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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第六章 重ねる思い 過去と今
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四十八話

 ルヴィナが返事がないフロウエルの方を見てもそこにフロウエルの姿はなかった。

 魔力の塊と化したのだろう。そうなるという事は聞いていても、ルヴィナにはやはり実感がわかなかった。

 フロウエルはまだ生きている。ルヴィナはそう信じ込んでいた。


「なんだあの精霊、消えやがったのか?つまんねぇなぁ……次はおめーらが遊んでくれんのか?」

「俺達は遊ぶつもりなんてない。お前達はここで何をしている?」

「天使共が揃ってコソコソしてやがるから何かあるのかと思っただけさ。そしたら案の定!天使共はあわくって襲いかかってきやがる。ここにはさぞかし見られたくないものがあるんだろうよ。おめーらみたいな人間なんていう絶滅種まで出張ってくるこの案件、ただ事じゃないことぐらいミジンコでもわかるぜ。」

「そうかもな。」

「じゃあ、さっきの精霊みたく消されたくなかったら帰って泥水でも啜ってな!」

「お前達は天使達を斃して何とも思わないのか?」

「思わないね!魔を以て悪しきを為す!それが悪魔が悪魔たる由縁!そうだろう?」

「そう……なんだろうな。」


 アルスは剣を構えた。ここまで来るのに幾度が振るったアルスの新しい剣は、アルスが想定していた以上に優秀で高性能でわがままだった。



 相手の悪魔達もアルスが構えたのを見て、薄ら笑いを浮かべながら臨戦態勢を取った。

 仕掛けたのはニコルとミルザムがほぼ同時に最初に攻撃を仕掛けた。

 騒がしい方の悪魔に対して仕掛けた二人だったが、その攻撃は二人の悪魔にそれぞれ対応された。


「血の気の多い『毛物けもの』と『駄天使だてんし』だ!楽しいなァ!戦いってのは殺気に満ちていてこそだ!」

「……小さい割に……やるじゃん……めんどくさい。」



 アルス達は総人数六人。相手は二人。相手は連携に長けていて、纏めて相手取るのは骨が折れる。

 となれば相手を分断して各個撃破がセオリーで、それを口にせずともアルス達はそのつもりで戦いを進めていた。

 だがこちらの動きを読んでいるかのように、二人を分断することはできず、むしろ戦況を有利に進めることよりも盤面を意識した結果、人数差を活かしたパワープレイにもならず悪魔達にとって都合の良い展開となっていた。


 その戦いを支えていたのは静かな方の悪魔だった。かの悪魔は防御能力が極端に高く、騒がしい方を護りながら戦っているにも関わらず自身の防御力が衰えている感じはしない。

 こういう状況だからこそ、騒がしい方の攻撃はかなり上り調子であり、一気呵成に勝ち切ろうという程の強火な攻めであった。

 興が乗れば乗るほど勢いを増す攻めと、そこに生じる護りの甘さを補う完璧な護り。二人にとって『それを分断しようとされる』というのはいつもの事だった。コンビネーションが彼らの強みであり分断されない立ち回りは彼らの最も慣れた彼らのお家芸だった。

 テンプレートが通るのならそれが最も無駄がなく手堅い。


 静かな方の悪魔の攻撃はそれほど脅威ではない。さらに言えば攻撃してくること自体がそこまで多くはない。アルスはそれなら六人がかりで騒がしい方を仕留めてしまえばいいのではないかと考えた。

 苛烈な攻撃をアルスとグレンが食い止めている間に他で騒がしい方を攻め続けられれば護りも多少は揺らぐはずだった。


 ルヴィナの考えは逆で、まず確実に防御型の悪魔を仕留めるべきと思っていた。ルヴィナ視点でこの二人の悪魔のどちらが強いかと言えば防御型の悪魔の方が強いという風に見えていた。

 テンションが上がるほど強くなっていく攻撃型の悪魔は、確かに脅威であるが際限なく強くなることはありえない。それに対して攻撃型の悪魔を護らずに全てのリソースを自身に注ぎ込めるようになった防御型の悪魔の能力は底が見えない。

