表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第三章 風は嘯き 人を弄ぶ
13/63

十二話

「グルオオオオォォ……」


 何かの咆哮が轟いた。そしてそれから程なくしてアルス達に向かって一人のフェザードが慌てて飛んできた。

 近付くにつれて、はっきりとしてきたその影にルヴィナ達は見覚えがあった。


「嵐隊長!大変だよ!」

「薫風、落ち着いて説明してくれ。」

「風神様が荒れ狂ってるよ!なんだろう、殺気立ってるって感じ!」

「そうか、わかった。風神様の相手は私達がする。薫風は周囲に厳戒態勢を敷いてくれ。」

aye(アイ) aye(アイ) sir(サー)!」


 飛び去ろうとした薫風がルヴィナ達を一瞥し、一言告げた後、急いで飛んでいった。


「さっきはごめんね!……でもいつか旋風の借りは返すよ!」


 飛び去っていく薫風を見送った後、嵐が口を開いた。


「すまない。薫風と旋風は親友同士でな……連携も含めた戦闘力だけならフェザード達の中でも一、二を争うぐらいだから番兵としていたんだが、見ての通り子供だから感情的になってるんだ。許してやってくれ。」

「あ……あぁ。それはいいんだが、それより風神様の事が気になるな。」

「……その事でお二方(ふたかた)、いやお三方(さんかた)にお願いがあります。私はこれから風神様を鎮めるために風神様の魔力を奪う必要があります。そうする上で戦いは避けられないでしょう。ですから貴殿らにその戦いに手を貸してほしいのです。」

「勿論だ。俺たちはその為に来たんだからな。」


 そういうアルスの発言にルヴィナは無言で頷いた。恐らくネムレスがここに寄越した原因は風神にあるのだろう。


「かたじけない。」

「早く風神様の所へ行きましょ。」


 アルス達は嵐に連れられて風神のもとへと向かった。


「グルァァァァ……!」

「あれが風神様……なのか?」


 先より聞こえていた叫び声より少し予想はついていたが、風神様は人に近しいものではなかった。崇められているものに対して使う言葉として不適切なものであることを承知で例えるとするならば、化け物や怪物という表現が適切と言えた。

 獅子の体躯(からだ)に鷲の頭と翼。一般的な表現としてはグリュプス、グリフィンやグリフォンと呼ばれるそれであった。


「風神様……御身へ刃を立てることをご容赦ください……。」

「グルルルオォァァァァ!!!」


 風神の後肢(こうし)が大地を蹴った。その瞬間には嵐のすぐ側に来ていた。そうして前肢についている鋭い爪が嵐に向かって伸びたが嵐はそれも全て予測して反応していた。

 その爪を槍で弾いて槍を構え直して全力で槍で突いたが後方に飛び退いた風神には少し届かなかった。


 飛び上がった風神をアルスの『閃変万火』とルヴィナの『螺旋(ヘリックス)』による追撃が襲い掛かったが両翼より放たれた風弾により防がれ二人の攻撃を弾いて尚、威力の衰えないその弾からニコルが『旋』で二人を護った。


 その風神を追い掛ける様に、嵐が飛んで槍で突き刺したが薫風旋風の纏っていた物と同様の風のバリアに阻まれた。

 風神は魔力の強さが薫風旋風の比ではないほどに強いため、風のバリアもかなり強く、それだけで風神というものを驚異的な存在たらしめた。


「ねぇ!あの風神様が纏ってる風はずっと纏われてるものなの?」

「いや、違う!風神様の意思でその瞬間に外向きに吐き出してるだけだ!」


 風のゴオオオオという音にかき消されないようにルヴィナと嵐が叫んだ。


「それなら……。ネコちゃん!!」


 ルヴィナの掛け声に合わせてニコルが電気を生み出す。そこかしこに『(サイン)』で雷雲を作り出していく。

 ルヴィナの算段では風神の隙を見て的確に雷の矢を放つことが出来れば大きなダメージを与えることが出来るはずというものであったが、その目論みは泡と消えた。

 例え魔技で作り出したものであっても雲である事実は変わらず、薫風達と戦った場合とは異なり『(サイン)』を作るその瞬間を目撃されている状態で作り出したものだから、怪しげな雲は風に吹き飛ばされても当然の結果といえた。


