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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第六章 重ねる思い 過去と今
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四十二話

 戦っていたアルス達だが相手の武器に苦戦を強いられていた。

 不思議な形の武器は弓矢になったり大槍になったりと相手の意思によって自在に変えられるようであった。

 ルヴィナの武器と同じようなもの、というのがアルスの認識であったがルヴィナの武器との大きな違いは、ルヴィナは腕輪の力で行っていて弓矢、剣、小盾にしかならないが、相手は自身の魔技で行っていることだろうか。

 ちなみに相手も無限の種類から選ぶことができるわけではなく魔技として決めてある十二種類だけである。


 今現在、相手は空から矢を振らせている。



「チッ……アホ鳥!肩貸せ!」

「ぐぇ……もう!」


 空を飛んでいる相手に手を焼いていたグレンは薫風を踏み台に跳び上がった。薫風の返事も聞かずにその行動に移ったために薫風は不満気であったが、それでもグレンが跳ぶのに合わせて風を送るのは忘れない。


「くたばれやあぁぁ!!」


 グレンは自身の膂力にとても大きな自信があった。ゴウエンには及ばないにしても他種族に劣るようなものではないという自負があった。

 故に、全力で振り下ろした槍を受け止められるとは思いもしなかった。


「なんだお前……!?強ぇじゃねぇか……!」

「そう言う貴方は見た目の割に弱いですね。」

「んだと!」


 相手は身を翻し、グレンの攻撃をいなすとそのままグレンを蹴落とした。そこから更に矢による追撃がグレンを狙ったがアルスがそれを間一髪で防いだ。

 前の世界で『零の剣』について教わってからというものアルスは二刀流で戦うということをずっと


「『閃変万火』!」

「『狙撃の突風スナイプガスト』!」


 二人が空をめがけて遠距離攻撃をしたものの、その攻撃を宙を裂いただけに終わった。暗さもあるが相手の空中の機動力の高さが戦いをとても困難にしていた。


 危機感を感じつつも勝機を見出そうと三人が苦心する中、どこからか声が聞こえてきた。


「ミルザム。そこまででいい。その方達を客人として迎え入れてくれ。」

「良いのですか?この者達は……。」

「わかっている。気にすることはないさ。」

「かしこまりました。」


 そうしてふわりふわりとミルザムと呼ばれた彼女が降りてきた。アルス含めた三人も声は聞いていたためそこを攻撃したりすることはない。

 ミルザムという名前は一般的には男性の名前であるが彼女はどう見ても女性である。


「皆様、御無礼を働き申し訳ありません。主様がお会いしたいとの事ですので、わたくしに着いてきていだければ助かります。しかしあくまでも賓客としての待遇ですので無理強いするつもりはございません。」


 所作に丁寧さと誠実さが感じ取れる。ただそれは恐らくアルス達へ向けたものではなく、その『主様』の面目のために粗相がないようにという気持ちであろうことは想像に難くない。

 これほどまでに強い彼女が慕う相手というものにアルスは『怖いもの見たさ』からの興味はあった。


「旦那……どうする?オレは正直あんまり気乗りしねぇ。あのままだったらオレ達が勝ってたから泡食って守りに来たんじゃねぇの?着いていっても罠の可能性は低くないぜ。」


 アルスにもグレンの言うことはわかる。だがそこまで相手方に勝算のない戦いであったとも思えない。


「グレンは子供だな〜!そんなわけ無いじゃん!弱いって言われたから拗ねてるんでしょ〜?」

「るせぇ!拗ねてねぇよ!」

「罠を貼るんだったら逃げる猶予なんてくれないよ!」

「逃げたところを後ろから刺すかもしれねぇだろ。」

「ないない。それをするならもっと楽なやり方があると思うよ。ここは相手のホームグラウンドなんだからさ。」

「ま、それもそうか。でもだからといって、あいつに着いていく義理はなさそうだけどな。」

「それもそうだね〜。」


「だが俺達に行く宛もないことも事実だ。俺は着いて行ってみたいと思っている。」

「ボクは……うーん。難しいけど、行くデメリットより行かないデメリットの方が大きいかもしれない。彷徨さまよってまた別の敵に襲われないとも限らないし。それならアルスが言うように、話ができる相手から情報収集した方が賢明なのかなぁ。」


