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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第四章 降り止まない雨はないけれど
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二十五話

 ガディッドが魚人(うおんちゅ)を連れてくるまでの間に薫風が人間を連れてくるという話をしていた。


「対話はさっと済ませた方がいいよね!ボクがアニキさん達を連れてくるよ!」

「……人間代表は彼らで大丈夫なの……?私はなんか違う気がするんだけど。」


 ルヴィナの言う通り、彼らは人間の中で特別高い地位に就いているものではない。

 ましてや海賊であり、世間的には嫌われ疎まれていると言ってもいいだろう。

 本人の行いは義賊に近いものであったとしても、賊であることは変わらず、人間の社会はそういうものを容認し飲み込めるようにはあまり出来ていない。


「そんなこと言ったってルヴィナが仲介するなら手近な相手だとアニキさんしかいないよ。そうでなくても人間の偉いさんに頼むならやっぱりアニキさんに頼んで口を利いてもらわないといけないと思うな。」

「……。」


 だが薫風の言うことも尤もでありアルス達はこの世界の人間ではないので、そういうコネもなにもない。

 やむなくルヴィナは薫風の意見を飲み、白波達を頼ることにした。


 ガディッドと薫風が呼びに行っている間に、ルヴィナとレヴィアタンは雑談をしていた。

 人と動物(というか魔物のようなもの)。種族こそ違えど二人の心は繋がっている気が二人にはしていた。その心の繋がりをルヴィナだけでなく、魚人(うおんちゅ)やすべての人間に波及させることが目下の目標であるが、それはそこまで難しいことでもないようにルヴィナには思えた。


薫風が白波達を連れてくるのにさほど時間はかからなかった。二人の仲の良さ、白波の人間性を考えればそれもそうだろう。しかし、ガディッドが戻ってこない。


 ガディッドは魚人(うおんちゅ)の中で特別偉い地位の存在ではない。むしろ、自分自身のやってみたいこと、興味関心、好奇心を優先し好き勝手に行動する奔放さを好ましく思われてない節もある。

 しかしそれでも時間はかかったがガディッドは魚人(うおんちゅ)達を何人か連れてくることに成功した。

 その背景にはルヴィナ達が雨を取り返し、魚人(うおんちゅ)達を助けたことも大きく関わっている。『人間』という括りではまだ恐怖や警戒が強く存在するが、恩義には報いたいという義理堅さもあった。


 しかし。


「お初にお目にかかります。レヴィアタン様。魚人(うおんちゅ)の長を勤めますサーディンと申します。」

「う……うん。はじめまして。」


「久しぶりだな、白波。お前が人間の代表だなんて人間という種族も堕ちたものだな。」

「へっ……バカいうなよサーディン。わしがそんな高尚な存在な訳がないだろう。」

「ならなぜここにいる。私達はお前達のような下衆な存在ではなく、人間という種と対話するためにここに来たのだぞ。それなりの人間と出逢えるものだと期待していたのだが?」

「うるせぇよ。わしだってこんなこと偉いさんに任せておきたいもんだ。」

「……まぁいい。」


 そうしてレヴィアタンと白波、サーディン達による会議が始まった。だがそれが始まってすぐに話は中断された。


「お話中悪いけれど、僕達はもう行かなきゃいけないかなぁ。」


 声の主はネムレスだった。アルス達を迎えに来たのだろう。


「少し待ってくれないか、ネムレス。俺達は戦った直後だから疲れてるんだ。せめて一日は休ませてほしい。」

「うーん。別にいいけど一日与えたところで休めるように感じないよ?」


 ネムレスの言う通り、一日もらったところで3種族の会談で全てが終わってしまいそうである。


「こいつは誰なんだ?わしの知る猫にしては……随分と……。」

「随分と愛らしいだろう?僕はネムレス。ルヴィナさん達をこの世界に連れてきて、この世界を救った救世主様さ。」

「おう!そうだったのか!……この世界?」

「そう。この世界。僕達は異世界から来た存在だからね。」

「おーそうだったそうだった!お嬢が言ってたのをすっかり忘れてたぜ!がっはっは!」



「その話は私達もガディッドから聞いている。真実か否かは疑問だが。」

「どうして疑う?わしら人間がそんなに嫌いなのか?」

「嫌いとか好きとかそういう問題ではない。」


「はいはい。僕達には関係ない話は興味ないから。このままアルス達を拘束してないでさっさと解放してくれないかな。」

「ネムレス。俺達はレヴィアタンと人間と魚人(うおんちゅ)を仲介するためにここに必要なんだ。」

「アルス達が仲介することに何の意味があるんだい?そこにいる魚と海蛇がアルス達と仲良くなったとしてもこの世界の人間には関係ない話。他の人間は他の人間。アルスはアルス。違うかい?」

