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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第三章 風は嘯き 人を弄ぶ
14/63

十三話

 消耗の激しかった三人は深い深い眠りについた。ルヴィナが目を覚ました頃にはお昼時を過ぎていた。


「おはよう、ルヴィナさん。よく眠れたかい?」

「おはようございます。……もうお昼ですね。すみません。」

「いやいや、謝ることなんて何もないよ。今日は外で風神祭(ふうじんさい)をやってるんだ。ルヴィナさんも行ってみたらいいよ。出店もあるから、何か食べてくるといいよ。」

「そうですね、ありがとうございます。ネコちゃんはどこに居ますか?」

「ニコルちゃんなら少し前に出ていったよ。アルスさんのところに向かったんじゃと思うよ。」

「わかりました、ありがとうございます。それでは行ってきます。」


 家を出て、一番最初に感じたのは強くてそれでいて優しい不思議で柔らかい風が吹いていたことであった。それは直前まで敵意の強い風と相対していたルヴィナには違いがよくわかった。

 集落の中心には大きなお(やしろ)のようなお神輿(みこし)が置いてあった。ルヴィナが辺りを見渡しているとそれを見つけた緑色のフェザードが声をかけてきた。


「あっ!起きてきた!こんにちは!」

「こんにちは、薫風君。私を待ってたみたいだけどどうかしたの?」

「うん。風神様が『昨日の人達を呼んでください。』って言ってたから呼びに来たんだけど、ネコ助じゃ会話出来ないから起きてくるの待ってたんだよ。」

「そっか。遅くなってごめんね?でもそれならツルさんに伝言頼んでおけばよかったんじゃないの?」

「あっ……。」

「……。」

「……直接伝えることに意味があったんだよ、たぶん!」

「そう。なら仕方ないね。でももう一人がいつ起きてくるかわかんないよ?」

「うーん。どうしようかなぁ。今日中に来てくれるなら、多分そんなに急がないから別にいいんだけどさぁ。」

「うーん……仮に今から行っても今日中は厳しいかな……。ここから上に行くまでに大分時間かかっちゃうからね。」

「うん。だからね、そこのお神輿の中に『霊珠』が入ってるからそれを使ったらいいよ!」

「……。いやいや、お祭りから形代(かたしろ)がなくなったらダメでしょ……。」

「そうなの!?人間の考えることは難しいなぁ……。ちょっと嵐隊長に聞いてみるよ。『鼻唄の風音(ハミングウィンド)』!」


「それはどういう魔技なの?」

「風に乗せて言葉を運ぶ事が出来るんだよ!一方通行だけどね。」

「一方通行……?」

「言葉を送れるけど帰ってこないってこと!」

「……不便じゃない?」

「そんなことないよ!皆これと似たようなものが使えるからね!超初級魔技なのさ!」

「……皆ってフェザード皆ってことよね?」

「そうだよ?ボク達が魔技の中で最初に使えるように習得させられる必修科目なんだよ!」

「私にも使えるようになる?」

「風の魔力を持ってれば誰でも使えるようになるよ!教えてあげようか?」

「いや、ごめん。私は風の魔力を持ってないわ。」

「むー……。そういえば、人間は色んな魔力持ってていいよね!お兄さんとお姉さんで全然違うみたいだしさ?」

「フェザードは風しかいないの?」

「ネコ助が雷だけなのと同じことだよ?」

「……?ネコは皆、雷だけなの?」

「えぇーっとそうじゃなくってさ。ネコ助は雷の魔力体だから雷しか使えないし、ボク達フェザードは風の魔力体だから風しか使えないみたいな?」

「ネコちゃんや薫風君は魔生物なの?」

「うーん。そうじゃなくってさ。魔生物だったら魔技を呼ぶ(コール)しないよ。そう言うんじゃなくて組成の話……。」

「組成……?」

「ボクも詳しくないからこの話はもうやめ!嵐隊長から返事も返ってきたしね!」


