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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第五章 陽炎 面影 君の声
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三十七話

 迫り来る大勢の人間の兵士を相手に龍達はフレアやグレンを中心とし大きく横へ展開し、Vの字型の、鶴が翼を広げたような陣形となった。

 攻め寄る相手を包囲しながら潰していく。広範囲攻撃に特化したフレアの火炎のブレスが辺りを覆い尽くすことで戦いはかなり優位に進んだ。


「この人間共の動き……。」

「うん……サテライト技術だね……。」


 フレアが溢した言葉を何故か薫風が続けた。

 サテライト技術とは何なのかルヴィナにはわからなかったが、良くないものであることはわかる。

 サテライトという言葉をルヴィナはどこかで聞いたような気がしないでもないが思い出せない。


 進軍は順調であった。人間が龍を恐れるのも当たり前だとルヴィナは思ったし、それと互角に戦っていた鬼もいるとなれば兵器の一つや二つも用意したくもなるだろうという共感すらした。

 ルヴィナは自分達の行いが間違っていたとは思わない。正しいと信じている。また、ルヴィナ達が教えに行かなくても結果は何も変わっていないことも理解している。


 行動は道徳的に正しくても、人間として正しくないのかもしれない。


「ルヴィナ、大丈夫? やっぱりまだしんどいの?」

「ん……そうかも……。着いてはいくけど前線からはちょっと引かせてもらうね。」


 ルヴィナは薫風の鋭さを知っているため、取り繕っても仕方がないと判断した。その上で、どのみち薫風に心配をかけるのなら体調不良とした方がまだ心労は少ないだろうと踏んだ。

 ましてや、ルヴィナの迷いは『人間として』というものであり、薫風には何一つ関係のない話である。


 ルヴィナの誤算は薫風はそれを踏まえた上で察するほど鋭かったことである。

 薫風はルヴィナの言葉の節々からルヴィナの不調は体調ではなくメンタル的なものであることを察した。薫風としては『ルヴィナであれば体調不良であっても大丈夫と言ってしまう』という感覚であり体調不良で戦線離脱はあまり考えにくい。

 ルヴィナのことは心配であるが、薫風はルヴィナが一人になりたいのだろうと判断し、気付かないフリをして進軍を続けた。


 薫風はこの世界との相性が良かった。というよりも炎と風の相性はとても良い。

 水と風の相性も良いため今までも仲間内で潤滑油的な役割こなしていたが、薫風はグレンともフレアとも難なく合わせることが出来たし、薫風はこの世界で戦うことに関してはストレスなく戦えていた。

 薫風は鋭さと同時に生来の暢気(のんき)さが同居していて、それを頭で使い分ける冷静さも持ち合わせている。

 今は戦いに集中するときだと判断していた。


 薫風にはルヴィナの悩みを同調することはできないが、理解はできる。敵対している種族が薫風と同じフェザードであったなら、という想像だけでおおよその痛みはわかる。

 だが薫風はフェザードと実際に敵対したことは一度もなかった。だから薫風は、ルヴィナのことを本当の意味で理解してはないのだろうという理解をした。



 アルスのいるゴウエン軍の進軍の速度は龍達の比ではなかった。

 フレアの陣形は防御的な陣形であったがこちらはとても攻撃的であった。魚の鱗のようにΛ(ラムダ)の形に幾つかの陣を編成し一度に攻め立てる形である。


「弱い弱い!偽物のイグニの方が百倍は強かったぞ!」


 ほとんどの敵をゴウエンが薙ぎ倒していくのでアルスとニコルは討ち漏らしを掃討する程度であった。

 ゴウエンの戦い方は鬱憤を晴らすようであったが、どれだけやっても満足しないようにアルスには思えた。


 それでも誰も危うさを感じないのはゴウエンの異常なほどの強さからだろうか。

 後続の鬼達も弱くはないし、なんならアルスよりは強いのでこの軍が通った後にはもはや味方以外はアリの一匹すら生物は残っていないのではないだろうかとも思わせる勢いがあった。

