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いずれルビーかサファイアか  作者: いつき
第三章 風は嘯き 人を弄ぶ
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十話

 ウィルと対話しゆっくりといくつかの魔技を検討した。

使い勝手が多少悪くとも局所的に使うことがあるものを複数持つということ、それも一つの幅の広さに繋がるとルヴィナは考えていた。『泡沫(バブル)』も『流転(ダイバージョン)』も汎用的な性能とはお世辞にも言えないが、それでもずっとルヴィナを支えてきた大事な魔技であった。

 そうしてルヴィナが考えた技の一つが『螺旋(ヘリックス)』であった。


 風で阻まれるのであればどうするのが正しいかを考えた結果が『風圧、水圧などのあらゆる圧力』を受けない魔技を使う、というものであった。理屈として螺旋、乃至(ないし)ジャイロ回転が風圧などに強いという意味合いは一切なく、『ただなんとなく』ルヴィナの感覚的にそんな感じがしたために、ルヴィナは『風圧などを受け付けないもの』に回転を加えた。そんな漠然としたイメージが割と大事であったりもする。


 また、アルスが目覚めるまでの数日に出来ることの中には地力の強化や、薫風と旋風そのものの対策などが主としてあるがそれ以外のことでルヴィナは連携というものを考えていた。弓使いと、剣士含む近接攻撃の使い手は呼吸を合わせて波状攻撃或いは一斉攻撃を行うことで個々の穴を埋めたり、個々人の一人辺りの戦力を増したりすることが出来る。

 それは魔技使いでも同じこと。その剣技が、弓技が魔技であったとしても本質的に同じであれば生まれる結果もおおよそ同じとなる。


 薫風と旋風の『俺達流、烈風轟嵐牙』がまさしくそれであり、ルヴィナも自身の魔技とニコルの魔技を組み合わせて何か大きな力へと変換できないものかと考えていた。アルスと合わせるのはお互いの属性上難儀するだろうとの考えがあった。

 その理屈をアルスと合わせなくて済む言い訳にした。水と炎なのだ。合わせても水蒸気しか出来ない。そういうことにしておいた。


 その点で言えばニコルの雷とルヴィナの水は相性が良かった。水は伝導体、電気を通すもの……それは一般的な知識であり何も間違ってはいない。ルヴィナもそう思っていたしそのような水しか知らなかったのでルヴィナが作り出す水は導電率は高めであった。


 事実としては水とは理論純水(不純物のない理論上における完璧なH2O。)に近ければ近いほど電気を通さないし、理論純水は絶縁体である。


 ニコルとの合わせ技自体は簡単に発現できた。『とりあえず』二種類の合体魔技を編み出したことで二人が手を組んでいる間における戦闘能力は格段に大きくなった。

 魔技の一つはルヴィナが作り出した雨雲にニコルが電撃を加えるシンプルなものだった。ルヴィナの水の魔力と異なりニコルは定位置に電撃の魔力を置いておくことが不得意で、それを可能とするニコルとしては画期的な技だった。その雷雲を介することでルヴィナが雷の矢を降らせたりすることができるようになった。雷の『泡沫(バブル)』と謂ったような性能のものであるがその雷雲があることでニコルの調子も良くなった。

 その魔技を『(サイン)』という。


 この『(サイン)』だがルヴィナは内心ではアルスがこの電撃エネルギーを上手いこと剣と合わせてくれればと思っていた。ルヴィナはそれを(おくび)にも出さないし、それを自認することすら忌避したがそれでも間違いなく『(サイン)』を一番活用できるのはアルスであったしルヴィナもそれをわかった上でこの技を考えた。


 逆にもう一つの魔技は純粋にニコルとの連携を考えたものであり、ニコルの魔力を電撃全般であると考えた結果生まれたもので地電流を利用したものであるが、地電流の本来の形とは異なり、ニコルが地面に流した電流をルヴィナが誘導して相手にぶつけるものであった。地を伝って攻撃するのでこの世界での活躍は見込めないのが目に見えているのが、目下の問題ではある。

 この地電流を使った魔技を『(インダクション)』という。


 この二つの合体魔技はニコルが放つ電撃を大きくしたり、ルヴィナの戦略の幅を広げたりすることが出来たので結果的に二人の立ち回りに大きく関わることになった。ただ、それを除いても二人で練習した時間が魔技以上に二人の連携を強めたのも紛れもない事実である。

