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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第四章 降り止まない雨はないけれど
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十六話

 少女は海賊の船長の一人娘であった。しかし、その船の船長の没後、その船長の没後、他の船員からも可愛がられ育てられた少女は一人前の海賊になるはずだった。

 ある時少女は考えた。海底に行けば沈没した他の海賊達のお宝があるのではないかと。本来はその為にはサルベージ用のクレーンが必要であった。しかしそんな文化も進んでいない世界ではそんなものも存在せず、またその様な発想もなかった。

 少女は単純に深海に潜ってお宝を掴んで帰って来る、その程度に思っていた。しかしそれの難しさを十年ほどかけて実感した。それでも今は亡き父親の、船長の看板に娘として泥を塗らないためにもお宝を探し出したいと、必死に丹精込めて作ったのが少女の潜水艦、スティングレイ。

 テストも済んで、いざ実践という時に問題が起きた。しかしその問題に少女は気付けなかったのだ。


 深海に潜った少女は、驚きでいっぱいであった。数多くの魚などの水棲生物をこんなに間近で見ることなど人生に於いてなかったからである。海賊の仲間達がいつも言っていたのは『海は危ない』『海は怖い』。そんな言葉が嘘に思えるほどにその世界は美しかった。

 時を忘れ少女は永い時間その海を見て回っていた。当初の沈没船のことなど忘れるほどに夢中になっていた。


 しかし楽しい時間も永遠に続くわけではない。そろそろ帰らないと仲間が心配してしまう。そう思って惜しみながらも浮上する事を選択した……のだが、水面まで上がってきたのだがどこにも船の姿が見えない。探し回って日が沈み始めた頃、違和感に気付いた。そして事態を把握した。

 水位が大きく下がっていた。

 帰る方法を模索したが解決に至らず、魚人(うおんちゅ)を見かけたりもしたが声も掛けられず、そして今に至る。


「潜水艦っていう割には……なんていうかシンプルな造りだけど、どんな感じなの?引き上げるワイヤーみたいなものもないようだけど。」

「ワイヤー……?そんなものいらないよこの子は地面を歩くことも泳ぐことも出来るんだよ。ある程度の重さの荷物も掴んで泳げる。ハイパースペックサブマリンなんだから!」

「ボクみたいに空を飛べたら帰れたのにね!」

「簡単に言わないでよ……飛行機構を組むのがどんだけ大変か……。うん?いや、そうじゃん!キミがアタシ達を乗せて上まで運んでくれたら帰れるよ!」

「無理だよ!!そんな重いもの運べないよ!」

「スティングレイはそんなに重くないよ?」

「人間乗せて飛べるほどボクは強くないの!羽が折れちゃうよ!」

「ふーん……。口ばっかり大きくて実際は大したことないんだね。」

「う……要求が口車に乗れる程度のものじゃないからなんも言えない……。」

「あんまり薫風をいじめないでやってくれ。もうひとつ聞きたいんだがレヴィアタンって名前に聞き覚えはあるか?」


「レヴィアタン!?海洋を支配する化け物じゃないか!津波も大渦もそいつの思うがままっていう、かいぞ……船乗り達の畏怖の対象だよ。なんでそんな名前が……?」

魚人(うおんちゅ)から聞いた名前だ。この海水面の低下はそれが絡んでいるかもしれない。」

「会いに行こうっていうのか!?自殺志願者でもそんな苦しい死に方は望まないよ!?」

「会いに行くかはまだ決まってないが……どの道手段がないことには手は打てない。」

「会いに行くって決まってるよ!ボクは見てみたいよ!レビアタン!」

「そんな興味本意で見に行っていいものじゃない!!」


「……俺達はそのレヴィアタンがどんなものなのかを知らない。だからこそ、何か知っているんじゃないかと思って情報を集めているんだ。知っているのは名前と深海域に棲息してることぐらいなもんで、それが本当に影響してるかどうかまではわかってない。」

