乱入者
HPゲージが無くなったヨイチは仰向けで寝転がったまま言う。
「パンチ重すぎッスー!」
同じく殴った後に体勢を崩して地面を転げ回り終わったエイジも言う。
「遠距離攻撃スリルありすぎだチクショー!」
そう言うと二人して爆笑してた。
ひとしきり笑い終わって落ち着いた後、ヨイチに疑問を投げかけた。
そりゃもうとても笑顔で。
「ヨイチ先生ヨイチ先生、あの見覚えのない煙幕はなんでしょう」
「いやぁ、普通に爆弾だったらあれで終わってたんスけどねえ。爆弾って結構高くて…」
「やっぱり持ち込みアイテムだったか。死んだと思ったぞ」
「黙ってたのは卑怯かと思ったんスけどほら、その方がビビると思ったし?個人的にはあの驚いた顔をスクショ撮りた…大変申し訳ございませんでした」
完全にドン引きした目をしていたらさすがに謝ってきた。
「回復アイテムとか、身体強化の消費アイテムは駄目だけど、それ以外なら一つだけなら持って行ってOKッス」
「さすがにポンポン持っていくのは駄目か。遠距離相手で近づくにも動きの速さで負けるし、対策としても今度やるときは持っていく物を考えるか」
「ちなみに対戦が終わったらポップアップの戻るを押すと受付エリアに戻れるッス」
「なら、とりあえず戻るか?」
「ういッス」
戻るのボタンに手を伸ばした瞬間『乱入者あり、挑戦を受けますか』と、ポップアップが表示される。
その文字の下には『YES』『NO』とあり、拒否することも出来るようだ。
「ねえねえ!アタシとも対戦しようよ噂の変身ヒーロー君!」
観客席から声がしたので視線を向けると宙に制服姿の女の子が居た。
(チッ!スパッツか)
スカートの中に理想郷は無く、夢を阻むかのような現実が遮っているようだった。
そしてサイドテールを揺らしながら少女は目の前に着地する。
いきなり少女は刀をヨイチと俺の間に振り下ろした。
それはもう凄い速さで。
「アンタ達、スパッツで残念とか思ってない?」
「「イヤイヤ、ソンナコトナイ(ッス)ヨー、オレタチハ、ジェントルメン!」」
同じ穴のムジナという言葉がある。
俺とヨイチの事だ。
「なら見てたのね、やっぱ斬るか」
「理不尽すぎない!?」
無骨な刀の切っ先をこちらに向けながら言ってきた。
「「スイマセン」ッス」
少女は仏ではなかったようで一度目から謝罪をいれることになってしまった。
「冗談はさておき」
目が本気だった。
印象で言えば般若。
「早くYES押しなさいよ。ハリーハリー」
「とはいえ俺は初心者だけどいいのか?てか、まずなんで俺?」
「大丈夫大丈夫アタシもそんなプレイしてから日が経ってるわけじゃないし、噂の変身ヒーローと戦えるなんて面白いじゃない」
「たしかにエイジみたいなタイプはこのゲームいないッスもんね」
「もしかして俺、変わり者って言われてる?」
「あははは!そんなことないから気にしない気にしない」
「そうッスよー!あっはっはっはっは」
だが、この二人はこちらの目を見ていない。
周りから変な目で見られているのは自意識過剰ではなかったという喜びと、悲しみでいっぱいの俺である。
悪い奴ではなさそうだし、対戦を了承することにした俺はYESのボタンを押す。
すると程なくして転送が始まった。
転送先は先ほどの待機室で、試合開始前になるとこの待機室に転送されるらしい。
待機室でふと相手の少女の刀を思い出し、独り言が漏れる。
「さて、刀で斬られても平気なんだろうかあの変身スーツ」
「ダメージは受けるけど斬られた腕が吹っ飛ぶみたいなことは無いわよ。ちゃんと拳とか、足のアーマーブーツ部分で受ければダメージも無いし」
「あ、これはご丁寧にどうも...」
「いえいえ、このくらいお安い御用よ」
「って、アテナっ!?」
「お久しぶりねエイジ、シネマチェンジャーの使い方は結構慣れたみたいね」
ん?なんでここにアテナ居るの?てか、ここ他の人って入れるの?
「そんなことより時間がないから手短に言うわね。これを渡しに来たのよ」
手渡されたのはカートリッジだった。
「このカートリッジも使い方は同じだけど、効果の内容は加速。使いこなせばエイジの力になると思うわ」
(エイジ自身が望んだ力だもの)
「この前のモンスターは何だとか、一体全体何者だとか言いたいことは山ほどあるがまずは受け取っておこう」
受け取っている間に柵が開き始めるのでそちらを向く。
「近々この前の子みたいに暴れる子が現れるはずだから、それまでにそのカートリッジの使い慣れておいてね。じゃあ、また」
「またじゃなくてフレンド登録ぐらいさせ…ってまたかよ!」
まさに神出鬼没で自分の頭がバグってるんじゃないかとさえ思える。
だが、手元には現実の証明だとでもいうかのようにカートリッジがあるのだった。
次回、コロシアム二戦目です。