボク、アルス達に隠してたことがまだあるんだけど……。」

「言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ。」

「うぅん、大事なことだから言う……言うんだけどさ。アルスが隠してることもボク達に話してほしい。」

「……何の話だ?」

「……。ルヴィナがアルスを……殺すって話。ルヴィナがなんで自分の代わりになんて話になってるのか、ボク達は置いてけぼりなんだよ。」


 グレンも薫風の言葉を聞いて黙って頷いた。


「アルスがボク達に話したくないって言うなら、深く詮索はできないししないけどさ。でもアルスとルヴィナだけの話でもないと思うんだよ。」

「……旦那。正直言ってオレも知りたい。二人の関係性について二人は何も言わないからオレも聞きはしなかったけど、仲間って言う割には姉御と旦那は……遠すぎるぜ……。」


「わかった。話すよ。仲間だからな。でも誰もいない所がいい。薫風もグレンも聞いておく権利がある。」

「……じゃあとりあえず、移動する?狭間の世界なら誰もいないよ。ぼくは……お兄さん達のこと実は知ってるから気にする必要はないよ。」

「知ってようと知ってなかろうとかなたも仲間だ。それでいいだろ?」

「えっ……まぁ……うん。でも、わかってると思うけど、ぼくはもう戦えないよ。」

「仲間かどうかは一緒に戦えるかどうかじゃないだろ。」


「そう!ボクとカナタンも仲間!友達!大事なのはソウルだよ!」

「……うん。ありがとう。それじゃ行こうか。」

「ヨーソロー!」


 そうして旋風に別れを告げ、狭間の世界へとたどり着いた。

 旋風はルヴィナとニコルがいないことについて、気付きながらも聞かなかった。それは旅の途中で不幸があったかもしれないと思ったからである。薫風がアルスに言った言葉を聞いてしまってはいたが、それでも聞かないことにした。


「じゃあボクから話そうかな!」

「いや、俺から話させてくれ。先送りにしていい問題でもない。」

「……心の準備はできてるの?」

「あぁ。……あまり話し慣れてないから、わからないことがあったら聞いてくれ。」


「ルヴィナは双子で、ルヴィナの姉の名前がサフィーナ。ルヴィナが生き返らせるために犠牲になろうとしている相手がサフィーナなんだ。そしてそのサフィーナを殺したのが、サフィーナの婚約者だった俺だ。」

「アルスが殺した!? なんで!?しかも婚約者?」

「……まず前提としてルヴィナが知ってるのがここまでだ。」

「ますます意味わかんないよ……。」

「順番に説明していくから、また聞いてくれ。」


「俺がニコルと出逢った時、ニコルはサフィーナと暮らしていた。それがいつからなのか細かくは知らないが、俺が婚約者になった日とそこまで離れてはいないらしかった。」

「それって結構前ってこと?」

「いや、俺がサフィーナと出逢った日が婚約者になった日であり、サフィーナの命日だ。」

「えぇ……?」

「サフィーナと俺とニコルは、儀礼的な意味もあってエルムという喋るに挨拶をしに行ったんだ。」

「喋る樹……。」

「だが、その喋る樹はベテルギウスの魔力を持っていた。元々俺達の世界は植物と人間が戦争していて、その時までは休戦状態ではあったんだが、サフィーナを殺すことでエルムは宣戦布告しようとした。」

「待って、話が繋がってないよ。戦争状態だったのはいいとして、そんななのにその樹に結婚報告?意味分かんないよ。」

「すまないな。どうも話し慣れていなくてな。」

「ううん。大丈夫。」


「……サフィーナの一族、ルヴィナの家系だな。その家系は『花の神子』と呼ばれている一族だった。俺も詳しくは知らないが、その花の神子の活躍によって戦争は休戦状態になったらしい。」