 魔力によってホバリングを続けている風神がまた風の弾を射出する。嵐がそれを防ごうと大竜巻を起こす魔技を放った。ルヴィナは一目でその嵐の使った魔技の強大さがわかった。何故ならその魔技には見覚えがあったからである。

 薫風と旋風の使った『俺達流、烈風轟嵐牙』。あの二人が二人掛()かりで使ったあの魔技の大元はこの嵐個人の魔技であったのだ。


 大竜巻は風神の風の弾を弾き飛ばして、風神へと突き進んだが風神も負けじと同程度の竜巻を繰り出して、二つの竜巻がぶつかって消えた。その竜巻を風神が生み出す瞬間、そのおおよそ一秒の隙を『閃変万火』と『螺旋(ヘリックス)』と『発』で飛んだニコルの『爪』が衝いた。

 それは確かに風神に直撃し、ダメージを与えたはずだった。


「グルゥァァアアア!!」

「あれが効いてないのか……?」

「効いてないわけではない。貴殿らも魔技使いならわかると思うが、風神様の魔力そのものが鎧として機能している以上は肉体に直接的なダメージを負わすことはできない。」

「だから……何度も攻撃して魔力を枯らさないといけないってことでしょ!」


 そのようなことを過去に誰かが説明していたような気がするが、要約すると攻撃にも防御にも魔力を消耗するため、戦闘が長引いたり連戦になるほど攻撃面も防御面も相応に弱くなる。

 本来は人間であれば生身を斬られればひとたまりもないのだが、魔力を使える『魔技使い』であれば刃物を受けても魔力でダメージを緩和できる。魔力が強ければ強いほどにその緩和率、緩和できる総量が増える。


 嵐が大竜巻を出すことが出来るといっても、その強大さ故にかなり嵐自身の魔力を消費することは明白であった。飛行能力持ちで攻撃の要になり得る嵐をあまり消耗させることは得策ではないと判断したニコルは何か手は打てないかと思案した。


 ニコルは行動しながら手を考えるタイプであった。それはニコルの行動力の高さや頭の回転の早さと噛み合った性質であるといえた。

 何が出来るか考え付くより先にニコルは風神の背後に回り込んだ。そして『発』で飛んで急接近こそしたが、それはやはり暴風に阻まれた。しかしそれはニコルに1つの閃きをもたらした。


「ニコル!無理するなよ!」


 ルヴィナも何かを確かめるために、『螺旋(ヘリックス)』を風神へ撃ち込んだ。それは前肢の爪でいなされてしまったがそれでルヴィナは1つの確信を得た。


 ルヴィナの得た確信は、風神の風のバリアでもルヴィナの『螺旋(ヘリックス)』は防げない、というものであった。

 それなら後は隙を作り撃ち込んでいくだけでいい。それが簡単ではないこと以外に問題はない。


 それからかなりの時間が経った。ルヴィナの『螺旋(ヘリックス)』が有効であることを気付いてから優位に立っているはずではあるが、それでも仮にも神としての扱いをされているものであり、魔力の絶対量がアルスやルヴィナ程度ではどうにもならないほどに多くもあった。