 士気は高まる一方だった。本来陣形の後方に陣取る大将枠であるゴウエンがセオリーとは異なり先陣を切って我先にと一番槍を務めているのだから当然と言えば当然である。


 この世界に響き渡る閧の声。その声はルヴィナ達のいる龍達の勢力の方へまで聞こえてきた。そして程なくして鬼と龍の勢力は合流することとなった。


「じいちゃん!」

「おう!グレン坊!元気しとったか?」


 先程までのピリピリとしていたゴウエンとは思えないような明るい態度だ。

 やはり鬼と言えども血は水よりも濃いのだろう。


「ん……お前は……。」


 ゴウエンが薫風へと目を向けたが、薫風は気付かれたと見るや否や目を逸らして少しずつ遠くへと逃げていった。


「おいグレン今のは……?」

「あぁ、なんかわからないけど喋る鳥だ。じいちゃんとこに向かったアルスの旦那の仲間だよ。」

「なるほどな……。」

「どうかしたのか?」

「フレアはあいつについて何か言ってなかったか?」

「ばあちゃん?いや、別になにも……なんでだ?」

「……いやー、喋る鳥なんて珍しいものわしは見たことなかったから、つい気になってな!はっはっはっ!」

「確かにオレも見たことないなぁ。アルスの旦那達は異世界から来たって言ってたから、それが本当ならあいつもそうなんじゃないかな。」

「そうじゃろうなぁ。わしは今からフレアに挨拶してくる。どこにいる?」

「あっち方かな。いい歳して喧嘩したりしないでくれよ。」

「善処する。」


グレンは不安に思ってゴウエンに着いていった。フレアとゴウエンは仲が悪いわけではないが、特別いいわけでもない。

 身内ではあるが二人の関係性は二人の子供、グレンの両親が死んだときに既に壊れてしまっている。

 今はただの龍と鬼の長同士でしかない。


「おいフレア!」

「ゴウエンか。久しいのう。」

「わしは今から人間のところへ進軍する!邪魔してくれるなよ!」

「邪魔?妾達が? ふん、お主らこそ精々露払いに尽力して妾達の為に道を作る努力をしておくれ。」

「……相変わらず口の減らないやつじゃ。」

「お互い様よの?」

「ははははは……。」

「ふふふふ……。」


「じいちゃんもばあちゃんもその気味の悪い薄笑いをやめてくれ……。どうせ目的地は同じなんだし一緒に進軍すればいいだろ?」

「こんなにのろのろと進んでいる軍にわしらが合わせてやる筋合いはない!」

「妾も死に急ぐつもりはない。」


 二人の性格の相性が悪いわけではない。

 事実イグニ、カガリ両名が生きていたときはこの二人の仲は良好であり一緒に酒を酌み交わしたりもしていた。

 しかしその二人が亡くなった時、互いを敵と認識した時に相手への配慮も義理も全て捨てていた。敵ではなかったとしてもそれを拾い直すほどの関係でもないとフレアもゴウエンも思っている。

 お互いに嫌っているわけではない。寧ろ認め合ってはいる。そういう問題でもないのだ。


「なぁ、ばあちゃん。フィアが今兵器開発として人間の国に捕らえられてるって言っただろ。あんまり悠長なことやりたくないんだ。」

「……。」

「じいちゃんもさ。急いで進軍したいのはオレも同じだけど、ここで焦って攻めるのは下策だと思うぜ。市街地まで戦場にするってんならオレにも守るものがあるからじいちゃんと戦うことも視野に入れることになる。それは多分アルスの旦那達の一行も同じだ。」

「……。」

「だからさ、100%どっちかに合わせろって言うつもりはないけど、50%ずつでもお互いに譲歩してくれないか?」


「かわいい孫にそう言われちゃしょうがない。ゴウエンもそれでいいね?」

「はぁ……まったくフレアはいつまでもグレン坊に甘い。じゃがフレアが折れるのにわしがいつまでも意地を張ってても仕方ないな。」


 グレンの言うことはあまり正しくはない。素早い進軍をするのなら一気に行くべきで、持久戦をするのならあまり攻め込む必要がない。

 ただ鬼の戦力と龍の戦力をそういう形で分散させるぐらいなら、という判断だった。


 ゴウエンやフレアだけで一騎当千の活躍はする。人間がいくら束になっても苦戦する相手ではない。

 戦力の分散がどうとかを気にするほどのことではないのかもしれない。

 それでもグレンはフレアの言う『サテライト』が気になって仕方がない。

 兵士が少し強い程度ならフレアはわざわざ名前まで覚えて意識するだろうか?