 人間を構成するのが元素。ニコルや薫風はそれに加えて魔力を組成に含んでいる。


「なんて返ってきたの?」

「嵐隊長達が迎えに来てくれるってさ!運送用のバスケットがあるからそれを使ってって。」

「今来てもらってもまだ一人起きてないよ?」

「あー……うん。伝えておくよ!」

「お姉さんはお腹すいてる?」

「うん?そうね。昨日の戦いからなにも食べてないからそれなりには空いてるかな。ツルさんがお祭りの出店で食べたらって言ってたからそうしようかなって思ってたところ。」

「だったらね!ボクのおすすめがあるんだよ!」

「それはなに?」

「食べてみてからのお楽しみ!」

「そ……そう……。それで、そのおすすめはどこにあるの?」

「あっちだよ!」


 薫風に連れられて向かった先にあったのはチョコバナナの店であった。


「ボクのおすすめはこの!チョコバナナだよ!」

「……お腹すいてるからなにか違うもの探してくるね。」

「えぇ!?お姉さんもチョコバナナのチョコをゆっくり舐めてからバナナを食べたらお腹いっぱいになるよ!」

「そうやって食べるものじゃないと思うよ……。」

「違わないよ!食べ物はゆっくりしっかり食べろって教わったもん!」

「薫風君のそれはオムライスをケチャップだけ食べてから、卵だけ食べて、最後にチキンとライスを分けて食べるって言ってるようなものだよ?」

「そのツッコミはよくわかんないよ!」

「とりあえず、少なくとも私はそんな食べ方しないから、他のを探してくるよ。」


 そう言って立ち去るルヴィナの後ろを着いてくる薫風。別になにか特別な理由があるわけでもなく、薫風はただそうしたいからそうする。それが薫風の在り方である。


「あっ見て見て!ネコ助が寝てるよ!」

「おう、薫風じゃねぇか。この猫はお前んとこの猫か?」

「こんにちは!違うよ、ネコ助はこのお姉さんの子供だよ。」

「私の子供ではないよ……。」

「おや、あんた見ない顔だな?どこの人だい?」

「はじめまして、ツルさんのところでお世話になってます。ルヴィナです。」

「はじめまして、ルヴィナさん。しかし……婆さんのとこの子は……。」

「ねぇねぇ!ところで何を焼いてるの?美味しそうだね!」

「ん?あぁ、小麦粉とキャベツと卵とを混ぜたものを少し焼いた上に豚肉を乗せてひっくり返した何かだな。」

「このソースもなにか違うね?」

「よくわかってるなぁ薫風。普通のソースよりも粘り気があって甘いソースなんだ。一口食べてみるか?」

「ありがと!いただきます!」


「あふい!」

「熱いから気を付けろよー。」

「……言うのが遅いよ!わざとでしょ!」

「ははは……ルヴィナさんも一つどうだい?」

「……。」

「そう警戒するなって。ちゃんと皿に乗せてやるからさ。」

「すっごく熱かったけど美味しいよ!すっごく熱かったけど!!」

「おいおい薫風。間違ってるぞ。熱かったけどすっごく美味しかった、だろ?」

「すっごく熱かったよ!」


 ルヴィナはそれを受け取って少し離れたベンチへと持っていった。



「薫風君は皆と仲良しなのね?」

「そうだよ!仲良しは三文の徳って言うからね!」

「初めて聞いたけどフェザードにはそんな言葉があるんだね。」

「ないよ!ボケだよ!」

「あぁ……そう……。」

「ルヴィナ?何してるんだ?」


 見上げるとそこにはアルスが立っていた。どうやら今起きてきたらしい。


「何って……見ての通りごはん食べてるんだよ。」

「いや、そうじゃなくて。フェザードと一緒に居るのが違和感あるなって思ったんだ。」

「フェザードじゃないよ!ボクは薫風だよ!」

「あぁすまん。薫風。」

「仕方ないから許したげるよ☆」

「……あ、あぁ。ありがとな。」


「あんたも何か食べるもの探してきたら?」

「ルヴィナが今食べてるものは何だ?」

「なんだっけ……。あそこで売ってたやつ。」

「すっごくホットなやつだよ!」

