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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第二章 血も涙もない機械達
2/63

二話


一話に評価してくれた人 ありがとうございました

コメント、評価、感想などいただければモチベーション向上に繋がりますので、暇があればよろしくお願いします。

 目を開くと真っ暗な世界にいた。感覚というものが狂っているのか立っているのに足になにも感じない。落下、或いは浮上しているというわけでもなさそうであった。


「ここは……どこだ?いや、ここは何だ?」

「ここは狭間の領域。君達がいた世界と、これから向かう世界。その中継地点。ざっくり言えばサービスエリアみたいなもんさ。」

「サービスエリア……?」

「あぁ、馴染みのない言葉だったか。すまないね。」

「いや、それはいいんだが……。なんでこんなところで下ろしたんだ?」

「少し無謀な君達に、二つほどいいことを教えてあげようと思ってね。」

「いいこと?その言葉がいいものであるという話を聞いたことがないが……。」

「まぁそう言うなよ。一つは君たちのお金の問題。君達が持ってるお金は実は異世界では使えないんだ。」

「そうなのか?」

「だから僕が代わりに両替を行ってあげるよ。ただし換金レートは僕が調整するけどね。」

「マージンを取ろうってことか。」

「役に立たないお金を持ち歩き、所持金ゼロの生活を強いられるよりは良いだろう?」

牽強付会(けんきょうふかい)にしか思えんが、まぁいいだろ。それで、もう一つのいいことって言うのは?」


「君達は魔技(まぎ)という言葉に聞き覚えはあるかい?」

「フローラが使ってたね……空を飛んでるのも膂力(りょりょく)じゃなくて魔力を使った魔技なんだとかなんとか?」

「あぁうん、あの精霊ならそうだろうね。実はその魔技というものは人間でも使えるというのは知ってるかな?」

「……? フローラは人間には使えないって言ってたけど……。」

「それはある意味で正しく、ある意味で正しくないってことさ。例えば君達は手を上げたり足を動かす事を理屈付けてどうしていると説明できないだろう?」

「……? 要領を得ない発言ね。」

「魔技を使うということはそれと同じぐらい自然なことであり、使い方を説明するということは出来ない。だから使い方を知らない人間には使えないけれど、使い方を知っていれば使うことはできる。」

「言いたいことはわかるけど、その理屈だと少なくとも私には使えないね。」

「使い方がわかるようになる方法があれば人間でも使えるという話さ。それを教えてあげようかと思ってね。」


「俺も空を飛べるようになるってことか!?」

「なんでそんな嬉しそうなの……?」

「空を飛ぶっていうのは人類の夢だろう?」

「空を飛ぶなんて夢を持たない人類を否定しないでほしいんだけどね。」

「ルヴィナは飛びたいと思ったことがないのか?」


「あーあー盛り上がってるところに水を指すようで悪いんだけど、飛ぶことにはあまり期待しない方がいいかもしれないよ。必ずしも不可能という訳ではないけどね。」

「どうしてなんだ?」

「精霊のような魔生物はともかく、人や猫のような元来魔技を使えない生物は魔聖獣の力を借りることでしか魔技を行使できないからね。」

「……魔生物は話の流れでなんとなくわかるけど……魔聖獣ってなんだ?」


「そうだねぇ。魔聖獣というのは守護霊みたいなものかな?君達の心と共に在り、心と共に成長してきた君達の内に宿る不可視な存在。」

「それは誰にでも存在するの?私たちを含めすべての人間に?」

「おおよそ例外なく存在は、するね。君達の世界では馴染みがないことだったかもしれないけれど他の世界では魔技を行使する人間も一定数いるよ。尤も、そういう世界でも使える使えないで別れたりはするけどね。」

「使えるかどうかって(なに)で分けられるんだ?ただの才能の問題なのか?」

才能(センス)であったり、努力であったり。あとは本人の意思と、魔聖獣と当人の相性かな。魔聖獣だって生物なんだ、合わないものには手は貸さないよ。」

「なんか……難儀なのね。」

「力を得る、そしてそれを自由に使うなんてものは、それがどういった形の力であったとしてもひどく面倒なものだよ。おいそれと権力や破壊力を手にすることが出来ようものなら世界は形を保てないだろう?」

「まぁ……それもそうね。」


「それで、どういう理屈で飛ぶことに期待できないんだ?」

「あぁそんな話だったね。忘れていたよ。まず精霊とかの魔生物は自身の持つ魔力や大気中の魔力を好きなように使えるけれど、魔聖獣に力を借りる場合借り方を形式化し名前をつけないといけない。」