 薫風はゴウエンから逃げた後、アルスを探した。薫風の魔技『風向の循環(ウィンドミル)』を使えば(ニコル)の姿を探すのもその近くにいる人間を探すのも容易かった。


「アルス!」

「薫風!どうしてここに?」

「鬼の軍と龍の軍が合流したからアルスもいるんじゃないかなって。」

「ルヴィナは?」

「ルヴィナは……今は少し離れたところにいるよ。ちょっと疲れたからって言ってた。」

「……。そうか、まぁ戦えない体で無理してないならいいんだ。」

「あぁそれなら大丈夫だよ。龍の長のフレアに魔力バランスのコンディションを整えてもらったから、ここの世界はともかく他所でなら普通に水の魔技も使えるようになったし……。」

「カオル、余計なこと言わなくていいよ。」


 薫風とアルスが会話しているところへ、ルヴィナが割って入った。


「ルヴィナ!もう大丈夫なの?別に無理しなくたってフレアやゴウエンに全部任せてたら終わると思うけど。」


 薫風がゴウエンの名を知ってることにアルスは違和感を覚えたがきっとどこかでグレンと合流し教えてもらったのだろうと判断した。


「大丈夫だよ。ありがとう。」

「これからどうしよう?フレアやゴウエンを説得できたのはいいけど、それからのことあんまり考えてなかったね。こんなに早く人間達が進軍してくるとも思ってなかったのもあるし……。」

「俺はこのまま鬼達と一緒に進軍するのが一番安全ではあると思う。」

「うん、まぁそれが無難かな?ルヴィナもそれでいい?」


「……私は、この軍よりも先に人間の町へと向かいたい。」

「どうして!?まさかフレアやゴウエンと対峙するなんて言わないよね?」

「そうじゃないよ。そんなことするぐらいなら最初から人間の町にいればいい話だし、フレア様に目を掛けてもらっておいて裏切る真似なんてできない。」

「じゃななんで?」

「それが一番人間の被害が少なくて済みそうだから。」


「……ルヴィナの言うこともわかる。だがここの人間達の強さは異常だ。こっちは戦えないルヴィナを含めて四人。正面突破はどう考えても無理だ。」

「正面突破じゃない。私達が戦う必要があるのは最小限だよ。これだけ大きな軍を動かすのは四人が動くより遥かに時間がかかる。なら迂回路を通って私達が進軍することも出来るし、私達だけなら鬼や龍の軍勢には見えない。」


「ルヴィナ、それは無理だよ。人間の町に着いたとして、その先がない。潜入して相手の頭を叩こうって話なんだと思うけど、やっぱりそれは厳しいよ。」

「私達は勝ち馬に乗るために鬼や龍と繋がりに行ったの?」

「それは違うけど……。」


「ルヴィナが言ってるのは綺麗事だ。俺達は俺達の目的を果たすためにこの世界に来たんじゃないのか?」

「私達の目的は人間達を救うことだったと思うけど?」

「そうだ。だから、このまま進軍すべきだ。このまま進んで国の王にゴウエン達と共に直談判し国を正しく変えていかなくてはならない。それが人間を救うっていう事なんじゃないのか?」

「その為に犠牲がどれだけ出てもいいってこと?」


 空気が重い。険悪といってもいい。

 ルヴィナの言っている事もアルスが言っている事も間違ってはいない。

 アルスは普段から(仲間内では特に)忌憚なく物事を述べるきらいがある。

 それは言われる側からすれば耳障りのいいものではなく、不快感すらある。


「にゃー」


 ニコルが鳴いている。ニコルは意味もなく鳴くことはなく、アルスに何かを伝える時にだけ鳴く。


「ネコ助は何て言ったの?」

「……ニコルは、ルヴィナの意見に賛成らしい。人間達の用意していた兵器が、対鬼や龍を意識したものであるならこの程度で済むはずがないから、仮にそれでこの軍の被害が甚大になろうものなら人間全てを滅ぼしかねないから、らしい。」

「うーん。そっか。ボクはどっちでもいいけど、四人で行くならルヴィナが戦ってくれないと無理だよ?」


「わかってる。戦うよ。相手が人間でも……。」

「戦うって何を言ってるんだ。ルヴィナはこの世界じゃ魔技は使えないんだろ。」

「……水の魔技は使えない。でも私には土の魔技の才能があったからそっちでなら戦えるってフレア様が言ってた。だから少しだけ練習した。最低限は戦えるよ。」

「そうなのか。魔技の種類が少なくとも普段通り矢を射つことや少しの魔技が使えるのなら、ルヴィナを戦力として期待してもいいな?」

「うん。それで構わないよ。」

「じゃあそれでいい。行くなら今すぐ行くべきだろう。」


「それじゃあ啄木鳥(きつつき)部隊!出発(しゅっぱーつ)!」

啄木鳥(きつつき)って何?」

「えっ……知らないの?木をつつく鳥。」

「そうじゃなくて、なんでこの部隊の名前が啄木鳥部隊なのかなって。」

啄木鳥(きつつき)は木をつついてびっくりして穴から出てきた虫を食べるんだよ。」

「……うん。話が全然繋がってないけど気にしないことにする。」


 こうしてアルス達啄木鳥部隊は鬼と龍の軍から離れ、単独行動することになる。

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