 相手をあまり待たせても申し訳ないという気持ちもあって、アルス達はミルザムへ着いていくことした。



 広い屋敷だ。絢爛豪華で掃除の行き届いたロビー、廊下、そして案内された広間。どれをとっても絵になると思えるほどの素晴らしさだ。

 だがそこに嫌味はない。多く、こういった豪華なものは他者へ向けたアピールや、自身の威権を誇示するために敢えて極端な装飾がされていたりするものだがそういった物はなく、あくまでもお洒落のための豪華さであることが窺えた。


 案内された部屋の奥に一匹の大狼がいた。

 ゴウエンやフレアの威圧感もかなりの物だったが、それよりも異質な何かを感じた。相当に強い。アルスは生物として直感的な恐怖を感じざるを得なかった。

 その大狼が口を開く。


「無理を言って来て頂き感謝する。わたしの名はシリウス。」

「俺はアルス。こっちは薫風と、グレンだ。」

「ミルザムの事はもとを正せばわたしの指示だ。すまなかった。」

「いや、俺達が勝手に私有地に入ったんだ。すまない。」

「では、お互い様ということでこの話は終わりにしよう。本題に入る前に、飲み物でも用意しようか。」


 シリウスがそう言うよりも早かったのではないかと思うぐらいのタイミングでノック音の後、ミルザムが紅茶とクッキーを持ってきた。

 クッキーには少し温かいジャムが添えられている。そのジャムはクッキーと合わせるために少し甘みを抑えて酸味が強めのイチゴを使ったものだった。


「うわぁ……おいしそー。」


 薫風の口から何気なくこぼれたその言葉を聞いてシリウスは軽く笑った。


「君たちの為に用意したものだ。食べてもらえれば光栄だ。無論、毒などは入っていないし疑うのであれば毒見もしよう。食べない権利も勿論ある。」

「アルス!アルス!これとっても美味しいよ!」


 『待て』から開放された犬かのように、薫風はすぐに飛びついていた。緊張感というものは薫風にはないのかもしれないとアルスは思った。

 グレンは警戒していたのか食べることを拒んだが、アルスも少しだけ食べることにした。とても丁寧で上品な味だ。


 空気が落ち着いた頃合いを見てシリウスが話し始めた。


「君達を呼んだのは君達の今の状況について聞きたかったからだ。」

「今の状況?」

「そうだ。君達が異世界から来たというのはわかっている。そもそもここの世界に今も暮らしている種族は多くはないからね。」

「じゃあ、聞きたいのは?」

「わたしが気になっているのは君達がどこまで理解して世界を回り、どこまで理解して戦っているのか、だ。」

「理解……?」

「そうだな……アルス君。君が使っている持っているその剣についてはなにか知っているか?」


 シリウスが指したのは当然『零の剣』である。


「あぁ、あらましは知ってる。鍛冶屋が作った別の二本の剣を止めるために対策として作った二本、の内の片方だって聞いた。」

「その話は誰から聞いた?」

「その四本の剣を作った鍛冶屋の末裔って自称してたかなたっていう人間から聞いた。」

「なるほど。御名許みなもとかなたか。それなら合点がいく。」

「知ってるのか?」

「あれが赤子の頃からの付き合いだよ。その剣にまつわる話を知っているのであれば話が早くて助かる。先の話で言うところの『別の二本の剣』の内の一本を持っていたのがわたしだ。」

「その剣は今もここにあるのか?」

「いや、残念ながらない。その昔、ベテルギウスという悪魔によってわたしの手から奪われ、ベテルギウスが負けたあと危険だからという事で天使達に封印されてしまった。」


 かく言うシリウスも悪魔でありそのことは特にシリウスが言わずともアルス達は察していた。


「ねぇねぇ、毎度思うんだけどさ。なんで危険なものなのに壊したりせずに封印しちゃうのかな?やばい悪魔とかでも殺せばいいのに封印して、そんで結果的に開放されるのが世の常じゃん?」

「わたし達悪魔や天使のような魔生物に『直接的な死』という概念はない。君達フェザードは完全な魔生物ではないから知らないかもしれないが、魔生物とは本来魔力の塊でしかないんだ。肉体を形成している部位が殺されてもそこに魔力は残る。それはまたいつしか自我を持ち悪魔に戻る。」