「それ(から)いのか……?」

「違うよ!流行の最先端ってことだよ!」

「あれ?熱いってことじゃなかったんだ?」

「それでもあるよ!」

「そうか。じゃあ俺もそれを買ってくるよ。」

「チョコバナナもおすすめだよ!」

「それはまた今度にするよ。ありがとな。」


「むぅ……なんで二人ともチョコバナナ食べてくれないんだ!」

「なんで食べてほしいの?」

「……少しわけて貰うため。」

「なんか思ったより策士だったわ。」

「ボクには死活問題なんだよ!食べ過ぎて『もう薫風はチョコバナナ買ったらダメだ』って言われて、お店の人にも話が通してあるから買えないんだもん。」

「……それは諦めた方がいいんじゃないかな……。同じものを食べ過ぎるのは良くないよ。」

「美味しいものが体に悪いはずないよ!体が求めてるんだから!」

「ぶっ飛んだ理論ね……。」

「でもボクは良い子だから言い付けを守って買ってないんだよ。ご褒美があってもいいと思うんだけどな!……思うんだけどな!」

「……そういえば隊長さんにあいつが起きてきたこと伝えなくていいの?」

「スルーされた……!」


 ルヴィナは薫風と接していて薫風が『誰か』に似ている所を感じざるを得なかった。それが懐かしくもあり楽しくもあり、少し寂しくもあった。


「ちゃんと伝えたよ!ごはん食べてるからもう少しゆっくりしたら来てって言ったよ。」

「そっか。ありがとう。」

「そしたら返事にお姉さん達にチョコバナナをせがむような浅ましきことはしないようにって言われちゃった……。」

「隊長さんにはお見通しってことね。」

「そう!嵐隊長はすごいんだよ!」

「何の話だ?」


 アルスが色んな物を買って戻ってきた。その中にはチョコバナナもあった。


「チョコバナナはボクにくれるんだろうなって話!」

「あげない方がいいよ。」

「ひどいよ!いいじゃんひとつぐらい!」

「ルヴィナはどうしてそう思うんだ?」

「チョコバナナの食べ過ぎで止められてるんだってさ。」

「なるほど。」


 それを聞いたアルスはチョコバナナをあっさりと平らげてしまった。


「あああぁぁぁ……ボクの……ボクのぉ……。」

「なんか見ててすごく可哀想になってきたね……。」

「いじわる!おに!あくま!」

「ほら、代わりにこれをやるから機嫌直せよ。」

「これは……!へへへ……ありがとうお兄さん。」


 あげたものは干し肉であった。フェザードの好物とのことでこれは元から薫風にあげるために買ってきたものであった。


「それで、元々何の話をしてたんだ?」

「隊長さんはすごいよねって話。」

「ほうだよ。あらひ隊長ふぁ、ふよくてふぁっこひいんだ。」

「口の中のものを飲み込んでから話そうな。」

「まぁ実際、片腕しかないのにかなり強かったよね。私達と戦ってたら私達は負けてたんじゃない?」

「魔技も槍術も俺達より上、飛行能力もあって頭もキレる。負けたかはわからんが負ける可能性も十二分にあったとは思うな。」

「ねぇ薫風君。隊長さんはなんで片腕しかないの……?あれだけ強いのに不覚を取るような相手がいたの?」

「え!?……し……知らないなぁ……。生まれつきかもしれないよ?」

「目が泳いでるぞ。」

「うぅ……。」

「話したくないことなんでしょ。興味本位で無理矢理聞くことじゃないよ。」

「そうだな。すまんな、薫風。」

「大丈夫だよ……。」


「あっ……嵐隊長がそろそろ迎えに来てくれるってさ。」

「迎えに?何の話だ?」

「あぁそういえば説明してなかったっけ。風神様が私達に用があるから来てほしいって言ってて、今から登ったら遅くなるよって言ったら隊長さんが連れていってくれることになったんだよ。」

「そうなのか。」


 しばらくして人が入れるほどの大きなバスケットをぶら下げた嵐を含む数匹のフェザード達がアルス達の前に降りてきた。バスケットというのは洋風の(かご)のことではなく、気球の下についているそれである。


