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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第六章 重ねる思い 過去と今
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四十六話

 あれから数時間が過ぎた。

 ルヴィナはミルザムに連れられてお風呂に入ったあと、客間でくつろぐようにと言われたが落ち着かなかったためミルザムや不思議な生き物が料理を作るのを手伝っていた。

 ミルザムからルヴィナは敬語を辞めるように頼まれたのでそれに応じた。同様にルヴィナも同じようにミルザムにも言ったのだがそれは聞き入れてもらえなかった。


「ルヴィナ様、どこか嬉しそうですね。」

「そうかもね。こうやって誰かと大人数をもてなす準備をするって事がここ最近なかったし、料理なんて本当に久しぶりで楽しいよ。」

「ルヴィナ様は料理が好きなんですか?」

「うん?そうだなぁ……料理そのものがっていうよりそれで喜んでもらうのが好きって感じかな。」

わたくしはてっきり『自分達の都合で命を奪うなんて』と仰られるのかと思っていました。」

「何その偏見……少なくとも人間でそこまで『高尚』な考えを持っているのは多くないよ。」

「……ルヴィナ様は人間なのですか?」

「おおよそ人間だよ。ミルザムよりは人間なんじゃないかな。」

「ルヴィナ様は何も思わないんですか?わたくしめがシリウス様の屋敷にいる事に関して。」

「何も思わない。っていうか何を思えって言うの?」


「ルヴィナ様にはわたくしが元々天使であることは既に解られている事だと思います。であるなら天使が悪魔の屋敷に居るのは不自然であり……。」

「ストップ。言いたいことはわかるんだけど、人間……というか少なくとも私は合理性だけで物事を判断してないよ。」


 言ってはいけないのだろうという判断をし、ルヴィナは言いはしなかったが、ミルザムの思考パターンはとても『天使的』であった。

 こうあるべきでこうあるのが正しく、それは万人にとって周知の事実である。それに逆らうことは誰の目にも間違っていることとして写り、責められ疎まれるものである。

という凝り固まった固定観念を植え付けられたのが天使である。そこに一片の疑問もなくそれが常識である。

 ただ時折、ミルザムやシルヴィアのような異端なモノが生まれるのが天使達の頭を悩ませていた。


「ミルザムは、血に囚われてるんだね。」

わたくしは天使です。例えその立場を捨ててもそこからは逃げられません。」

「それについて、シリウスさんはどう言ってた?」

「シリウス様は好きにすればいい、と。自由を与えてくださりました。」

「なるほどね。ミルザムはそれでここに居る事を『選んだ』。そうでしょ?」

「それが正しかったのかどうか……。」

「天使的には正しくないと理解して選んだんでしょ?やりたいようにしろって言われて選んだのがここに居ることなんでしょ?」

「はい……。」

「正しいかって言われたら、天使的には正しくはないのかもしれないけど、それが絶対的な不正解ではないと思うよ。」

「そうですね。ありがとうございます。」


 多分納得させられてはいないのだろう。それはルヴィナにもわかったが、これは本人の納得の問題でありここを無理に詰めて納得させることに意味はない。なのでルヴィナはこれ以上この話題で語ることをしなかった。



「そういえば、ミルザムはフローラ……えーっとフロウエルと知り合いなの?」

「そうですね。彼女……というか『彼女のパートナーだった天使』はわたくしの元上司だったのです。その方のことをわたくしはとても尊敬しています。」

「今でも?」

「はい、勿論。ですが数日前フローレンスと再開した時に亡くなったと聞きとても残念です。もう一度お話したかったのですが。」

「そうなんだ……。その天使っていうのはどんな天使だったの?」

「聡明で優しいお方でした。そして何よりも、超一流の剣士として名が売れていて天界では『白銀はくぎん麗姫れいき』の名を知らぬ者はいませんでした。ですが悪魔と恋仲になって、天界を追放されました。」

「その天使って……。」

「シルヴィエル様、恐らくルヴィナ様の血縁の方だと思います。」

「そう……多分私のおばあちゃんだね。最初から気付いてたの?」

「フローレンスがルヴィナ様を連れてきた時に、とてもしっくり来たものですから、その時にはそうではないかと思っていました。ですが実際にそうだという確信はずっと持てず仕舞いでした。」

「なるほどね。」


わたくしはあの清廉潔白なシルヴィエル様が悪魔に恋をしたという事実を受け入れられず、誰か悪い悪魔に騙されたりしたのではないかと思い、仲間の止める声も聞かずに魔界へと降り立ちました。しかし魔界の濃い魔力は思った以上に天使には毒であり窮地に陥ったところをシリウス様に拾っていただいたのです。」