 杞憂かもしれない。攻撃能力のほとんど無いが故の役割分担なのかもしれない。でも魔力的な余裕を持って戦っているのはこの防御型の方なのだ。


 連携という点でアルス一行はこの二人の悪魔に何手も遅れを取っていた。

 アルス達は言葉を交わさないと意思疎通ができない。このことは、この先もずっと尾を引くこととなった。


 

 戦いはアルス達が優勢であると言えた。(どちらがなのかはアルス達にはわからないが)シリウスと同格の悪魔、というには少し弱く感じられる。少なくともアルス達がシリウスに感じ取っていた魔力の圧はこの程度ではなかった。

 二人のコンビネーション込みでシリウス一人分というのならまだわからなくもない程度である。戦闘中にそんなことを考えている余裕があるわけでもないが、戦っていてなんとなくそんな風のことをアルスは感じ取っていた。


 それもそのはずで、ポルックスに公爵の地位が与えられたのはベテルギウス没後であり、元々はシリウスとプロキオンとベテルギウスの三人だけだった。そしてベテルギウスが封印されたので二人だけになり、プロキオンは親シリウス派な傾向であったが為にシリウスは他の現在の公爵達を公爵の位にしたのである。故にシリウス、プロキオン、ベテルギウスと他の公爵は同じ位ではあっても本当の意味で同格ではない。

 ミルザムもその事は知っていて、リゲル領を通らない為に敢えてシリウスと同じ公爵であると強調したものの、押し通れなくはないだろうと思ってはいた。


 アルス達が優勢ではあるがそれを支えているのはアルスの『零の剣』による対魔力性能であり、アルスが相手の攻め手を食い止め続けているからこその有利状況なので、アルスがやられると瓦解しかねない。

 そんな折、劣勢を察した飛行能力を持った悪魔達は上空から強力な魔力の弾を絶え間なく打ち続け始めた。その結果、空を飛べる薫風とミルザム、遠距離攻撃がメインのルヴィナ、防御に徹しているアルスはともかくとして、グレンやニコルにとっては攻めにくい状態になっていた。

 ニコルは『発』で強引な空中移動も可能ではあるが、グレンは跳躍するのが限界であり、薫風を踏み台として跳ぶことは出来るが直線的にそれで追いかけたとしても相手の弾に撃ち落とされかねないので、グレンは手をこまねいていた。


「グレン!暇なら手伝ってほしいことがあるんだけど!」

「暇じゃねぇよ!!」

「そういうのいいから!ボクが地面にあいつらを落としてくるから力を溜めといて!」

「あぁ!?それができねぇから困ってんだろ。」

「はいはい! ルヴィナ!ミルザム!ボクをフォローして! いくよ!」


 薫風はそう言うなり上空へと飛んでいく。撃ち落とそうと二人の悪魔から魂が飛んでくるがルヴィナとミルザムの矢がそれを迎撃する。アルスやニコルも攻撃が薫風に向いているのであれば手が空くのでその分だけ二人の悪魔へと攻撃を仕掛けることが出来た。そうなると相手方も防御しないといけなくなるので薫風はさらに安全になった。


 カストルとポルックスの上を取った薫風は全力で力を込めた。



「翠緑の暴力にし潰されろ!『翡翠の拘束ジェイドジェイル』!」


 風の壁が真上から二人の悪魔を真下へと圧をかける。直接的な攻撃とは方向性が異質な魔技を、二人は防ぐことが出来ず薫風が魔力を込めて押し込んでいく。



「うぁあああああ!!」


 薫風が吠える。

 二人が接地する頃、薫風は一度に使える量の魔力上限を迎えた。感覚的には息を止めていられる時間の限界のようなものだ。


「『炎舞・斬々舞』!!」

「『業火剣乱』!」


 激しく燃える剣と二槍が騒がしい悪魔を狙った。

 ルヴィナもミルザムもニコルも護ろうとする静かな悪魔を許さなかった。上空から降り注ぐミルザムの矢と地面から生えてくる『矢礫ブロウ』と水平方向から襲い来るニコルの全てを防ぐ為には騒がしい悪魔を見ている余裕はなかった。