「おはようございます。アルス殿、ルヴィナ殿。」

「風神様に呼ばれたと聞いたが何の用なんだ?」

「すみませんが、それは私も知らないのです。」

「そうか。いや、別にどんな用向きであれ風神様の元へ向かうから関係ないといえば関係ないんだ。」

「それを聞いて安心した。それでは上まで運ぶので、これにお乗ってください。薫風、お前も着いてこい。」

「えぇー……もっとお祭り見てたいよー。」

「隊長命令だ。」

「職権濫用であることを主張します!」

「そうか。風神様の意向だったがそれなら仕方ないな。風神様に伝えておこう。薫風は風神様よりも祭の方が大事であるとな。」

「わー!ウソです、冗談です!楽しみだなぁ!」

「……。」


 アルス達はバスケットに乗せられて一番上の所まで運ばれた。先日はぐるっと大回りした為に大変な時間がかかったのだが、フェザード達による運送は直線的であることもあり、ほんの数十分で終了した。


「ここまで来たけど……そう言えば前ここに来たときは霊珠の力を使って風神様の住処(ところ)まで行ったんだけど、今は霊珠は祀られてるよね?どうするの?」

「私達の力で物理的に風神様の住処(ところ)へ向かうことは問題なく可能なんだが、人を連れてとなると骨が折れる。だからその為に、風神様からこれを預かっている。」

「これは『霊珠ーアトモ』じゃないの?」

「正確には違う。全く同じ役割、効力を持つ二つだが、これは祀られていた『アトモ』と同一ではないからな。」

「……?」

「『霊珠ーアトモ』は風神様が御自(おんみずか)らの魔力を込めて作ったオーブ。だから、それと同じものを作ること自体は風神様であれば可能だけれど、アトモそのものではない。」

「そうなんだな。でもそれだと……。」


 それだとアトモの有難味がなくなる。そう言いかけてアルスは言葉を飲み込んだ。それをフェザードに伝えることに意味はないと思ったからである。

 しかしその考えは本来であれば見当違いであり、アトモに有難味はそもそも存在せず、信仰対象はアトモの先の風神である。本来であれば。


「よく来てくれました。アルスさん、ルヴィナさん、ニコルさん。」

「おはようございます、風神様。」

「お呼びしたのは先日の件です。無関係な皆さんに多大な迷惑をかけてしまって、申し訳ございませんでした。」

「無関係ってことはないんだけどな。俺達がこの世界に来たのはこの世界の問題を解決するためだからな。」

「でもどうして自我も失うほどになっていたんですか?今と私達と戦った時とではあまりにも風神様の様子が違いますよね。」

「そうですね、順を追って説明致します。わたくしは以前よりこの世界に風を吹かせていました。そうすると人々はわたくしを風神として祀るようになりました。」


「わたくしはその期待に応えようと、人々に良い風を、恵みの風を与えんと日々努めてまいりました。その時のわたくしと人々の関係は良好であったと言えます。

しかし、世代が変わり人々の風神信仰はどんどんと廃れていきました。」

「まぁ……よくある話だな。」

「そうですね。わたくしはそれも仕方ないことであると考えていました。しかしわたくしのその考えに訴えかけるもう一つの声がありました。

本当にそれでよいのかと、そんな恩知らずな人間に与える風があるのかと。

その声をわたくしは無視できなかった。その声が正しいのではないかと少し思ってしまった。そうしてわたくしはその声に飲まれてしまいました。」

「その声っていうのはなんなんですか?」

「それは恐らくわたくしの本心の一部です。」


「それって本当に風神様が悪いのか?」

「わたくしが悪しき声に耳を傾けなければ、自分を貫ければ何事もなかったのです。」

「いや、そうではなくて。風神様は……本当の意味での神ではないんだろう?なら人間にそこまでしなくていいのは間違ってはないだろう。」

「……。」

「それなら都合のいいように神だなんだと祀り上げ、あまつさえ感謝の気持ちを忘れつつある人間達が悪いだろう。風神様が気に病むことじゃない。」


「アルス殿の意見はわかるのだが、それでは何も解決しないのだ。」

「隊長さん、私は風神様が一人で全てを背負うことが解決に繋がるとは思いません。解決を求めるのであれば誰が悪いのかではなくこれから、そうならないためにどうするのかです。」