「レヴィアタンと魚人(うおんちゅ)と人間はわかり合える。それは早いに越したことはないだろう。その為に俺達の力が必要なら力を貸す。なにもおかしいことはないだろ?」


「いや、私はそこの……ネムレスだったか。その(ほう)が言っていることの方が正しく、筋が通っていると思う。」

「サーディン。わしは寧ろ手短に事を済ませることが、求められてるんだと思うぞ。」

「それは白波が面倒だからすぐ済まそうとしているが故の方便だろう。」

「それがないとは言わねぇよ。だがな、全員が納得できる答はそれしかないだろう。すぐに片付けて、皆で酒飲んで、腹割って色々話してそんで仲良くなって。それでいいだろ!骨休めもできるしな!」

「お前というやつは……。」


「ボクも兄貴さんの意見に賛成!仲良くなろうねっていうのにギスギスと腹の探り合いなんて何も楽しくないよ!」

「レヴィア。私達の意見はともかくとして、レヴィアはどうしたいの?」

「あの……レヴィは……。楽しく仲良くが……一番……かな。」

「うんうん!そうだよね!」

魚人(うおんちゅ)さんも……人間さんも……。」


「レヴィアタン様。あなた様はこの世界についてどうお思いですか?」

「どう……どうって……?」

私達魚人(うおんちゅ)と人間。この二種族の仲は良いとは言えません。魚人(うおんちゅ)一同はレヴィアタン様がお許しになられるのであれば、レヴィアタン様の友好関係を築きたいと思っています。」

「うん。レヴィもそう思うよ。だから人間さんも魚人(うおんちゅ)さんもお互いに仲良くしてほしいな。」

「私達の因縁はそんな簡単なものじゃないんです……。不介入不干渉、それが私達の世界のあるべき正しい形でもあるんです。住む地の違いによりお互い関わらずに済んできたのです。それを今更下手にいじって不要な争いを生む必要性がどこにありましょう?」

「……。わからない、わからないよ……。」


「なぁサーディン。いい機会じゃないか。サーディンがわし達人間を嫌う理由もわかってるつもりだ。だからこそお互い歩み寄ってわだかまりを捨てようや。」

「白波。白波はそれでいいのかもしれない。だが他の人間達はどうだ。私達魚人(うおんちゅ)を忌避したり、好奇の目で見たり、一部の人間に至っては邪な感情を抱いていたりするではないか。そんな『敵』の仲良くするなんて難しいと思わないか?」

「わしらは敵じゃねぇ。だがそう生易しい問題でもないわな。じゃあこうしよう。サーディン、それにレヴィアタン。わしら海賊団とだけでも仲良くしよーや。それから少しずつ他の人間とも仲良くやってけばいいじゃないか。」

「……。」

「それがレヴィアタンの意志でもある。わかるだろ?」

「……わかった。」

「よっしゃ。レヴィアタンもそれでいいか?」

「うん……。ありがとう。」


「そうと決まればまずは酒だな!わし達の仲間の紹介がてら宴会だ!場所は……静寂(しじま)島でいいか。」

「私達はコーラルーラルでも構わないが。」

「お前なぁ……仲良くしようって言ってるんだから、そういう意地悪ばっかり言うのは良くないぞ。」

「ふん……。」

「とりあえず……三時間後ぐらいに静寂島まで来てくれや。流石に今から海賊全員集めて酒や(さかな)……あー……もとい、つまみを用意したんじゃ時間がかかるからな。」

「わかった。レヴィアタン様は一度私達と共にコーラルーラルまで来ていただけますか?魚人(うおんちゅ)達を紹介しましょう。」

「うん。わかった。」



 アルス達は白波と一緒に洞穴に戻り、宴の手伝いをした。ルヴィナは休むように言われたが本人の性格的にそれが出来ず結局とても仕事をしていた。アルスもルヴィナも料理は人並み以上に出来る。薫風は味見役が出来る。

 そうして、宴がはじまった!


