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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第四章 降り止まない雨はないけれど
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十四話

 狭間の領域を抜けて、四人は新しい世界に来た。風に感じる匂いはどこか懐かしさすら感じられた。


「うわぁ……辺り一面砂だらけだよ!これって砂漠ってやつだよね!」

「砂漠……ではないな。確かに砂しか見えないが……風に湿気を感じ取れる。近くに水場でもあるんじゃないか?」

「カオル。ちょっと飛んで近くに何かあるか見てきてくれない?」

「それなら飛ぶまでもないよ!このボクにかかればね!」

「……?」

「『風向の循環(ウィンドミル)』!」


 柔らかい風が吹いた。薫風以外の三人にはそれが何を意味しているのか何一つわかりはしなかった。


「それはなに?」

「風を送って風の反射とか風が通らなかったところとかを確認して、どこに何があるかを探す技だよ!」

「なにかわかったのか?」

「うーんとね。こっちにそこそこ歩いたら町があると思うよ!ただ……。」

「ただ、なんだ?なにか問題があるのか?」

「うーん。人の形が変なような?ボクの魔技の練度が足りないのかな?」

「人の形?シルエットってこと?」

「そう!」

「まぁそういうこともあるだろ。異世界だからな。俺からすりゃ薫風みたいなフェザードっていうのも違和感が強いんだ。」

「ボクは化け物じゃないよ!」

「大丈夫、わかってるって。だからこの先の町に人じゃないなにかがいても敵性存在とは限らないだろって話さ。」

「カオル達は敵対してきたから安全とも言いきれないけどね……。」

「まぁ……確かにな。」


「他に何かわかったことはある?」

「他には……よくわかんない。」

「そっか……。私、この世界に来てから何か不思議な……声?が聞こえるんだよね。」

「声……?俺にはなにも聞こえないが……。薫風はわかるか?」

「うーん……。わかんない!」

「わかんない、か……。声……じゃないのかな。波紋……?」

「発信源はわかるか?」

「わからないけどここよりずっと下……かな?」

「下?地底ってことか?」

「そうかも……?」


「とりあえずさ!町にいってみようよ!その声についてもなにかわかるかもしれないよ!」

「そうだな。ただ十分に警戒はしていこう。」


 町へと向かう道すがら。ルヴィナと薫風は他愛ない話をしていた。その様子を見てアルスは『ルヴィナも普通の一人の女性』であることを思い知った。

 今までルヴィナはアルスと言葉を交わすことを嫌ってきた。故にアルスは『ルヴィナは大人しく口数の少ない冷静な、そしてサフィーナのことを除けば非情で笑ったりすることなどほとんどない』と思い込んでいた。


「ねぇ、カオル。カオルの魔技の名前って鳥の名前が入ってるんだと思ってたんだけど違うの?」

「あってるよ?全部そうなってるでしょ?」

「さっき使ってた魔技は『ウィンドミル』って言ってたでしょ?」

「そうだね?」

「ウィンドミルって風車とかかざぐるまとかじゃなかった?」

「何言ってるんだよ!(ウィンド)見る(ミル)からウィンドミル!風見鶏(かざみどり)だよ!」

「風見鶏は鳥じゃなくない……?」

(とり)っていってるんだから鳥なんだよ!」

「……そうね。そうかもしれない。」


 美しい町に着いて、ニコル含む四人はこの町の人々から向けられる異様な視線を感じざるを得なかった。珍しいものを見るようなサーカスを見るような奇特なものを見るような、好奇心から来る視線。それに混ざる、排他的で彼らの来訪を望まない敵対心と警戒心。

 相手からすればアルス達も同じ目をしていたのだろう。相手の外観は魚人や人魚とも言えるそれであった。


「アルス……なんか……ここ、怖いね。」

「まぁ……そうだな。ただそれは俺達を恐れているからだろう。仕方ない。」

「そんなもんなのかなー?」

「それはどうでもいいんだけど、話ができる人はいないのかな……?こんなに警戒されてたんじゃ情報収集もままならないよ。」

「ボクが聞いてこようか?」

「……やめとけ。薫風だって彼らと似た立場って訳でもないんだ。食われるかもしれんぞ。」

「鳥類が魚類に負けるわけないじゃないか!アルスは食物連鎖のヒエラルキーってやつを知らないの?魚が『れいとうビーム』でも撃ってくるなら話は別だけどね!」

「『れいとうビーム』が何かわからんが、自分達の常識で物事を計ると痛い目を見るぞ。」

「むぅ……でも人って言える人は見当たらないし、ここでまごついてても何にもならないよ?今まで人間がいなかった時どうしてたの?」

「人間がいなかったのはメディスのいたところぐらいだけど、あそこも世界として人間がいなかったわけではなくて、出逢わなかっただけだから、私達も初めてのケースなんだよ。」