「そうですね。わたくしは人々ともっとより良い関係でありたいと願っています。」

「風神様がそう思うのであれば、私は……風神様が人々の前にお姿を見せるべきであると考えます。」

「そんなのダメだよ!そんなことをしたら風神様は人間達に恐れられてしまう!」

「薫風……。わたくしは大丈夫です。お祭りに水を差すのも悪いので明日にでも皆様の前に姿を見せましょう。」

「そのときは私もお付き合いします。」


「いやぁそんな時間はないかなぁ。」

「ネムレス……。」


「うわっ……なにこの……生き物……?いつからそこにいたの?お姉さんやネコ助の仲間?」

「この生き物ってひどいなぁ。どこからどう見ても猫の姿だろう?」

「姿はそうだけどさ……。」

「薫風君。彼はネムレス。彼は私達を次の世界へ運んでくれてるんだよ。」

「そう。そしてここでの目的は達した様だからね。次に向かうのさ。」

「それなんだけどもう少しだけ待てない?」

「ダメだよ。前も言ったけど僕達には時間がないんだ。」


「あなたが……アルスさんやルヴィナさんを連れてきてくださったんですね……。ありがとうございます。」

「そうさ。悪いけどこの三人はもう行かなきゃいけないんだ。」

「そのお話なのですが……。」

「ダメダメ。僕達は忙しいんだ。」

「いえ、お引き留めしようというつもりはございません。ですがその旅路に薫風を連れていってほしいのです。」

「実際に連れ歩くのは僕じゃないからね。判断はそっちのお三方に任せるよ。」

「そう言ってるけど?どうするの?」

「にゃぁー」


「そうだな。ニコルもそう言ってるし。」

「そう言ってるって言われてもね……。」

「ルヴィナはニコルの言葉がわからないんだったな……。すまない。」

「謝られることでもないけど。ネコちゃんが何て言っているのか翻訳してくれると助かるよ。」

「『戦闘が避けられない以上は戦力は多いに越したことはない』とのことだ。それに関して俺も同意する。」

「まぁ、それはそうなんだけど……。大丈夫なの?」

「なにがだ?薫風なら戦って実力もわかっているから足手まといにはならんだろ?」

「いや、そうじゃなくて……。」


 ルヴィナの懸念は、この旅が命懸けの戦いであることを相手方が理解しているのか?もし途中で薫風がやられてしまったら彼らに合わせる顔があるのだろうか?ということであった。


「風神様、隊長さんそれと、薫風君。私達の旅は大変危険なものです。事実として風神様が守ってくだされなければ私達は薫風君達に倒され今ここに立ってはいないでしょう。そのような危険があることを承知で申されているのでしょうか?」

「わたくしはそうであるからこそルヴィナさん、アルスさんと共に連れていってほしいと考えております。ですが、薫風……貴方はどうお考えですか?」


 風神に声をかけられて今まで黙っていた薫風が話し始める。


「ボクはお兄さん、お姉さん達と一緒に行きたいよ。今さらダメだって言われてもボクのワクワクとドキドキは誰にも止められないからね!」

「遊びに行くんじゃないんだよ?」

「わかってるよ!でも、なんにでも楽しむ余裕ってやつは必要なんじゃないかな?」

「そんな余裕のある旅にならないと思うけど……。」

「戦闘やキチッとしなきゃいけないところはしっかりするよ!メリハリだよ、メリハリ!お姉さん達は真面目すぎるんだよ。」

「そう……かもね。」


「待ってくれ!」


 薫風を連れていくことがある程度決まったところで、何処かから呼び止める声が聞こえた。


「ツムジ!まだ寝てなきゃダメだよ!」

「俺も連れていってくれ……!」

「ダメだ。」


 連れていってくれと頼む旋風を止めたのは嵐であった。その口調はあまりにも冷たく鋭かった。


「隊長!なんでだ!」

「薫風は遊びで旅に付き添わせるわけじゃない。お前達の仲間ごっこで迷惑をかけるわけにはいかない。」

「遊びじゃないから!遊びじゃないから、俺が薫風を護るんだ!それが俺の使命だ!」

「使命?笑わせるな。お前が行って何になる。足を引っ張るのが関の山だ。」


 嵐の言い様にルヴィナが口を挟もうとしたが、アルスがそれを制止した。これはあくまで嵐と旋風の問題であった。

 実力的に旋風の実力が足りてないということではないし、嵐もそれを理解していることをアルスはわかっていたためである。


「俺は『あの時』から薫風を護るって決めたんだ!何があっても!」

「そこまで言うのならわかった……。旋風、武器をとれ。薫風を護るというなら自らの力を以て道を拓け!」

「……!やってやる!」


 そこにいる全員がただその戦いを見守っていた。槍を持ちひたすら攻めたてる旋風を、余裕でいなす嵐。旋風が持ち得る全ての魔技を使っても嵐に魔技のひとつも使わせることができないでいた。