 ルヴィナは少女とレヴィアタンの三人で雑談をしていた。

 薫風は白波と、アルスはガディッドやサーディンら魚人(うおんちゅ)と宴を楽しんでいる。


「ごめんね。勝手にスティングレイを使っちゃって。」

「あー……それはいい……とは言えないけどまぁ、いいとしてさ。どうしてそんなことしたの?ルヴィナさんだってルヴィナさんの仲間が同じことしたらイヤじゃない?心配にならない?」

「……。」


 アルスが同じことをしたとしてルヴィナは心配になるだろうか。心配になるとして心配になるという事実を認められるだろうか。

 だがここで、心配にならない、心配しないと答えることが正しいのだろうか?正しくないだろう。


「ルヴィナさん?」

「うん。そうだね。私が悪かったよ。後で皆にも謝っておくよ。」

「……ルヴィナさん。ルヴィナさんとアルスさんってどういう関係?」

「……。仲間だよ。同じ戦場に身を置く仲間。」

「そう……。アタシは深く突っ込まないケド。薫風君はすごく気になってるみたいだよ。隠したいならもっとうまく隠すべきだと思うな。」

「……。別に特別なにかあるわけじゃないよ。特別好きってわけではないだけで。」

「……そう。 ルヴィナさん、降り止まない雨はないよ。」

「……そうね。」


『そうは言うけれど雨がいつ止むのかは雨の中ではわからないじゃない。』そういう風にルヴィナは考えていた。口にはしないが。


「ねぇ。レヴィはなにか楽しいお話がしたい……な!もうルヴィナは居なくなっちゃうんでしょ?」

「レヴィア……。そうだね。」

「ルヴィナが異世界に渡る前……ルヴィナが生まれたところってどんなところだったの?」

「私が生まれたところ……。そうね、ここよりずっと緑が多くてなんなら植物達が喋ってた世界だったよ。まぁ植物達と人間は仲良くはなかったんだけど。」

「どうして?人間も植物もお互い、持ちつ持たれつな関係だって思ってたのに。」

「それはここの魚人(うおんちゅ)さん達と変わらないかな。お互いがお互いを怖がってるんだよ。」


「どうして皆仲良く出来ないのかな?」

「難しい質問だねぇ。アタシ達海賊は言ってしまえば、はみ出しものだから、なんとも言えないんだけど。人は未知を恐れ自分とは異なる存在を否定してしまう生き物だから……かな?まぁ、海賊は未知にロマンを求めて旅する存在だから真逆なんだけど……。」

「じゃあ皆にもっとレヴィの事を知ってもらって友達にならないとね。」

「うんうん。そういうポジティブなのいいね。アタシも手伝うから、少しずつ仲良くなってこ。」

「うん!」


 ルヴィナの世界の話、シグザルとメディスの世界の話、薫風の世界の話。そんな過去の話をしたりして三人はとても仲良くなれた。

 アルス達と会話しているところの会話の内容はおおよそ似たようなものだった。自分の世界の話がほとんど、で、それを聞いた誰しもが異世界に興味を持った。

 アルス達の魔技も、魔技使いではない彼らにはとても珍しく、アルス達が望まなくても宴会芸として十分な演出と言えた。


「おう薫風。お前さん達は明日には旅立っちまうのか?」

「うん。多分そうなるよ。アルス達がボクの世界に来たときもほとんど猶予なく出て来たからね。」

「折角わしらと仲間になったのに寂しいじゃねぇか。」

「離れてても仲間だって言ってくれたのはアニキさんだよ!」

「そりゃそうだ。そりゃそうなんだが離れ離れが寂しいこととはまた別の話だろ!

「また全部終わったら会いに来るよ!」

「言ったな?男と男の約束だからな!」

「約束だからアニキさんはそれまで息災でいてよね!」

「がっはっは!わしはまだそんな歳じゃねぇよ!むしろ薫風こそ危険な旅なんだから、やらなきゃいけないこと全部かなぐり捨ててでも、自分の安全をとるんだぞ!」

「わっはっは!そうするぐらいなら初めから旅してないよ!でも身の安全は気にする!ありがとう!」

「がっはっは!よくわかってるな!」


 薫風と白波はこの世界で一番仲が良くなったと言えるだろう。お互いへの理解も深く、お互いが自然体でいられた。

 ニコル含めた四人は宴のあと長い眠りについた。深い眠りについた四人は傷つき疲弊した身体を癒し、翌朝になった。

 少女と白波そしてガディッドとレヴィアタンが見送りに来ていた。そこにサーディンの姿はないがサーディンも忙しいのだろう。


「ルヴィナさん。もう行くんだね。」


「薫風、約束は守れよ!」


「アルスさん。おいら達のこと忘れないでね。」


 各々が挨拶を済ませて、ネムレスに連れられ四人は次の世界へ向かった。

 海賊達がこの後、魚人(うおんちゅ)やレヴィアタンと十二分に仲良くなった時、人間政府の転覆を狙う反逆者として他の全ての人間の敵として認識され大きな争いが起こるのだが、それはアルス達には関係のない話。

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