「それからずっとここにいるの?」

「いえいえ、一度天界に戻った後魔界に行っていたことをひた隠しにしていたのですが、それでも一度は救われた身として恩に報いないのも不義理かと思いまして、そうしてもう一度訪ねたところ、帰宅時に他の天使に見付かってしまい、このままの状態で天界へ戻ることを禁じられたのです。」

「ひどい話……。」

「いえ、先程申した通り天使にはここの魔力は毒ですから病原を持ち込まれたくないのは筋ではあります。それに濃い魔力というのは魔力の塊である我々魔生物にとっては中毒性のあるものですので、魔界に焦がれる天使がこれ以上増えるのは天界としてもよろしくないことなのです。」

「随分その辺ストイックなのね?」

「元天使ですからね。規律の重要性は理解していますしわたくしが仮に逆の立場でも同じ事を言います。相手方は間違っていないので。」


「じゃあここに居なくなったとしても元々帰れはしないんじゃないの?ここにいることを悩む必要なんてないと思うな。」

「このままの状態では帰れないですが、一度意志のないただの魔力の塊になり魔界の魔力を削ぎ落とせば帰ることは出来ます。」

「それはどういう感覚なの?お風呂で汚れを落とすのとはまた違うの?私はさっきお風呂に入って体が楽になったんだけど……。」

「えぇ。ルヴィナ様は完全な魔生物ではありませんので表面的に付着した魔力が馴染む前にわたくしが落としたので恐らく影響はありません。擬似的にコーティングもしてあるのでこの先数週間は影響が出ないはずです。」

「えぇ……なんか知らない間に色々されてる……。」

「……それはそれとしまして、わたくしの場合は二度も長時間魔界へ降りたので翼や髪など影響の受けやすい部分から徐々に侵食されていたので既にかなり重症でした。なのでわたくし一人では魔力を落として再構成というのはできない状態です。そうなると他の天使に頼むしかないのですがそれを頼むとまぁ……わたくしにとって必要な部分まで落とされてしまうのです。」

「具体的には?」

「……シルヴィエル様やシリウス様への想い……ですかね。それがあるから魔界へ降りたということですから、そこは魔力の影響を受けている大きな部分となります。」

「でもそれなら尚更、悩むことないんじゃない?今更天界に戻ろうとするなら、ミルザムほもうほとんど跡形もない存在になるぐらいの侵食を受けていると思うけど。」

「えぇ。でも少量でも帰れば精霊として他の天使のパートナーとして生きる道もあります。ですがルヴィナ様と話してストンと腑に落ちた気がします。わたくしはきっとどれほど悩もうとその選択をしないのだろうなと。」

「うん。それでいいじゃん。それがミルザムらしさでしょ。」



 他愛ない会話をしながら二人は料理を続けた。こんな状況でもなければ二人はとてもいい友達になれただろう。



 アルスはついに剣を完成させた。使い心地は変わらずに魔技を使いやすくカスタマイズすることができ、アルスとしては満足だった。


「アルスアルス!この剣の名前はなんて言うの?」

「俺は剣に名前をつける趣味はないって言わなかったか?」

「えー……折角だし付けようよー。」

「じゃあ薫風が付けてくれ。俺はその名前で呼ぶことはしないけどな。」

「うーん。じゃあ『荒鷹あらたか』かな!」

「それでいい……が、なんで荒鷹なんだ?」

「えっ……『霊剣・荒鷹』。いいでしょ?」

「あぁ……まぁ……いい。ふと思ったが薫風の世界の『霊珠ーアトモ』も名前をつけたの薫風か?」

「そうだよ!よくわかったね!」

「あぁ……薫風はネーミングセンスが前衛的だな。」

「えへへーありがと!」


 褒めてはいない。


「皆疲れただろう。風呂を用意しているから入ってくるといい。個室でも大浴場でも好きに使ってもらって構わない。わたしが案内しよう。」

「そうか。ありがとう。薫風、グレン、一緒に入ろう。背中流してやる。」


 グレンは乗り気だったが薫風は渋っていた。


「ボクは別にいいかな〜なんて。」



 しかしその発言は無視され、グレンによって強制的に連れて行かれた。


「この風呂を用意してくれたのはミルザムなのか?」

「いや、恐らく違う。ミルザムはあくまでもこの屋敷の女中の中で一番わたしに近いというだけであって、ミルザムがここの屋敷のすべてを管理しているわけではない。」

「つまり他にも悪魔や天使が住んでいるのか……?」

「この屋敷にいる天使と悪魔はわたしとミルザムだけだ。悪魔には邪精や妖魔といった悪魔を食い物にする存在がついているのさ。」

「食い物にする?シリウスは利用されているのに、シリウスを手伝ってくれるのか?」

「わたしに憑いている邪精達はそういうのとは違うからね。一般的な悪魔に憑いているのは悪魔から漏れ出る魔力を食べる……そうだな、君達人間基準で言えば蚊みたいなものだ。悪魔側に不利益はないが、利益もないから共生と言うわけではない。」