 シグザルに初めてあった時に魔技初心者と見抜かれたのも今となっては頷ける。


 そして数日が経ってアルスが目を覚ました。アルスは数日も寝ていたことに驚きこそしたが、すぐに立ち直った。

 ツルとタカに礼を言い、三人は落ち着いた場所で話をしていた。


「もう大丈夫なの?」

「あぁ。ルヴィナもニコルも無事でよかった。」

「風神様が助けてくださったらしいけど、そうじゃなければ肉片になっていたでしょうね。介抱してくれたのはツルさんとタカさんだけど。」

「どうしてその風神様とやらは助けてくれたんだ?」

「それは誰にもわからない……。風神様を除いては、ね。」


 これまでの経緯をルヴィナはアルスに伝えた。

 この土地の風神信仰と『霊珠ーアトモ』、その配下のフェザード達。そしてツルの『風神様を救って』という言葉。


「救って、か。ツルさんが言うには俺達がこの世界に来たことは偶然ではないって話だったな。」

「その話も含めてツルさんに聞きに行きましょ。」

「あぁ、そうだな。」


 三人がツルの家に着き、アルスの顔を見たツルは大喜びした。アルスのことをとても心配してくれていたのだろう。それは恐らくルヴィナよりもずっと深く。

 アルスは挨拶を済ますと本題に入った。


「それで、ツルさんはなぜ俺達が来たのが偶然ではないと思ったんですか?」

「それはそうでしかないから……かの。逆に問うけれど何故この世界を選んで来たんじゃ?観光なら他にもいろんな世界があるじゃろ?」

「それは……そうなのですが。」


 アルスは返答(こたえ)に詰まった。そして自問自答する。


『何故俺はここに来た?』『ネムレスがここに飛ばしたから。』

『何故ネムレスはここに飛ばした?』『ネムレスがここに……さる大悪魔が大昔暴れていた際の力の残滓……それがあるから。』つまり……?


 ネムレスが理由をもってここに飛ばしてきたのであるのだから元から偶然性などなく人為的なものでしかなかった。だがそれは客観性に欠けている。

 アルスからすればそうであるのだが、ツルの視点からはそうは見えていないはずである。

 アルスが考え込んでいる間にルヴィナは別の質問に移った。

 ルヴィナからすれば偶然かどうかは大した問題ではなかった。自分達の目的とツルの希望(たのみ)が同じであるならそれでいい。目的達成の足掛かりを少しでも探しておきたかった。


「私達はここにはいない別の者に指示を受けここに異変が起こっているがために、その解決の手助けをするために遣わされました。」

「ほう、そうじゃったんか。それは大きな組織かなにかかね?」

「いえ、私達三人とその指示をしている者の四人による個人グループです。」

「なるほどのぅ……。」

「ですので、私達の目的が風神様をお救いすることである可能性は低くありません。」


 ルヴィナとしては『悪魔の残滓』なんていう非現実的なことをツルに伝えたくはなかった。


「それで、『霊珠ーアトモ』の様子が最近おかしいというのはどういうことなんでしょうか?」

「それはの、元々半透明でとても綺麗な水晶のような球体であった。そしてそこから不思議な魔力を感じ取れた。ニコルちゃんのようにの。

じゃが、昨今の『霊珠ーアトモ』は(よど)んで濁っておる。本体も、魔力も……な。」

「原因はわからないんですか?私が目を覚ましたときに最近は風神様が神風を吹かせてくれないから何かあったかもしれないと言ってましたよね?」

「具体的なことはなにもわかりはせん……。なぜなら『霊珠ーアトモ』を介してしかわしらは風神様とコンタクトを取ることが許されていないからの。」

「……なるほど、お察ししました。では早速今日の深夜向かってみます。」

「そうか……ムリ言ってすまんのぅ……頼んだよ。」

「では今晩どうするか少し相談してきます。」


 そう言って三人は家を出た。ルヴィナもアルスもツルに必要以上に負担をかけたくなかったからである。これからの話にまでツルが付き合う必要性はどこにもない。


「ちょっと待ってくれ、ルヴィナ。なにもわからないんだが?」

「なにが?ツルさん達は立場上風神様に直接会えないから今夜こっそり私たちが会いに行こうって話よ?」

「そんなこと一言も言ってないじゃないか。」

「言えないんだと思うけど。無宗教の人間に自分のとこの宗教の主神様が怪しいから探ってこいなんて信者としてダメでしょ。ましてや敬虔な信徒として風神様と会えないっていうルールも破れないんじゃ心配でも不信心でもどうにもならないよ。」