「じゃあなんで疑うのさ?触らぬ神に祟りなしっていうだろ。他の原因を探った方が現実的だと思うよ?」

「俺達がこの世界に来る前にいた世界では、レヴィアタンではないが風神と呼ばれ崇められた存在が俺達の『問題を解決する』っていう目的の一端だったんだ。」

「ボクのいた世界だよ!風神様が人里に風を送らなくなってどうしたのかなって思ったら悪魔に(そそのか)されてたって感じ!」

「だから、レヴィアタンもその悪魔とやらにってこと……?」

「そうだ。確証はどこにもないが手掛かりもない。それにこれだけの規模の災害を起こすのは、そこらの人間の力とも思えないしな……。」

「なるほど……確かに人為的なものだとは考えられないけれど。天災ぐらいに捉えてたけどそうじゃないのかな……?」

「それで俺達は深海域まで行く手段があればレヴィアタンに会ってみるのも選択肢として考えている。まだそうすると決まったわけではないが、魚人(うおんちゅ)達には潜水艦なんてものが必要ないから持ってないってことで、人里へ向かってみようかと思ったんだが、生憎上へ上がれないっていう状況になってるんだ。」

「……嘘をついてないのはわかる。異世界から来たっていうのもたぶん本当のことなんだとは思う。でも悪魔とか……神とか話が飛躍しすぎてる……。アタシにはわからない。」

「そうだよな……。」


「でも、アタシは信じたいと思う。だからこのスティングレイを使ってよ。操縦はアタシがするからさ?」

「まだレヴィアタンに会いに行くって決まったわけではないんだけどね……。」

「ルヴィナは往生際が悪いよ!乗り掛かった潜水艦だよ!」

「なんかそれ語呂悪くない?あと、『乗り掛かった船』は乗ってしまったら海上では下船できないって意味だから誤用だよ。まだ乗ってないから考えて行動すべきなんだよ。」

「うーん。じゃあ逆に聞くけどさ?考えたところでなにか別の答が出るの?打てる手が他にないのにうだうだ言ってるのは臆病風に吹かれたのかなってなるよ。」

「臆病風……か。そうかもしれない。」

「ルヴィナ?」

「ううん。なんでもない。カオルの言う通りだね。レヴィアタンに会いに行ってみようか。」


「いや、でもいいのか?このスティングレイを貸してもらうにしても、俺達に着いてきてもらうのは流石に……。」

「アタシも見てみたいんだよ。そのレヴィアタンをさ。」

「興味本意で見に行っていいものじゃないって言ったのは貴女でしょ?」

「見てみたい気持ちは本音の半分。もう半分は……スティングレイが知らないとこで壊されるのが怖いんだ。」


 そう言う少女の眼はどこか哀しげであった。彼女の本心はスティングレイそのものの事を心配しているわけではない。スティングレイには彼女の父親への思いも込められているのだ。


「それにさ。どのみちアタシしか操縦できないだろ?」

「……それもそうだな。頼めるか?」

「任せときなって。じゃあスティングレイに乗って乗って!」

「乗ってって……まずは水辺まで運ばないとといけないだろう?」

「何言ってんだよ。スティングレイは水陸両用!そこらのへっぽこと一緒にするんじゃないよ。」

「水陸両用って言ったって、このカプセルみたいなものだと転がるのが精一杯だろう?」

「そこらのへっぽこと一緒にするんじゃないよ!いいから乗りなって。」

「アルスー!ルヴィナー!はやくー!」


 知らないうちに既にスティングレイに乗り込んでいた薫風が二人を呼ぶ。アルスもルヴィナもごちゃごちゃ考えるのを止めた。薫風がいるとそれだけで色々考えることがどうでもよくなったりした。薫風もバカやっているが決して頭が悪いわけではない。それはアルスもルヴィナも理解していた。


 ニコル含め全員が乗り込んだ事を確認し、スティングレイは発進した。カプセル型のスティングレイから四本の脚が生え、ゴトゴトと動き出した。砂浜でもしっかり地面に脚を食い込ませられるように重く鋭い爪がついていて、それは深海でも同様に歩けるようになっていた。


「深海域へ行くための道はわかるのか?わからないなら、薫風に探させるが……?」

「それは大丈夫。スティングレイには探査機能もついてるからね。」

「そうなのか?すごいハイスペックなんだな。」

「まーね。深海はただでさえ魚人(うおんちゅ)が怖いってんで人間はあまり来たがらないんだ。だからこそ、何かがあるっていう冒険心がくすぐられるだろう?それを叶えるためにはやっぱり高度な機械が必要なんだよ。」


 アトランティスだったりニライカナイだったり海の向こうや海底にはロマンが詰まっているとされている。今でこそ文明の発達故、海底も上空もどうなっていて何があるのかおおよそわかっているが、事前知識のない状態では世界の果てに何があるのか、それに思いを馳せるのも当然といえば当然といえた。