「それならこの世界だって逢ってないだけも知れないよ?あとあと、出逢わなかったのにどうやって解決したのか気になるよ!」

「俺達は目の前のことを解決してきただけなんだ。行き当たりばったりと言ってもいい。」


 行き当たりばったり。その場の流れで旅をしてきた三人と新たに加わった一人とではこういう状況への対応する経験は不足していた。

 そういう面で、受動的な三人とは異なり能動的に行動できる薫風の存在は三人としてもありがたかった。


「じゃあさ!とりあえずこの町を見て回ろうよ!人やフェザードがいるかもしれないし、そうでなくても誰かから話を聞けるかもしれないしさ。」

「怖かったんじゃないのか?」

「それはそれ!いつまでもビビってても事態は解決しないよ!」

「強いな……薫風は。」

「任せてよ☆」


 一行(いっこう)が町を見て回りわかったことは、人間が(少なくとも)この町には存在しないこと。そして文字が読めないことだった。(文字に関してはその機会がなかっただけで、実を言うと全ての世界で異なっていた。)


「見て回ってみたはいいが……手がかりなしだな……。」

「ここに住んでるお魚さん達はなんなのかな?」

「なにって言われてもな……マーマンだとかマーメイドだとかそんなやつだろ。」

「不思議な生き物だよねー。陸上に生息してるのにエラもあるし。多分両生類だよ!」

「さっきまで魚類って言ってたのに……。ただ、そこかしこから聞こえてくる声は私達の言葉と同じみたいだから、対話はできそうね。」


「君達、ちょっといいかい?」

「貴方は?」


 話しかけてきたのは一人の男の魚人だった。なんの魚かは不明だが青年ぐらいであろうことは見受けられる。


「あぁ、急に話しかけてごめんね。おいらは魚人(うおんちゅ)のガディッド。君達二人は人間だろう?」

「そうだ。俺は人間のアルス。」


 アルスには人間の、という自己紹介に違和感が拭えないが相手が種族名を名乗るのならこちらもそうするのが礼儀であろうという判断であった。


「ははっ。人間が自身が人間であるって言うのも珍しいね。人間ってやつは見ればわかると言わんばかりに、名乗っても名前だけ名乗るもんなのにさ。まぁ、見りゃわかるんだけど。」

魚人(うおんちゅ)?も見たらわかるから私達にも種族名を名乗らなくてもいいんじゃないの?」

「ルヴィナはわかってないなぁ!種族名っていうのは誇りなんだよ!」

「おお!よくわかってるじゃないかそこの鳥人(とりんちゅ)!」

「とりんちゅってなんだよ!ボクの種族はフェザード!!」

「そうかそうか。すまんかった。えーっと……羽人(ふぇざんちゅ)。」

「ちがーう!!」


 なお、沖縄の方言であるうちなーぐちにおける、○人(~んちゅ)というのは○に住んでいる人という意味であって魚の人をうおんちゅとはしない。


「それでガディッドさんはどういったの御用で話しかけてきたんですか?」

「そうそう。おいらも同じことを思ってたんだ。君達は何をしにこの町に来たのかなーとね。」

「なにをしにって訳じゃないんだ。信じてはもらえないかもしれないが、俺達は異世界からこの世界に来て、この世界で起こる問題を解決する為に情報を集めようとここに来たんだ。」

「異世界か……。にわかには信じがたいのは事実としても、嘘をつくならもっとましな嘘があると思うしなぁ……。」

「ましな嘘、か。」

「嘘でも本当でもどっちでもいいや。細かいことを気にしないのがおいら達魚人(うおんちゅ)の美徳だからね。」

「……細かいことなの?」

「別に誰かに頼まれて探りをいれに来た、とかではないからね。ただのおいらの好奇心。尤も……異世界が事実なら、おいらの好奇心はさらに数倍にも跳ね上がりはするんだけど、それはおいらにしか関係ないことだろ?」

