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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第四章 降り止まない雨はないけれど
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十五話

 深海。学問によってその定義は200メートルだったり2000メートルだったりするが、とりあえずとても深い深い光の無い世界のことである。そこに棲んでいた魚人(うおんちゅ)達は陸地に上がって何を思うのだろうか。


「どうして水がなくなったのかわからない……か。仮に日照り続きだとしても、そんな短期間で干魃(かんばつ)状態にはならないだろう?」

「そりゃ勿論。……でもそういえば雨はずっと降ってないね。うん、言われてみれば確かに水が減りだしたことに気づいた時からずっとずーっと降ってないかも……?おいらが寝てる時とかは確かじゃないけど。」

「ということは、水がなくなったことや雨が降らないことと、ボクたちの目的は関係があるかもしれないね!」

「そうだね。状況だけ見てもカオルのいた世界で神風が吹かなくなった事象と似ている気がするよね。ガディッドさん、この世界に水を司る神様とかそれに近しい存在っていたりしますか?」

「居なくはないかな……?」

「ずいぶん曖昧なんだな?」

「神様っていうのは違う気がするし別に信仰もしてないしさ。どっちかっていうと怪物だからねぇ。レヴィアタンっていうんだけどさ。」


 レヴィアタン。リヴァイアサンとも言われる凶悪な水棲生物。話によって魚、鯨、ワニ、海蛇から竜までその姿は様々で、記された書によって悪魔の名前であったりする。


「ねぇねぇ!レビアタンってなに?」

「んーそうだなぁ……。簡単に言うと水中における最強の生物かな……?」

「最強……!アルス!ボク見てみたいよ!」

「そ、そうか……。俺はそうならないことを祈るよ。でも水中ってことはそいつがいるのは、その深海域ってとこだってことだよな?」

「いるならそうだろうけど、今もいるかはおいらにも誰にもわからないよ。実物を確認したことはおいらは勿論、祖父よりもさらに前の世代からないからね。」

「深海域へ行ったり、レヴィアタンが深海域から出てきたりはしないのか?」

「ははっ 水圧が違いすぎておいらたちから行こうもんならすぐぺっちゃんこだよ。伝承に残ってるんだからレヴィアタンは多分来たことあるんだろうけどね。」

「水圧が違う……。いや、でも魚人(うおんちゅ)であるガディッドさんは今地上にいるのに膨らんでないですよね?」

「んーまぁそうなんだけどさ。それはそれ、じゃないかなぁ?おいら達はそうなってないんだから、そうじゃないんだろう。根拠に結果がついてくる訳じゃないんだしさ。結果に根拠を後付けしていくもんだろう?」

「それもそうですね……。」


 そうなった理由がどうであれ、そうならなかった理由がどうであれ。そうなった結果があって、そこに考察や研究を繰り返して、そうしてできた根拠を後付けしていくものである。


「アルスー?これからどうするー?……って決まってるよね!そのレビアタンってやつを見に行くんだよね!」

「薫風……自分の都合のいいように進めるな。」

「でも他に当てもないよ?」

「レヴィアタンを見に行く当てもないだろ。潜水艦でもなけりゃとても無理だぞ。」

「この町のどこかに潜水艦ってないかな?」

「おいら達には無用なものだからこの町にはないなぁ。もしあるとしたら人間のいるところだろうけど、知っての通りおいらは君達以外の人間を見たことがないから、つまりは久しく人間もこっちに来てないか、或いは来ようとしてないから、そっちにもあるかどうか……。」

「……そうか、色々答えてくれてありがとう。」

「いやいや、おいらこそ。人間って案外怖くないんだなってわかっていい経験になったよ。他の魚人(うおんちゅ)達もいつかわかってくれるといいなぁ。」

「……この世界の他の人達がどうかまでは私達には保証はできないですよ。」

「ははは……そっか……そうかぁ……。」

「私達は確かに人間だけど『人間』って一言で言っても聖人も殺人鬼もいるので、どちらがその世界に於いて主となる存在であるかがわからない以上は、人間が怖くないって言いきれないですよ。」

「そうかぁ。それなら人間のところへ向かうの、気を付けていくんだよ。人間の君達も襲われてもそれが普通かもしれない。」

「……そうだね。ありがとう。」


 

 日本は治安が良いためそのようなことはあまりないが、一部の外国だと置き引きというものが横行しているらしい。それはそれぞれの国の社会性延()いては人間性の違いであり、(ひとえ)に善悪や正否の問題ではない。