 全員の魔力の消費も(かさ)んできて、体力的にも限界が見えてきた頃であった。


「あの……竜巻、もう一度……出せるか……?」

「はぁ……はぁ……出せる……が、出したら最後、この戦いを、戦線離脱せざるをえない、だろうな。」

「しんどいのは承知だ……だから無理を言って申し訳ないとは思う。だが、頼む。俺とニコルを……あの竜巻に乗せて風神の上まで飛ばしてくれ。」

「バカを言うな……!そんなことをしたら、自由落下で魔力の尽きかけた貴殿らまで息絶えるぞ……!?」

「俺は、俺達は……本気だ……!」

「わかった。私の残った魔力と、風神様の事を貴殿らの命に賭けよう。頼んだぞ。」

「あぁ。……行くぞニコル!!」




 最後の魔力を振り絞って嵐が生み出した大竜巻に乗って、風神の真上へ打ち上げられたニコルは、アルスの肩から飛び上がり更に高高度へと飛び上がった。


「『業火剣乱』!」


 アルスが燃え盛る剣を風神の真上より振り下ろした。だがそれも風神の纏う暴風に防がれ、アルス自身も大きく吹き飛ばされた。


「『閃変万火』!!」

「『泡沫(バブル)』!」


 飛ばされながらもアルスが放ったそれは風神に直撃し、尚且つ咄嗟にルヴィナが発動させた近くにあった『泡沫(バブル)』の起爆にも成功したので、その二つをもろに受けた風神が大きく怯んだ。その隙を高度が降ってきた一匹の猫が襲った。『猫』で大きくなったニコルの『爪』とおおよそ時を同じくした、ルヴィナの『螺旋(ヘリックス)』が風神に深傷(ふかで)を負わせ、風神を戦えない状態にするに至った。


「グルァァァァ……。」


 落ちていく風神の身体。ニコルはそれに乗ってなんとか着地を成功させた。

 アルスは、風神に大きく吹き飛ばされた上に『閃変万火』まで使ったので最早ルヴィナやニコルの位置からは見えないぐらい遠くへ行ってしまった。


 倒れている風神の元へルヴィナと嵐が向かった。かなり大きな傷を負わせたはずなのにそれでも尚、風神は動けないだけで生命活動そのものが危ぶまれるところまでは至っていなかった。


「風神様!風神様!」

「嵐……。わたくしは……。」

「今はお休みください……。ご無事で本当に良かった。」

「嵐……そうですね……。最後に一言だけ……迷惑をかけてすみません……。」

「おやすみください……風神様。」

「……はい。」


 風神が正常に戻ったことを、確認した嵐はルヴィナを一目遣り、一言ルヴィナへと投げかけた。


「もう少しここで、待っていてくれ。アルス殿も(じき)に戻ってくるはずだ。」

「……あいつが?もう戻らないものだと思ったんだけど。」

「いや、薫風から無事だと連絡があった。その前に私が薫風にアルス殿が飛んでいくかもしれないからと、ね。」

「……連絡って……?どうやって……。」

「おーい!嵐隊長ー!」


 ルヴィナが質問を終わる前に、遠方から薫風と複数のフェザードが飛んできた。その内の数匹に支えられてアルスの姿も見えた。


「嵐隊長……!風神様は!?」

「風神様なら大丈夫だ。今は眠っておられるが……な。」

「それより、アルス殿達を集落まで送り届けてくれ。三人とも手負いだ。丁重にな。」

「りょーかい!」


 薫風達に連れられて三人はツル達のいる集落まで運ばれた。


「久しぶりねぇ、薫風ちゃん。」

「久しぶり!ねぇツル、最初にこの旅人さん達を拾ってくれたのは誰かな?」

「あぁアルスさん、ルヴィナさん。ご存命じゃったか。風神様の神風の様子がルヴィナさん達が上に行ってしばらくしてから、かなり悪化してるようだったから心配で心配で。薫風ちゃん、この方達はわたしが預かるから薫風ちゃんは風神様をお願いね。」

「うん!よろしく頼んだよ♪あっそうだ……ネコ助もお兄さんもお姉さんもありがとね。」


 そう言うだけ言って、薫風は返事も聞かずに飛び去っていった。


「さてさて、皆さんお疲れじゃろう。アルスさんはまたタカさんのところでお休みなさいな。ルヴィナさんとニコルちゃんは(うち)へおいで。」

「ありがとうございます、ツルさん。」

「礼を言うのはこっちの方じゃて。本当にありがとう。」


 三人は傷の手当てと食事、入浴を済ませてしっかりと睡眠をとった。


 そして夜が明けた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