「……ツルさんも大変なんだな。」


「心配であるとしても行いに疑心を抱いてしまうと不信心と見られるしまうこともある。ましてや相手は人間じゃないんだから自分よりも深い考えがあっても不思議ではないしね。」

「確認する術がない……か。」

「フェザード達に聞けばいいのかもしれないけど、ツルさんとフェザード達は交友関係があるみたいだから、多分それも試してみた上で手詰まりって感じなんでしょ。」

「最近は神風を吹かせてくれないって言っていたな。」

「でも私達がやられて落とされたのを助けてくれたのは風神様の神風だった。だから、私達に風神様も助けてほしいのか……或いはなにか別の算段があるか。」

「ルヴィナは風神様のことを疑っているのか?」

「……? どうして?」

「いや、『不信心』や『算段』と言うから引っ掛かっただけだ。」

「そんなつもりはないよ。ただ私達に頼まれたことを考えるなら、私は風神様に寄った思考に染まってはいけないんだとは思ってるだけ。私達に求められてるのは主観的な考えじゃなくて、客観的にどちらにも平等な視点を持つことなんだと思う。それをあんたやネコちゃんにまで求める気はないけど。」

「そう言うことか。くだらない質問してすまん。」

「……別にどうでもいいよ。」


「それで今晩はどうするつもりなんだ?ただ会いに行ったところでまた戦いになるだけだぞ。」

「……そうね。でも多分それはどうやっても避けられない。勿論、最大限対話で済ませたいけれど……。」

「次も無事でいれるとは限らないんだぞ。」

「あんたがびびってるなら私とネコちゃんだけでもいく。」

「そんなわけないだろ。ルヴィナが楽観視しすぎてやしないか不安になっただけだ。」


 ルヴィナを見捨てて、自分だけのうのうと生きるなんて選択をするぐらいであれば、アルスはそもそもこの旅に参加していない。


「楽観はしてないけど代案があるなら聞きたいものね。現状は無策に突っ込んで力ずくで突破しようとしてるだけだから。」


 逃げ場のない一本道をひたすら登ることだけが上に着く手段であり、見付かることを避けることはできない。そして対話を試みても最終的には戦いになることは恐らく間違いない。

 そもそも打てる手が多くない。だからこそ夜に向かうという最低限の策しかなかった。


「もう少しフェザード達とまともに戦えるように実力をつける必要はあると思うんだが……?今までもこの世界は今のバランスのまま保たれてきたんだ。そんなに急を要するものでもないだろう?」

「あんたが寝てる間私達だってただただ暇してた訳じゃないよ。ネコちゃんとフェザード達を意識して修行してたから以前のようにはいかない。」

「……わかった。」

「……。」


 ルヴィナはアルスの瞳の奥の心を悟っていた。今のアルスは少し自信喪失している。マザーとの戦いもフェザードとの戦いもまともな勝利をしていないのだから、無理もないことではあるのだが。

 ただ、絶望や悲観をしているわけではなくただ現状のアルス自身にどうしても納得がいかなかった。

『もっと強くならなくてはいけない。』

『ルヴィナに守られるのではなく、自分がルヴィナを守らなくてはいけないのだから。』


 そんなアルスにルヴィナはかける言葉が見付からない。

 慰め?励まし?それとも叱責だろうか?

 サフィーナやフローレンスならそうしたであろう。でもルヴィナにはそれを拒む強い感情がある。その感情はルヴィナにかけられた強い呪いであると言っても過言ではない。

 ルヴィナはやっぱりアルスが許せない。


「にゃー」

「……そうだな。」


 ニコルがなにかをアルスに伝えたのはルヴィナにもわかるが、やはり何を言ったのかはルヴィナにはわからない。

 だがそれでアルスが立ち直るならルヴィナとしては、その先は大して気にならなかった。

 出発時刻などを決め三人は十分な休息をとって、そしてその時間になった。

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