「蚊……蚊は人間に害があるぞ。痒くなる。」


 蚊は痒くなるどころか人間を最も殺している生物というのは有名な話である。


「それが本質ではないのはわかっているんだ。すまない。悪魔にメリットがないんならなぜ悪魔はその邪精や妖魔がそこにいるのを認めるんだ?」

「実力で勝てないからだ。」

「……うん?悪魔の方が高位の存在ではないのか?」

「実力の世界に高位も低位もないよ。爵位を持っている悪魔ともなれば別だが、強い邪精はそこらの悪魔なんかよりずっと強い。」

「シリウスは最高位の公爵だったよな。だから当然実力で負けているわけでもない。それなら家事手伝いなどをさせるために雇ってるのか?」

「雇っている……まぁそうか。世間的に見ればそういうことになるのかもしれないな。わたしはそういうつもりで彼らを置いているわけではないがね。」

「じゃあどういうつもりなんだ?」

「ここにいる邪精達は、とてもじゃないが悪魔から魔力を貰えるほどの力を持ってない者達だ。種としてはアルス君の言う通り悪魔より劣っているから当然そういう者も多い。それでも悪魔が与えればご飯にはありつける。そういうことだ。」

「シリウスと仲が良いんだな。」

「あぁ。気の良い奴らだよ。わたしの庇護下にあるから悪魔共も手は出せない。その見返りとして家事をやってもらっているのさ。別に家事を強要はしていないが皆進んでやってくれる。ありがたいことだ。」

「妖魔や邪精というからには性格的には悪魔に近しいんだろ?それでも進んでやってくれるんだな。」

「悪魔という括りはかなり大雑把なんだ。確かに天使のような几帳面さや秩序を重んじるような性質は持ち合わせてはいないだろうが、争いを皆が好むわけではない。争わない自由のためなら尽力する者もいる。」

「争わない自由……。」


 自由という言葉はひどく曖昧で、寛容であることも自由の一種だがそれと同時に厳格であることもその個人の自由となる。



「自由を好みはしても本当に自由が許されているのは力を持っている者だけで、それと同時に持つ者の自由は持たざる者の不自由である事も多い。」

「それだけ聞くと難儀だなとは思うが……俺達人間もさほど変わらないな。」

「ふむ……弱肉強食という言葉はわたしはあまり好きではないが、実力社会というものはヒエラルキーが上の者だけが得をする社会ということであるから必然的にそうなる。人間はそこまで実力社会ではないのだろう?」

「表向きは……そうだ。だが色んな世界を見て回ってきて、実情は人間は物理的な力ではなく、権力や財力などの力に支配されている。弱者は食われるだけの環境を受け入れることを強いられている事がわかった。」


「アルス君は一つ誤解しているな。人間はそれを望んでいるのだよ。」

「望んでなんかない。」

「権力者が何故権力を持つに至ったか考えたことはあるか?そういう役割の人物が必要だったからだ。先導者、リーダーと呼ばれる者がな。それを僻んだ人間が権力と呼んでいるに過ぎない。それが権力の起こりだ。」

「それはそうかもしれないが……。」

「その先導者という役割は既に形骸化したものかもしれないがね。本来人と人との間に上下はなかったはずだ。わたし達悪魔と同じと言うのは些か過小評価しすぎだな。」

「そう……だな。シリウスは人間が悪魔に似ていると言われるのが嫌なのか?」

「嫌というわけではないさ。ただ、客観的事実からはかけ離れていると思っている。わたしは単純により事実に近しいものこそを尊重している。」

「なるほどな。」

「古くはこの世界にも人間がいたわけだが、その時分の人間といえばどちらかというと規則やルールを尊重する天使に近い存在であった。アルス君もそこに異論はないだろう?」

「あぁ……そうだな。」


 丁度風呂場に着いたのでアルス達は仲良く風呂に入った。

 温かい風呂で温まり、ルヴィナやミルザム達が準備した料理を食べてゆっくりした後、一行は眠りについた。

 

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