「あぁ!だから次代の花の神子の親になるかもってことで顔出ししたってことなんだね。」

「そうだ。そのはずだった。だからサフィーナを殺す事が宣戦布告へと繋がる。」

「なるほどねー。でもそれなら殺したのはその樹なんじゃないの?」

「いや殺したのは……俺……俺なんだ!」

「アルス……。」


「今でも覚えている!サフィーナの首を刎ねたあの時の感触を……!飛ぶ血飛沫を!俺がやったんだ……俺が……。」

「どうして……そうなったの?」

「……言い訳にしかならない。だから言うつもりはなかった。サフィーナを殺して宣戦布告するとエルムは言い放ち、それを立証するかのようにエルムはサフィーナを襲った。そして俺とニコルはエルムと戦うことになった。エルムを倒した時にはサフィーナの傷はもう手遅れだった。そしてサフィーナが俺に頼んだんだ。俺に……斬れと。だから俺は……斬った。」

「それなら悪いのはそのエルムだよ!」

「俺は!……その日にルヴィナに誓った。必ずサフィーナを護ると!幸せにするのだと!……なのに俺は護れなかった!全ては俺の罪なんだ!」

「……。」


 そう言うアルスの頬にグレンの拳が飛んできた。


「……旦那が悪いとか、エルムってやつが悪いとか。それは姉御に関係あんのかよ。姉御が知ってるのは旦那がとどめを刺したってことだけで、その過程を知らねぇんだろ。」

「……あぁそうだ。」

「言い訳だからって姉御は事情を説明されなくて、納得できたと思うのかよ。」

「……何が言いたいんだ。」

「わかんねぇのか!旦那が罪悪感を背負うのは勝手だがな、姉御にずっと怒りや憎しみの感情を抱かせたままほったらかして、それが正しい罪の背負い方なのかって聞いてんだよ!!」


 グレンはアルスを殴り続けた。

 その拳に込められた感情は怒りだった。悲しみだった。



「姉御は!ずっとずっと苦しんでたんだ!怒りも憎しみも全部抱えたままで、それでも旦那と旅をして、旦那のことがわかってきて、許せるもんも許すことを許されなくて! それで正常なメンタルでいられるわけないだろ! 旦那がサフィーナさんを斬ったことで一番苦しんでるのが姉御で、それが旦那の思う正しい形なのかよ!」

「だからルヴィナは……サフィーナさんを助けられてアルスを許せる選択肢に飛び付いたんだね……。」

「オレだって生き返らせられるならそうしたいやつがいる。でも……生きてる誰かを犠牲にしてまでそうしようとは思わねぇよ。」


 アルスは意気消沈し、黙ってしまった。グレンの言葉を噛み砕き、己の本当の罪に向き合っているようだった。


「アルス……?アルスはさ、ルヴィナの事好きじゃないの?」

「ルヴィナのこと……?」

「ボクはアルスのことも、ルヴィナのことも好きだよ。あっ……もちろんネコ助もグレンやカナタンもね。」

「俺にルヴィナを好きになる資格なんて……。」

「……アルス。誰かを好きになるのに資格はいらないよ。本当はわかってるんでしょ?」

「俺はルヴィナを……。」


 アルスはまた黙ってしまった。



「はぁ……んで?アホ鳥の話は何だったんだ?」

「えっ! この流れでボクが話すの!?」

「旦那はもうほっとけ。結局旦那が変わろうって意識がなきゃ、姉御を止めるなんて土台無理な話だ。」

「それはそうだけど……。」

「いいから話せよ。」


 グレンに促されて、薫風は少し考えた後、話し始めた。


「皆に黙ってたことなんだけど、ボク……サテライトなんだ。」

「お前が……?」

「そう。サテライトのナンバー5。コードネームオーガスト。グレンのお父さんお母さんと同じ。改造して作られた人造悪魔。風神様とレヴィアタンもそう。だからボクはグレンの両親にも祖父母にもあった事あるしお互いにサテライトだったって知ってる。アルスが戦ったエルムっていうのもサテライトの内の一人だね。」

「……。そんで、アホ鳥はサテライトだからベテルギウスの仲間になるのか?」

「そんなわけ……!」

「だったら別に大した問題じゃねぇだろ。」

「でも……うん。そうだね。大した問題じゃないよ。」

「サテライトについて他になにか知ってることはあるのか?」

「うーん……メンバー自体は把握してるけど、ボクはその頃の記憶って全然残ってはないんだよ。ベテルギウスと一緒に戦って、負けて、隔離されたっていう事実は記憶してるけど……まだ幼かったからか、風神様と一緒に別の世界に隔離されたことしか覚えてない。」