 アルス達一行が今、ぶつかっている問題はそういうものである。


 ガディッドと離れて薫風に人里へと向かう足掛かりを探させてはみたものの、どうにもままならなかった。ガディッドの言うことが正しければ、恐らくここからかなり上の方にある事だけは確かで、薫風のいた世界と異なり上下の交流もないものだから通路もない、袋小路に陥っていた。

 しかし。


「あのさ、気のせいかもしれないんだけど遠くに何かあるような気がするだ。見に行ってきてもいいかな?確認だけしたら報告に戻ってくるからさ。」

「カオル一人で?それは危ないと思うから着いていくよ。」

「ううん、大丈夫。本当に気のせいだったら無駄足だし、それにここの砂。二人とも歩くのしんどいでしょ?」

「それはそうだけど……。」


 辺り一面の砂は、岩肌や塗装されたコンクリートとも柔らかい土とも違う、とてもとても歩くにくい地形であった。一歩一歩進むだけで足が砂に飲まれるので、足取りが重くなるのも自明の理であると言えた。

 それでも心配そうにするルヴィナを見て、薫風が続けた。


「それなら、ネコ助を貸してよ。ネコ助ぐらいなら乗せて飛べるし、戦いにはならないようにするけど急に襲われても応戦できるでしょ?」

「貸すとか借りるとか、俺の所有物って訳でもないからその辺りはニコルの判断次第だが……。」

「みゃぁー。」

「異論はなさそうだ。」

「……。」

 

 薫風の言うようにニコルを連れていくことは何も間違っていない。理にかなっているとわかっている。

 それでもニコルを連れていかれてしまうと、アルスと二人で残されることになる。ルヴィナにとってそれがとても苦痛であった。しかしそんな我が儘も吐き出せずに飲み込んでしまうのがルヴィナという人物であり、その事を感付く者も居はしなかった。


 薫風が飛び去ってからどれぐらいが経っただろうか。ルヴィナとアルスの無言の時間が続いた。アルスとて何も気にしていないわけではない。ルヴィナほど思い詰めてもないがいざ二人きりとなると、ルヴィナの機嫌はニコルとの三人旅の時よりも悪くなっているように見えた。

 以前から必要な報告は互いにするが、駄弁というものはほとんどなかった。薫風が加入して、お喋りな薫風が場の空気を和ませてくれていたから、二人は重たい空気を味合わずに済んでいた。ルヴィナもアルスも決してこんな重い空気を望んではいなかった。


 人間は退屈な時、何かしらを思考する傾向にある。また、『こういう時にこういうことを考える』というものが癖になって離れなくなったりもする。好きな人の事をいつも考えてしまう、逆に別れた相手の事が忘れられない、というのはそういった癖がついていることがままある。

 そういう時、ルヴィナはサフィーナのことをつい考えてしまっていた。それはアルスがサフィーナを殺めてしまう前より、騎士として粉骨砕身していた時よりも前。ルヴィナがガイアと暮らすようになった頃から、ずっとそうだった。ずっとそこにいない間も身を案じ、心配していた。

 その考え癖が今となっては……。


 ルヴィナはそんなことを考えるよりも魔技の一つでも考えた方が有意義であると思い直すことにした。サフィーナのことを忘れるつもりはないし、悼む気持ちはあれどそれは全てが片付いてからでいいと思うことにした。

 この旅のことも、アルスの処遇も含めて、全てが片付いてから……。


魔技を考えてはじめてからそれほどしないほどに、強めの風が吹いてきた。アルスとルヴィナの元へその風に乗って薫風の声が聞こえてきた。


「はろーはろー。アルスー……ルヴィナー。聞こえるー?聞こえたら返事して?」

「聞こえるぞ。」

「風で一方的に声を送ってるから返事されてもこっちには聞こえないんだけどね!!」

「……。」


 返事を返しても薫風に聞こえないことを理解した上で返答を求めたことが、薫風の声色から感じ取れる。アルスは呆れたが、それでも二人には薫風のその和やかさがありがたかった。


「探索に来てみたらなにかね、カプセル?みたいな小型のドームみたいなものが転がってたよ。確認したら戻ろうと思ってたけど、ちょっと二人にも見に来てほしいな!答は聞こえないから見に来てね!」

「……勝手だな。」

「……そうね。でも、こっちからの伝達手段がない以上は仕方ないよ。行くならさっさと向かいましょ。」

「あぁ……そうだな。」


 定期的に送られてくる薫風の声。その声がする風上へと二人は歩いていった。薫風の言う通り歩くのが大変で、これが本当に無駄足だったらと思うと、薫風だけ先に向かわせて正解であったと感じずにはいられなかった。