「まぁ……それはそうかもしれないが……。」

「人間は細かいことを気にしすぎなのさ。」


「そういえば人間を知ってるってことはこの世界にも人間がいるんだな?」

「そうなんだけどねぇ。おいらは見たことがないんだ。」

「見たことがないってどういうこと?」

「そのまんまの意味さ。おいら達、魚人(うおんちゅ)は人間に会いに行くことを禁止されてるからね。というか、禁止されてなくても会いに行く度胸はないかなぁ。」

「人間が怖いのか……?」

「怖いよ……。だって人間は魚肉を食べるんだろう?」

「……そうだな。」


 ガディッドの抱える恐怖心とは、あまり馴染みのない獰猛な肉食獣を恐れる日本人のそれと同じものである。理由もなく、或いは好奇心で食べられに行く人はいないだろう。


「でもそれなら尚更、どうして話しかけてきたんですか?話しかけたが最期、捕って食べられるかもしれないじゃないですか。好奇心って言葉で片付けるにはあまりにも安易な行動だと思います。」

「そうだねぇ、確かに昔から『キュリオシティ・キルド・ザ・キャット』って言うぐらいだからねぇ。猫でもたとえ死ぬことになったとしても好奇心には逆らえないのさ。」

「『キュリオシティ・キルド・ザ・キャット』ってそういう意味の言葉ではなくて、あまり好奇心旺盛だと身を滅ぼすから自戒しろという意味が強いと思うが……。」

「細かいことは気にしない気にしない!」


「それにね。君達が町を見回ってるときに喋ってたから言葉は通じることはわかった。情ってものがどの程度あるかはわからないけど、理性はありそうだし命乞いぐらいは出来るだろうっていう完璧な計算もあったからね。」

「完璧……ねぇ。完璧すぎてそれのどこが完璧なのか俺達には理解できないな。」

「命乞いの成功率は命乞いをする対象が大人数であるほど高くなる。そのグループが問答無用で襲いかかるというルールがない限りはそうであり、もしそのつもりならこの町に来たときに殺戮ショーが始まってるだろうしさ。」

「ガディッドさんみたいに探りに来た相手だけを狩るつもり……かもしれないけど?」

「え……あはは……はは……そんなこと、ないよね?ね??おいらお腹がいたくなってきたなぁ……変なもの食べたからだなぁ。こんなおいらを食べたらきっと人間でもお腹壊すなぁ……。」

「……さすが完璧な計算だな。」

「冗談だよね……?そうだと言ってくれるよね?」

「言ってあげるだけなら言ってあげてもいいよ。言うだけならね。」

「……ははは……人間のジョークは面白いなぁ……はは……。」


「ルヴィナ……。あんまり虐めると可哀想だよ!」

「虐めてるつもりはないけど……そうね。」

「ねぇねぇ!ガディッドさん!人間は何処に住んでるの?ボク達会いに行きたいんだ。」

「うーん……あんまり詳しくないんだ。人間は……恐ろしいから……。」

「もう!ルヴィナのせいですごく怯えちゃってるじゃないか!」

「そうね、ごめんなさい、ガディッドさん。」

「いやおいらは大丈夫。でもおいらは人間が住んでるところまでは知らないんだ。結構遠くのはずだけど、歩いていけるのかもわからない。」

「わかる人はいないかな?ボク達じゃ、うおんちゅ?さん達に話しかけていくの難しいと思うんだ。」

「うーん……。ここは元々人間が絡んでなくても厭世(えんせい)の気持ちが強い集落だから人間のことなんか、知らない知りたくない、知っていても話もしたくないって思ってるのが『普通』で、おいらは『異端者』なんだ。」

「厭世……ここで何かあったのか?」

「ううん。他所で問題があって、皆ここに逃げてきたんだ。ここは元来深海にあった町なんだよ。」

「深海……?」

「そう。深海都市コーラルーラル。今はまぁ……ご覧の有り様だけど。」

「ってことは、人間が住んでるのって……。」

「うん。元々地上があった高さ……だね。基本は泳いでいくものだったから……歩いていけなくはないと思うけど……って感じだなぁ。」

「ねぇ!この町は海にあったってことだよね!?なんで今は地上にあるの?」

「今は地上にあるって訳じゃないんだ。数ヵ月前ぐらい?数年前ぐらい?に、ここから水がなくなってしまったんだ……。」

「水がなくなったってどういうことだ?」

「わからない……。でも今残された海は『深海域』だけになってしまった。」

「深海域?」

「海溝の更に奥深くにある深海エリアだよ。」


 『超深層』と言われる部分よりも更に深いところ。海にある地殻の裂け目を海溝というが本来それは何処にも繋がらない。しかしここでは『深海域』へと繋がっているというのだ。

 地球では地殻の下は上層マントル下層マントルがあり、その先に外核、内核があるのだがそのマントルの代わりにこの世界では水で満たされているらしい。

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