 それから時間が経って旋風の魔力も体力も殆ど尽きかけていた。嵐はまだ息切れもなく汗の一滴すらもかいてはいなかった。


「その程度か!お前の護る意思って言うのは!口程にもないな!」

「はぁ……はぁ……まだだ、俺の取って置きを見せてやる!『俺流、烈風轟嵐牙』!」

「……。」


 嵐は旋風の作り出した竜巻を同程度の竜巻でいとも容易く相殺した。


「お前の言う『俺流』とは、劣化品のことを示すのか?」

「……くそっ。」

「もう諦めろ。お前に勝ち目はない。」

「まだ……負けてねぇ!」

「虚勢だけは一人前だな。もう魔力も残ってないお前に……魔力があっても大して強くもないお前に私が負けると思ったのか?」

「……。」

「それとも私が『負けてくれる』と思っていたのか?」


 そんなことはないと言いたいが負けてくれるとまでは言わないまでも、体を張って説得すれば折れてくれるのではないかと旋風は内心期待していたところはあった。

 だがそれは甘かった。それは甘えであった。戦いに身を置くことを理解できていなかったのだ。


「これが最後の忠告だ。諦める気はないか?」

「……俺は薫風を護るんだ……。ここで諦めたら男が廃る。」

「死ぬことになってもか?」

「俺が死んででも薫風を護れるなら本望だ!」

「そうか……。」


「なら、ここで死んでおけ。」

「……!」

「冥土の土産に本物の魔技を見せてやる。」


 嵐の作り出した大竜巻が、旋風を大きく打ち上げた。そして直ぐ様、嵐はその竜巻に乗って追撃をした。身動きのとれない旋風を地面に叩きつけ、矛先を地面に打ち付けられた旋風に向かって突き刺そうと重力も味方として急降下を行った。