「……わかりやすく言ってくれ。」

「君達の場合だと技名をつけて、それを呼ぶ(コール)することで魔技が使える。逆に言えば技名をつけてない魔技を君達には使えない。」

「ねぇ、技名をつけるって何?呼ぶ(コール)するってことはその魔技の名前を使う度に言わなきゃいけないってこと?」

「順を追って説明しようか。君達はこれから各々の魔聖獣と対話をして力を貸して貰うための契約をするんだ。」

「契約……?なんか一気にいかがわしくなったんだけど……?」

「あぁごめんごめん。人間に契約と言うと、腹黒い思惑が渦巻く形式張ったものを想像するんだったね。盟約と言うべきかな?」

「そんなこと言ってるんじゃないんだけどなぁ……。どうやったらその魔聖獣と対話ができるの?」


「魔聖獣は君達の心の中に棲んでいる。ならその解答は心の中にある。違うかい?」

「はぁ……いい加減まどろっこしいな……。」

「まったくね……。」

「まだるっこしいのはお互い様さ。君達が理解を求めるから長くなるんだよ。Don't think , feel.という言葉を知らないのかい?」

「知らないけど……。」

「考えてたってわからないことはわからないってことだよ。君達は理屈っぽすぎるのさ。ニコルは四の五の言わずにやり方だけ聞いて納得してすぐに魔技を使えるようになったのにさ。」

「ネコちゃんもネムレスに魔技を教えてもらったの?」

「魔技を教えたわけではないよ。いや、そもそも君達に対しても教えているつもりはない。ただ魔技というものの存在を知らないようだから、それを示してあげただけ。教える、という観点で言えば君達は魔聖獣に教えてもらうのさ。」


「つべこべ言わずにやればいいのよね。やり方は?」

「目を閉じて呼吸を整えて、自分の心に問い質すんだ。そして各々の魔聖獣の声を聞くんだ。まずはそれだけでいい。魔聖獣の声が聞こえないのであればそもそもこの話は終わりだからね。」

「その感じだと戦闘中に魔聖獣と話すなんて出来そうもないんだけど……?」

「御明察。察しが良くて助かるよ。だから落ち着いた環境で事前に魔技を修得しておかないと痛い目を見るよ。」

「いや、そもそも魔技って具体的になにができるの?ネコちゃんが電気纏ってたのが魔技なのはわかるけど。」

「人それぞれ属性が違うから具体的にと言われても困るなぁ。ニコルみたいに属性を身に纏う、或いは装備に付与するというのはシンプルだけど大体の属性でできると思うよ。」

「うーん。魔技って必要なの?聞いてる限りだとそんなに役に立ちそうな気がしないんだけど?」

「なら、そうだねぇ。ルヴィナさんは弓を使うだろう?その弓から放たれた矢が魔技によって威力が増幅するだけで感じ方が変わるんじゃないかな?弓矢ってやつはあまり威力を上げられない武器だろう?」

「確かに威力が上げにくいのは事実ね……。」

「有用であるか否かは使ってみればわかる話で、選択肢を増やすことに意味があると僕は考えるけど、どうだろう?無理にとは言わないけど、戦力面で安定した方が僕としてもありがたいんだ。」

「ないよりはあった方がいい……か。」

「詳しいことは魔聖獣に聞いた方が早いと思うよ。」


「なぁここで魔技を放ってみても問題ないのか?」

「ここは無辺に広がる果てなき深遠。使ってみてもいいけれど、くれぐれも暴走には気を付けてね。」

「待って。あんたもう修得したの?」

「あぁ……ルヴィナ達が話している間に。」

「……はぁ。まぁいいわ。その魔技ってやつを見せてみなさいよ。」

「それで、さっきネムレスが言っていた暴走とは?」


「魔聖獣の力を借りて魔技を使うに当たって、自分の使える出力を越えて出力を上げすぎると、制御できなくなる。そうなると魔聖獣が君の身体を乗っ取るんだ。」

「……? 話が繋がってないぞ。」

「結論だけあればいいかと思ったんだけどねぇ。魔聖獣は君の心。魔技は君の心の力の具現。だから魔技を制御できない時、魔聖獣の制御も出来なくなるのさ。そして実体を持たない魔聖獣は宿主である君達の身体を奪い取る。」

「そうなると、どうなるんだ?」

魔聖獣(きみたちのこころ)次第ではあるけれど、多く魔聖獣は感情と強くリンクする。君達が敵を打ち倒さんと願い暴走させれば、間違いなく破壊衝動の塊として顕現することになるだろうね。」

「それは止められないのか?」

「宿主には止められない。外から宿主ごと魔聖獣を殺してしまうか、或いは魔聖獣が飽きるか、魔聖獣が魔力を使い果たすかといったところかな?いずれにせよ碌でもない結末にしかならないんだ。」

「厄介な力なんだな……。」

「君の力であっても君のものではないからね。暴走しないように試してみるならここを使ってもいいよ。」

「あぁ……ありがとう。」


 アルスは手が少し震えている事に気が付いた。それは興奮も少しあったろうが本質的には恐怖が大きかった。だが、どちらにせよアルスには剣を強く握ることでしかその震えに抗うことはできなかった。