「まぁそんなもんだよな。オレだって親父とかお袋がオレを産んでからサテライトになったのか、元々そうだったのかすら知らねぇしな。」


 大した問題じゃないと言ったけれど、薫風は変わらず気にしているようだったのでグレンも少し気を揉んでいた。

 薫風は明るく取り繕ってはいるが元々自信があるタイプではない。


「そうか……サテライトだからってオレは親父やお袋が悪だったとか、そんな風に思ったことはねぇ。それなのにお前を責めるのはダブルスタンダードってやつだろ。」

「そっか……そうだね。」


 そう言いながら薫風はちらりとアルスを見やる。


「薫風、グレン、かなた。俺はルヴィナとニコルともう一度向き合わないといけない。最後まで付き合ってくれ。頼む。」

「……ほんとボク達がいないとアルスはなんもできないんだから、しょうがないよね!」


 アルスを見る薫風とグレン、かなたの視線は暖かく柔らかなものだった。

 アルスの選択を応援しようと思っていたからである。


「でも結局姉御がどこにいるかはわかんねぇまんまだぜ。どうするよ。」

「薫風がサテライトだって話が出たことで一つ思い出したんだが……俺は過去にもサテライトという言葉を聞いたことがあった。」

「そうなのか?」

「そこにいるとは考えにくいが、そこでどこか行きそうな場所への情報が得られるかもしれない。」


「かなた……ベテルギウスの魔力があった世界の中の、地下に機械達が暮らしている、人間がもういなくなった世界……わかるか?」

「ん〜……あー……うん。わかるよ。お兄さんが二番目に行ったところだね。」

「そこへ向かってほしいんだが……行けるか?」

「わかった。任せといて。」


かなたに連れられて一行は、メディスのいるマザーを倒した世界へと向かった。

 アルスが目を開けるとそこにはシグザルの姿があった。


「シグザル!?」

「アルスサン。お久しぶりデス。」

「……いや、シグザルじゃないな?バックアップから復元すると言っていたからその機体か。」

「ハイ。ワタシは二代目sixalデス。二台目のsixalでもアリマス。sixalマークIIとでも言いマショウカ。筐体カラダは変わりマシタガ、データは以前のままデスカラ、同一機体として扱ってもらえると嬉しいデス。」

「嬉しい、か。随分人間らしくなったんじゃないか?」

「アルスサン。アルスサンもどこか人間らしくなったように感じマス。」

「……そうか。そうかもな。」


 アルスとシグザルの会話が落ち着いたところで薫風が切り出した。


「久しぶり、ジューン。ボクのことわかる?」

「肯定。デスガ、今のワタシはジューンではアリマセン。sixalとお呼びクダサイ。オーガストサンも今のお名前をお聞かせクダサイ。」

「わかったよ、シグザル。ボクは薫風。カオルって呼んで。」

「カシコマリマシタ。カオルサン。」

「今の名前はわからないんだけど、メイかジュライと暮らしてるの?」

「メイは、暴走してシマッタノデ、アルスサンに壊してモライマシタ。」

「あぁ……なるほどね。じゃあベテルギウスの魔力を持ってたのがメイだったんだ。」

「ハイ。そちらはどなたかと一緒の世界デシタカ?」

「ボクはセプテンバーと一緒だったよ。サテライトとベテルギウスについて、詳しいのはシグザルかジュライのどっち?」

「ジュライは今はメディスという名前デス。詳しさは恐らく変わらないデス。ナノデ、ワタシガ答えられる事でアレバお答えいたしマス。」


「メディスはサテライトについて俺が来た時は知らなかった様子だったが……?」

「マザーが隠してイタ、データの中に全て保存サレテイマシタ。それは共有データトシテ、メディスもワタシも知ってイマス。トコロデ、そちらのお二方はどちら様デショウカ?」

「あ……あぁ、すまない。こっちの鬼と龍のハーフがグレン。もう一人は人間のかなただ。薫風含めて三人共、俺の仲間だ。」


「グレンはね、ノーヴェンバーとディッセンバーの子供だよ。」

「ナルホド。」

「シグザルはサテライトとベテルギウスについて知っていることを教えてほしいな。」

「では、まずはサテライトについてお話シマショウ。」


 そうしてシグザルは一行に、サテライトの話を始めるのだった。

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