 ある程度まではアルスとグレンを対応できていたが、攻勢に回ったアルスとグレンを攻撃的な性質を持つ悪魔が処理しきる事には限度があった。


 グレンの槍が騒がしい悪魔を、黙らせた。

 騒がしかった悪魔の断末魔が聞こえなくなった時、静かな悪魔は全てを悟った。

 そしてまた空へと飛び上がり、かの悪魔の背後にあった神殿のようなものへと飛んでいった。その神殿の造形はアルスやルヴィナが過去に何度か見たものである。


「アホ鳥、そんな事が出来たんならさっさとやってくれよ。」

「無茶言わないでよー。戦いながらあれだけの魔力を込めるのどんだけ大変かわからないの?」

「知るかよ……。ところで、あいつは逃げたのか?まぁオレ達相手に二人組で負けてたヤツが単体になったら負け確だしそりゃそうか。」

「グレン、何バカなこと言ってんの? 逃げるのに建物に逃げるわけないよ。 あの神殿にはベテルギウスの魔力があるはずだから早く追いかけよ。」


 神殿の中へと悪魔を追いかけると、かなたと出逢ったところのような少し広い所へつながっていた。

 そこのさらに奥から、一人残された悪魔が出てきた。出てきたということは間に合わなかったということである。ベテルギウスの魔力を取り込んだ悪魔は悲嘆に暮れながらぶつぶつと独り言を呟いていた。その魔力の厚みはシリウスと比肩するほどと言っても差し支えないぐらいであった。

 人型の悪魔に巨大な悪魔の翼。体を構成しているものが魔力であるため魔力が増大するとその分だけ体の一部が巨大になったり密度が上昇していたりする。


「カストル……一人にしないよ……。一人にしないで……。」


「やっぱりあっちがポルックスだったようですね。」

「そうだね。でも先にポルックスを倒そうとしても、私達には多分無理だったから仕方ないよ。」


「カストル……カストル……。」

「メソメソしやがって。お前たちが遊び半分で斃してきた天使達も、お前の大好きなカスもなんも変わんねぇだろうが。」

「何も知らないくせに勝手なことを言うな!」

「悪魔は死なねぇんだろ!だったら……。」

「……何も知らないくせに!!」


 激昂するポルックスがグレンへと襲いかかった。大気がビリビリと振動しているのがアルス達にも伝わってきた。


 グレンの言うように悪魔は死なないが、カストルは他の悪魔達と異なり(そういうケース自体は少なくはないが)複数の悪魔が集合して一つの悪魔を形成している。カストルの場合は特に多く全部で六体の悪魔が一纏まりになっていた。

 そういった悪魔が魔力の塊へとなった場合、それぞれの悪魔がバラバラになるため、纏まっていた状態の悪魔と同じ悪魔として顕現することはあまりない。そのためポルックスはカストルを倒されたことが許せなかった。


「よくもよくもよくも!!カストルを!!カストルを!!!」


 グレンに思いっきり殴りかかるポルックス。バカ正直に筋力勝負しようとしたグレンは大きく吹き飛ばされる結果となった。


「『一陣の戦斧トマホーク』!」


 薫風がポルックスの肩を強く蹴り飛ばそうとしたが、魔力の厚い壁を纏ったポルックスには響かず、足を掴まれグレンへと投げ飛ばされてしまった。

 そこへさらに追撃をしようとするポルックスの前にルヴィナが作り出した『岩壁ウォール』が立ち塞がる。踏み込む足を止められたポルックスはそのまま躊躇なく腕を振り切り壁を破壊しその破片で薫風とグレンを攻撃しようと考えた。