「ちょっと!薫風君!あまり変なところ触らないで!精密機械なんだから!」

「まだ触ってないよ!でも触るなといわれると……ウズウズするよね!」

「薫風。余計なことをするんならお前だけ置いていくぞ。」

「えええぇ……。」

「わかったら大人しくしてろ。」

「ボクが大人しくしてたらアルスもルヴィナも喋んないじゃん!」

「黙らなくていいけど、アタシのスティングレイに余計なことをしないでってだけだよ。わかった?」

「はーい。でも外の景色見てると本当にここらへん砂しかないね。」

「海底だからね。本当はここも海だったんだ。綺麗な水で……お魚がいっぱい泳いでた。初めてスティングレイで潜ったあの瞬間。あの時は本当に今でも忘れられない……。」

「ボク、海って知ってはいるけど見たことないんだよね。」

「そうなの?薫風君の世界ってどんな感じなの?」

「えっとね!なんかヒュゴゴって感じのすごいとこ!」

「わー……すごいね……?……なんで雄弁で口が達者なのに、そんなに語彙力がないの……?」

「カオルの事だから多分わざとだと思うよ。」

「えっ……?そうなの?」

「わかればいいんだよ!なんでも!」

「わかんないからダメなんだよ。なんにも。皆違う世界の人なの?」

「いや、俺とルヴィナは同じ世界だ。薫風とニコルはそれぞれ別の世界から来てるんだが、ニコルの世界は俺達も知らない。」

「そうなんだ。……? あれ、それってなんかおかしくない?」

「……?どうしてだ?」

「ニコル君のいた世界に行ったことがないのにどうやってニコル君を仲間にしたの?」

「あぁそういうことか。それは逆だな。俺達がニコルの仲間になったんだ。」

「はい???」

「本当の事なんだが……。」


 確かに一般的な目線で見て、ニコルの仲間にアルスとルヴィナが入るというのはどう考えてもおかしかった。ましてやアルスがそれを真顔で言うものだから、なおのことおかしかったし、可笑しかった。


「ふっ……あははっ!ニコル君の仲間になったってどういうこと?ニコル君は喋れもしないだろう?」

「ニコルと、ここにはいないが仲間にもう一匹ネムレスっていう猫が居るんだが、そっちは喋れるんだ。ニコルに関しては俺だけは会話が出来るんだが……まぁ、ニコルも特別詳しいわけではなくて、ニコルも俺達もそのネムレスの仲間になったって解釈の方が正しいな。」

「……そのネムレスっていうのが猫じゃなければ、すんなり理解できたんだけどなぁ。」


 そんなくだらない身の上話をしてる間に、深海域へと至る、海溝に辿り着いた。ルヴィナはそこから何か異様な声のようなものが聞こえていた。この世界に来てから、遠く遠くの方からそれは聞こえていたのだが、ただの幻聴か或いは風の音かと気にしてもいなかったのだが、ここに来てそのどちらでもないことを確信した。


「ほら、見えてきたよ。あれが目的の海溝だよ。」

「……。」

「……ルヴィナ?どうかしたのか?」

「ここから何か聞こえない?呻き声……ううん、泣き声みたいな……?」

「……聞こえないぞ?」

「ボクにも聞こえないよ?ルヴィナ疲れてるんじゃない?」

「そう……かもね。」

「ルヴィナさん、寝たかったら、そこに布団と毛布あるから使ってもいいよ。」

「ううん、大丈夫。ありがとう。」

「そう?アタシが言えることじゃないけど、無理しないようにね。」

「お気遣いありがとう。でも本当に大丈夫だから。」

「そっか。じゃあ海に入るよ。」


 自分にしか聞こえていないなら、それを強く主張したところで意味はない。仮に他の皆に聞こえていたところでその声がどうなるわけでもない。ルヴィナはそう考えていたし、ルヴィナにとって大事なことはルヴィナにその声が聞こえる、存在している(可能性がある)ということを皆に理解してもらうことであった。言わないままでいるよりもよっぽど後々の役に立つだろう。憶測にすぎないことでも伝えていれば緊急時の対処に繋がるかもしれないのだから。


 水面でぷかぷか浮かんだスティングレイは脚をたたみ、水中へ向けて傾いたかと思うと、翼のようなものを生やしてより深くへと潜っていった。

 アルスがその翼のようなものは(ヒレ)を模したものであると気付いたのはもう少しあとの事である。

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