 今までもアルスは剣に(ゆうき)を貰ってきた。それでよかった。それだけで愛すべき人すらも殺める(ゆうき)を手にすることができた。


 アルスにはわかっていたのかもしれない。この魔技という力を一度でも手にしてしまえば、後戻りができないことを。

 アルスはネムレスに魔技の存在を知らされる前から、そのような力を何度か使ったことがあった。その度に自分が恐くなっていた。

 その持っている力は自分に扱いきれる物ではないことを、その力に振り回されるほどに身をもって実感してきた。

 それでもこの力を必要とされるとアルスは使わないという選択が出来なくなるだろう。使わないことが許されなくなるだろう。

 それは恐怖に振り回されることを受け入れることから戻れなくなること。怖くないはずもなかった。


 でもアルスは期待もしていた。不可思議な自分の力が制御して使えるようになるのかもしれないということに。それが誰かを守ることに使えるのかもしれないことに。


「『閃変万火』!」


 アルスはそう叫び剣を水平に力を込めて振り抜いた。それと共に紫の炎をあげながら斬撃が飛んでいった。


「さすがアルスだ。才能があるじゃないか。」

「そうだ……この感覚なんだ。俺は今までに魔技を使ったことがある……と思う。」

「だろうねぇ。」

「だろうね……?わかっていたのか?」

「うっすらだけど、アルスとルヴィナさんからは魔力が漏れてたからね。使ったことがあるかはともかく適正はあることはわかっていたよ。それに加えて、アルスはなんというか半開きの状態だったからだろうとは思ってたよ。」

「何故それを先に言わないんだ……。」

「言ったろう?魔聖獣との相性は別問題なんだって。」


 ルヴィナは少し考え事をしていた。アルスの魔技を目の当たりにして魔技の可能性と重要性を確認させられた。

 威力が上がる?そんなレベルの話ではない。異世界には魔技使いが沢山いてそれを相手にしなくてはいけないのに、こちらが魔技を使えないのでは話にならないレベルの話だ。


「魔聖獣も生き物だからずっと使わない魔技は忘れてしまうかもしれないので、気を付けてね。一度に沢山覚えられもしないしね。」

「記憶は共有しないのか?」

「心に記憶はないよ。記憶から心は形成されるけどね。魔聖獣は魔聖獣で記憶を持っているのさ。」

「面倒なんだな。」


 この説明をされてアルスが考えたことと、ルヴィナが考えたことは真逆であった。

 アルスは『できるだけ使う魔技の種類を少なくして魔聖獣が覚えやすくする。その為に一つ一つの汎用性を上げる』というものであったが、ルヴィナは『一つ一つを個性的にして、全体の使用率を(なら)す』というものであった。

 どちらが正しいというわけではない。ただ方向性だけの違いでしかない。手段が真逆であろうと目的は同じなのだ。


 あまりゆっくりもしてられないので、ルヴィナも自分の魔聖獣と話そうと目を閉じて呼び掛けた。


(はじめまして、ルヴィナ。)

(貴方が私の魔聖獣様ですか?)

(そうじゃな。わしは『変化と影響の象徴』である水の魔聖獣……かの。)

(……自信がないんですか?自分の事でしょう?)

(それは言ってることが矛盾しとるの。わしはある意味ルヴィナ自身じゃしの。)

(そうでしたね。ところで魔聖獣様、私に御力を拝借願えないでしょうか?))

(そうじゃのう。その堅苦しい敬語を止めてくれれば貸してやらんこともないぞ。先も言った通りわしはある意味ではルヴィナなのでな。自分に敬語を使われるのはなんともくすぐったいのじゃ。)

(……わかりました。なんとお呼びすればよろしいですか?)

(……。)


(……?)

(……まぁよいわ。わしに名前などない。誰もつけたりせんからの。ルヴィナがつけてくれたらいいぞ。)

(えぇ……。)

(露骨に嫌そうにするでないわ!わしにはルヴィナの感情は全部伝わってくるんじゃからな!)

(すみません……。)

(謝ることはない。折角じゃしルヴィナの弓の名前から貰うとするかの。)

(……私の弓に名前なんてあったんですか?)

(なんじゃ、自分の愛弓の名前も知らんのか。)

(私の弓、腕輪から出てくるものなので名前なんて知りません。)

(まぁ知らぬなら知らぬでよい。我が名として脳髄に刻むがよい。今から我が名はウィルであるぞ。)

(意志(ウィル)……?)

(そう。弓の名前はウィル・オブ・フラッターじゃがの。弓を使うなら聞いたことがあるじゃろ、弓を射るのは腕の力ではなく意志であると。)

(確かに弓を教えたくれた師匠が同じことを言ってました。)

(それはともかくとしてじゃ。わしの魔力を使いたいんじゃろう?どういった魔技にするか考えてあるのかの?)

(それなんですけど……。)


 ルヴィナはウィルと魔技の相談をし始めた。


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