「転生みたいなものってこと?」

「少し違うな。悪魔は死んでいないからね。水塊を斬っても繋げればまた水塊に戻るだろう?そんな感じだ。だから斬った上で何かの器に入れて封印しておくのさ。それは暫くすると霧散する。それがある種の魔生物の死だ。あとは悪魔に戻ることを放棄した場合もそのうち霧散する。多くの悪魔は、生への飽きからこの選択をすることが多い。」

「うーん。わかるけどよくわかんないね!でも剣は砕いてよくない?」

「あの剣はあまりにも特別すぎたんだ。もう作り手がいない。それに、昔からよく言うが、剣や力に罪があるわけではない。振るうものによって在り方は変わる。故に天使達はあわよくば自分達が困った時に使おうと考えたのさ。浅ましいことにね。」


 作り手はかなたの祖先なので人間である。なので当然、死ぬ。


「じゃあ今はどこにあるかもわからないんだな。使えるのなら俺達の仲間の誰かが使えれば良かったんだが……。」

「仮に所在がわかっていても使わせてはもらえないだろう。危険視しているからこそ封印したのだからな。」

「それもそうだな……。」


「少し脱線してしまったな。その『零の剣』と対になっているもう一振りである『壱の剣』。それを御名許かなたが持っていたと思うのだが、本題はそっちだ。」

「あぁ、あの……色んな属性の魔技が使えるあの剣か。」

「そうだ。あの剣を本来与えられた者の話をしたくてね。」

「かなたから聞いた話だと天使と悪魔の夫婦に与えられたって話だった。」

「その天使と悪魔の内の天使が持っていたのが『零の剣』。悪魔が持っていたのが『壱の剣』だ。悪魔の名前をアースというのだが……。」

「……? それがどうかしたのか?」


「アースという悪魔は大昔、この世界で力を持つ悪魔に与えられる爵位、その中の最上位である公爵の位を持つ悪魔だった。当時公爵の位を持っていたのはアース含めて九人、いや一人除名されたか……アース含めて八人だった。人間界にも影響を与えた悪魔といえばサターンだろう。聞いたことはあったりしないか?」

「俺はないな……。すまない、天使や悪魔なんてものすら架空の存在だと思い込んでいた俺には、あまり興味もなかったんだ。」

「まぁわたしも架空の生物への興味はさしてない。だから気に病むことはないよ。」


 この世界の上位の悪魔は爵位を持つ。王や大公ではなく最上位が公爵なのは、そういったものに仕えたりする事がない悪魔にとってあまり馴染みがなかったからだ。

 それよりは貴族の階級のほうが、この世界の古の悪魔達にとってはよほどしっくり来るように思えたのだろう。

 後でアルス達が聞いた話だと今の公爵はシリウス、リゲル、アルデバラン、カペラ、ポルックス、プロキオンの六人である。


「そのアースという悪魔がなにかあるのか?」

「そうだ。そのアースは『零の剣』を与えられた天使と共に、ベテルギウス一行に立ち向かい、そしてベテルギウスを封印する一助となった。だが……。」

「だが……?」

「その時にアースも斃されてしまった。ベテルギウスの持つ『晦』によって斬られたアースは、悪魔としての終わりを迎えようとしていた。」

「……? どういう意味だ? 悪魔は死なないんじゃなかったのか?」

「そうだ。悪魔は死なない。だが殺すことが出来るようになっていた。それが『終の太刀、晦』の終わらせる能力だ。……わたしが元々持っていた方の剣だ。」

「ベテルギウスに奪われたと言っていたが、シリウスがその『晦』を持っていても勝てないほどの相手だったのか?」

「当時、わたしとベテルギウスの実力は拮抗していた。そして、わたしもベテルギウスもこの屋敷で仲良く暮らしていたのだ。相手の事は知っているし信用もしていた。だから不意をついて攻撃する事も容易かったろうし、その不意打ちによる一手の差が埋まることはなかった。」

「なるほどな……。」


「本題はそこからだ。アルス君、君の魔力はそのアースを形成していた魔力そのものだ。」

「……!? どういう……?」

「アースは死後、魔力の塊となった。天使達は自分達の為に戦ったアースに感謝も込めて、とある世界へと送り込んだ。正確に言うとベテルギウスを封印する際に、この世界はいくつかに分断され、その中のここではない一つに送られた。」

「世界が分断された?」

「そうだ。アルス君。君達のいた世界、いや君達が巡ってきた全ての世界は元は一つの大きな世界だったんだよ。そしてそのアースの魔力が収められた器がアルス君。君だ。」

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