 その殺気は間違いなく本物であった。


「『一陣の戦斧(トマホーク)』!」


 急降下する嵐を薫風が真横から蹴飛ばした。その時の薫風の表情は鬼気迫るものがあった。


「嵐隊長!ひどいじゃないか!なにも殺そうとすることないじゃん!ツムジ、大丈夫?」

「薫……風……。なんで……なんで助けた!俺はお前を護るために……。」

「なんでって……友達だからだよ!仲間だからだよ!」


「旋風。わかっただろう。これが足を引っ張る、ということだ。」

「……。」

「え……?なに?嵐隊長、どういうこと?」

「旋風の身に危険があったら薫風は今の様に何がなんでも止めるだろう。」

「勿論だよ!」

「今の状況であれば私がその気であれば二人纏めて仕留められていた。薫風が止めに来るのをわかっていたからだ。」


「旋風。護るというのはな、命張ることでも、ましてや無駄に命を散らすことでもない。それがわからんお前を薫風に着いていかせる気はない。」

「だったら俺にここで指を咥えて待ってろって言うのか!」

「今のお前に、本当に薫風を護れる力があると思うか?ルヴィナ殿やアルス殿に迷惑をかけずに!」

「……俺だって戦える!少なくとも嵐隊長ほどじゃないとしても、人間よりは強い!」

「自惚れるな!地の利があってなおアルス殿達と戦い負傷して帰ってきたお前が、二人よりも強いだなんてことがあるわけないだろう!」


 それはどうだろうか?とは思いはしてもここでそれを言って水を差すことはしない二人。あくまで旋風に傷を負わせられたのは人数有利があればこそだっただろう。


「……それでも俺は……!」

「ツムジ……ありがとう。ボクは大丈夫だよ。だから行くね?」

「薫風……何を言ってるんだ!お前一人じゃ何があるかわかったもんじゃないだろ!」

「一人じゃないよ。お兄さんもお姉さんもネコ助もいるよ。あと、カオルって呼んでよ。いつもみたいにさ。」

「カオル……。」

「そうそう。ボクとツムジの仲じゃないか。」

「カオル……俺は『あの時』からお前を護るって約束したのにこの(ザマ)で……。」

「うん。『あの時』からそう言っていつも護ってくれたよね……。ありがとう、本当に感謝してるんだよ。」

「……なんだよ、俺だけガキみてぇじゃねぇか……。」

「そんなことないよ!あんなことがあってからもずっと一緒にいてくれて。いつもカッコよかったよ。」

「……。」

「今生の別れってわけじゃないんだしさ。絶対また戻ってくるから。わかってくれるよね、ツムジ?」

「わかった……約束だからな!絶対戻ってくるんだぞ!」

「勿論だよ!」


「アルスさん、ルヴィナさん。カオルをよろしくお願いします……!」

「あ、あぁ。お前の代わりに護ってやる。」

「なんだよなんだよ!ボクはずっと護ってもらわなきゃいけないほど弱くはないんだぞ!」

「そうだな、すまん。」

「よろしくね!アルスさん、ルヴィナさん。それとネコ助も!」

「うん。よろしくね、カオル。」

「ボクの名前は薫風だよ!く・ん・ぷ・うだよ!」

「何言ってるの?私とカオルの仲じゃない。」

「まだ出逢って二日ぐらいだよ!?」

「これから仲良くなればいいんだよ。私とカオルの仲でしょ?」

「わかったからごり押しやめて!それならボクも呼び捨てにするからね!よろしくね、アルス!ルヴィナ!」

「あぁ、よろしくな。薫風。」

「えぇ!?アルスもカオルって呼んでくれるんじゃないの!?」

「名前は薫風なんだろう?俺のことは呼び捨てでいいぞ。」

「むぅ……。」

「これから楽しい旅になりそうだね。カオル。」

「そーだね!薫風のこれからの活躍にご期待ください!」


「そういえばさぁ、アルスとルヴィナってどういう関係なの?恋仲とか?」

「……それは……えーっと……だな。」

「私達はどっちかっていうと義兄妹(ぎきょうだい)みたいなものかな。」


 それは事実として何一つ間違ってはいないが、その発言がルヴィナから出たことに対してアルスは驚いていた。

 サフィーナの婚約者とサフィーナの実妹だから義兄妹。でもそれ以上に二人の関係性は仇敵と復讐者というべきものであった。ルヴィナは恐らくこの真っ黒い関係性を薫風に隠しておきたかったのだろう。そのことはアルスにもわかった。


「だからそんなに仲が良いんだね!」

「……。そうね。」

「じゃあボクも今日から義兄弟だね!よろしくブラザー!」

「そうはならんだろ。」

「アルスはノリが悪いなぁ。人生楽しまないと損だぜ?ブラザー!」


「薫風少しいいですか?」

「はい、風神様。なんでしょう?」

「『あの子』はやはり置いていくのですか?」

「『あの子』……?あぁ……うん。ボクにはまだ……。」

「必要になるようなことがないならそれに越したことはありませんが、もし必要となればいつでも戻ってきなさい。『あの子』もそれを望んでいるはずです。」

「うん……。」

「薫風。過去は引きずるものではなく受け入れるものですよ。起こったことは変えられないのですから。」

「わかってます……。」

「それならいいのです。……ではそろそろ行きなさい。わたくし達は薫風の安全をずっと願っていますよ。」


「ふあーぁ。もう終わったかい?時間がないって言ってるのに茶番に付き合わされて僕はもう眠たくて眠たくて……。」

「茶番って……。」

「茶番は茶番さ。とりあえず次の世界へ向かうのは四人でよかったかな?」

「そうだな。俺とルヴィナ、ニコルに薫風を加えて四人だ。頼んだ。」

「はいはい。では次もよろしく頼むよ。」


「カオル!何があってもフェザードの誇りを忘れるなよ!」

「うん!ツムジもね!」


 ネムレスの作った空間の中へ四人は飛び込んでいった。薫風は楽しみで浮かれていた。それを見ていたアルスは不安だった。ニコルは相変わらず何を考えているのかあまりよくわからないし、ルヴィナは迷っていた。

 元からあった迷いではあるがそれが大きくなっているのを感じていた。しかしそれを気に留めている暇もない。


 四人は色んな事を思いながら旅立っていった。

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