「二人とも遅いじゃないか!返事もないから見捨てられたのかと思ったよ!」

「薫風を見捨てることはあってもニコルを見捨てることはしないから大丈夫だ。」

「酷くない!?もうボクずっとネコ助と行動しようかな!」

「冗談だ、冗談。」

「アルスでも冗談とか言うんだね。なんかいつも固い表情してて、怖い感じなのかと思ってたよ!」

「そうだな……薫風のお陰かもしれないな。」

「……? よくわかんないけど、もっと褒めてくれていいんだよ!」

「それはそれとして、薫風が言ってたカプセルってやつはどこなんだ?」

「そこはもっと褒めるとこじゃないの!?……こっちだよ。」


 薫風の案内に従って、少し歩くとニコルが待っていた。薫風の言うカプセルというものは、想像していたよりもとても大きく5、6人乗り込んでも問題ないほどの大きさであった。

 この世界にはないが宇宙カプセルというものと同じようなものであった。


「これは……なんだ?」

「誰かが住んでいた形跡がある……それも割と最近、ううん現在形で……?」


「お前達!アタシの家で何してる!」


 背後から飛び込んできた怒声にびっくりする薫風と、驚きよりも先に警戒し臨戦態勢に入るニコル。その二匹の中間の感情の二人。だがアルスもルヴィナもそこまで警戒はしていなかった。やられるなら不意討ちで既にやられているのだから。

 アルス達が振り向くとそこいたのは人間であった。まだ15かそこらの女性で、その年齢の割にはすれた眼をしていた。


「すまない、家だとは思わなかったんだ。」

「なんで人間がこんなところにいるんだ?」

「私達はこの世界の人間ではなくて、異世界から来たんだけど、着いたら魚人(うおんちゅ)さん達の町の近くだったんだよ。」

「……!? 魚人(うおんちゅ)に逢ったのか!?」

「うん。町を見て回ってからどうしようか考えてる時に、一人の魚人(うおんちゅ)さんに声をかけられて。」

「襲われなかった……?」

「……? 襲われる?」

「昔一緒につるんでた仲間が言ってた。海底に住む魚人(うおんちゅ)達は獰猛で血の匂いを辿って人を襲って食らうんだと。」

「俺達が出逢った魚人(うおんちゅ)はそんなに危険な生き物ではないと思った。個人差があるのかもしれないから安全だとは言い切れないが、その魚人(うおんちゅ)が言うには寧ろ人間が魚肉を食うから恐ろしいと思ってるらしい。」

「……。まぁお前達の言う異世界からっていうのもとりあえず、とりあえずだけど信じておくよ。そこの変な鳥に免じてね。」

「変な鳥!? ボクのこと!? それは聞き捨てならないよ!」

「うわっ!? 喋った! 喋る芸を仕込んでるなんて本当は大道芸人とかじゃないの?」

「ひどいや……アルスもなんか言ってやってよ!」

「諦めろ、薫風。俺も最初そう思った。」

「ええぇ……ボク達仲間じゃないの?」


「面白い鳥だね!金貨十枚出すから一匹売ってくれない?」

「いや、すまない。俺達も一匹しか持ってなくてな。」

「商売上手だね……なら十二枚でどうだ!」

「待って待って!なんで競り合ってるの!?」

「冗談だ、薫風。」

「アタシは本気なんだけどなぁ。」


「そういえば、異世界から来たって言うけどここで何してたんだ?こんなところに来てもなにもないだろ。」

「そうだね、何もないからここに来たって感じかな。」

「どういうこと?」

魚人(うおんちゅ)さんの話を聞いて、水がなくなったこと、人里がずっとずっと高いところにあることは判ったんだけどそれ以外の手がかりもないから何かないかと思って探してたんだよ。」

「そもそも何をしに異世界を回ってるの?」

「何て言ったらいいんだろうな……異変解決?」

「世界の先々で起こってる問題を解決してるんだよ。そこに住んでる人達のためにね。」

「なるほど……慈善事業か。アタシとは正反対だな。でもそれなら、ここに来ても仕方なかったかもしれない。」

「どうして?」

「だって人里に上がる手掛かりを探してるのはアタシも同じだし。アタシも上に上がれなくて困ってるんだ。」

「……。上がる手立てもなく降りてきたのか?」

「いや、違う!そんなにバカじゃない!前まで水で満ちてたって聞いてただろ!この潜水艦でお宝探ししてたら水が減って帰れなくなっちゃったんだよ……。」

「お宝が探しやすくなったね!」

「うるさいよ!」


「潜水艦と言ってたけどこのカプセルがそうなの?」

「そう!この、『突き刺す光線』スティングレイ!アタシの愛する潜水艦!」

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