 しかし、岩を飛ばした先にいたのは見覚えのない一匹の羊だった。羊毛が飛んでくる岩の威力を殺し、そしてその羊は凄い勢いでポルックスへと突っ込んでいった。


 完全にその羊にポルックスの目は奪われていた。背後からニコル、アルス、ルヴィナの攻撃が飛んでくることも予想できてはいたが理解できていなかった。

 三人の攻撃が直撃した時点で羊からの攻撃も防ぐことはできず、大きくダメージを与えることに成功した。ただしダメージを与えたといっても傷を負わせたというわけではなく、ポルックスが纏っている魔力を削ったに過ぎず、ポルックスの魔力はまだまだ底が見えない。

 その後、羊はミルザムへと姿を変え弓を持ってポルックスへと追撃を仕掛けた。


 ここでミルザムの戦闘スタイルの説明をしておくと、ミルザムは黄道十二宮をモチーフとした魔力武器を使うことができる。変形を挟むときに一瞬だけゾディアックサインが浮かぶので理解していれば何に変化するかは予測ができる。誰も理解していないので予測されたことはない。

 その魔力武器には三段階あり段階が進むほど消費する魔力も大きくなる。それぞれ甲式、乙式、丙式という名称自体は存在するが魔生物である天使や悪魔は、魔技としてコールしたりはしないので意味はない。


 初期段階(甲式)では武器として使うだけであり普段ミルザムはこれだけで戦いの大半を終わらせている。人馬宮いてざの弓、磨羯宮やぎざの槍などをミルザムはよく使っている。一番初めにミルザムとアルス達が戦った際に使っていた変な形の武器は巨蟹宮かにざのハサミを分離したものである。


 第二段階(乙式)では武器ではなく防具として装備することができるようになる。まだ一度もアルス達の前では使っていないが天蝎宮さそりざ宝瓶宮みずがめざは防御面での活躍の機会が多かったりする。また、甲式と合わせて使うことも可能でその場合同じ宮だと消費魔力が少なく動きも阻害しにくいというシナジーが存在する。


 最終段階(丙式)ではそもそもの姿を対象の宮の生物へと変えるものであり、今回羊になっていたのがそれである。質量の最低値は変わらないので必然的にとてもデカい魚になったりする。また、宝瓶宮みずがめざなど戦闘に一切使えないものになることもあるので消費魔力に見合った結果には基本的にならない。人馬宮いてざで素早く駆けることが出来たり、最終奥義的に使う形として双子宮ふたござで二人になったりする。消費が大きすぎるので同じ宮の甲式であればいざ知らず、他の宮や乙式と組み合わせるのはほとんど不可能である。(羊に変形した状態で武器を振るう必要性などもないのでまずやらない。)


 ポルックスは追撃も弾き飛ばし、飛び上がった。神殿の中とはいえ天井は高く、やはりグレンには届かない高さであった。



「カストル……カストル……。」

「あああぁ!!うるせぇ!!お前達だって好き勝手やってきたんだろうが!」

「物心がついた時から一緒にいて……これからもずっと一緒だって思ってた……ボクの魂の片割れ……。双子の片方が斃された気持ちなんてお前らにはわからないんだろ!!」

「知ったこっちゃねぇよ!!それが戦場に身を置くってことだろうが!」


 ポルックスの発言はアルス、ルヴィナ、ニコルにとって思い出したくないものを思い出させるには十分過ぎた。グレンの言う『知った事ではない』というのも勿論正しい。

 それでもルヴィナは若干の吐き気を催した。それでも全部飲み込んで、ルヴィナはポルックスを斃す事に専念することにした。


「双子の片割れが斃された気持ちなんて、当人にしかわからないよ。貴方の痛みも悲しみも怒りも全部わかりはしない。だから私は貴方を倒す。すぐに楽にしてあげる。」


 飲み込んで乗り越えていく地獄よりは、もしかしたら楽かもしれない。ルヴィナはほんの少しそう思ったことを誰にも言わないで生き続けていく。

 これからも。

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