ウェルカムトゥアクトワールド
目を開けると黒い空間に緑の文字で0と1が敷き詰められるように表示されている空間にいた。
『アクターズレイドのユーザー登録を行います。お手数ですが、質問にお答えください』
無機質な音声が空間全体に響くように聞こえた。
『ユーザーのアカウント用の質問にお答えください。』
音声と共に目の前にモニターが現れ、ゲームでもよくあるような入力画面が出てくる。
生年月日や性別などの基本的な質問に加えて、好みといった関係あるのか分からない質問ばかりだったが、ゲームのユーザー登録にしては質問項目が多い気がした。
『質問は終了です。お疲れさまでした。では、良き戦いを演じられますよう......』
すると目の前にゲートのようなものが現れこちらに迫ってくる。
そのままそのゲートをくぐると広い草原に出た。
「初回の入力は終わったみたいッスね!エイジ!」
声の方に振り向くと服装は違うがヨイチが立っていた。
「ここは草原フィールド。初心者が一番最初に来る場所で、基本的な操作は順路に沿って看板に書いてあるんだけど、ここは俺が教えるッスよ!とりあえずフレンド登録の方法から......」
そういうとヨイチは右手を差し出してきた。
「なんだ気色悪い。手をつないで歩くのか?もう子供じゃないぞ。この前九九が言えるようになったんだからな」
「だったら小学生じゃねえか!いや、握手をするとフレンド登録ができるシステムなんッスよ」
さっきのエキシビジョンのムキムキアニキと握手するところを想像した。
「手がバッキバキになるんじゃなかろうか」
「どんな奴とフレンド登録するの想像してるんッスかねえ......」
とりあえずヨイチと握手をすると『YOICHIとフレンドになりました。』と、メッセージウィンドウが表れた。
「これでフレンドッスね!ちなみにさっきのエキシビジョンはコロシアムモード。この場所はアドベンチャーモード。違いとしてはコロシアムは1VS1の真剣勝負でランキングとかがあるッスよ。アドベンチャーはいろんなミッションをこなして、レベルアップや戦闘の練習なんかをできるッス。何か質問は?」
「RPGメインのVRって考えていいのか?」
「近いッスね!ただ、最終的にはコロシアムでの対人戦がメイン!アドベンチャーモードは交流の場っていう側面もあるッスよ!」
「なるほど、大体は理解できた」
「ただ、このゲームの醍醐味は成長の仕方で......これは進みながら話すッス!」
そういうとヨイチは先を歩き始め、俺はそれに続いた。
しばらくヨイチに基本操作を教わりながら、よくあるぷよっとした低級モンスターと戦っていた。
見た目は黒く、名前がタッピーという。
「お前をミルクティーにしてやろうか」
「随分と女学生みたいな悪魔閣下ッスね?」
「いや、スマン。言ってみたかっただけだ」
最初に仮の武器が選べた中でナックルを選んだ俺はパンチやキックでモンスターを攻撃している。
拳への装備と思いきや、実際に動いて戦うのだから普通に蹴りなども織り交ぜて戦えるのは中々良い。
ナックルを選んだ理由はヒーロー物が好きでそういう映画をよく観るからというところ。
ヨイチはというと、そこまで俺と離れたレベルでも無い為、いい感じに一緒に協力しているような形で戦えていた。
ヨイチの武器は弓で、俺が近距離でヨイチが遠距離とバランスも良い。
とはいえ先に始めたからかスキル等を既に習得していて、MPを消費する代わりに放った矢が分裂し範囲的に多段ヒットするスキルを放てたりする。
こういったスキルは複数あるようで成長することで増えるというのはゲームのお約束。
自分の体で戦っている感覚はとても楽しく、実際に疲れてるかのように感じそうなほどだ。
進んだ先に大きな扉がありヨイチは扉を背にして俺に向き直った。
「この先の敵はボスになるッス!そこでこのゲームのとっておきな部分を教えるッスよ!」
「それでチュートリアルは終わりってところか」
「そうなるッスね!でもこれはほんと......少年の夢が詰まってるようなシステムでエイジも絶対気に入るッス!」
「これ以上ワクワクしたら心肺停止しちまう」
既に楽しくて継続を決めていたぐらいだったがこの先があるとは......。
扉をくぐると同じ年齢ぐらいの女の子がこちらに向かって走ってきていた。
「あれがボス?」
「いや、あんな可愛くないッス」
「褒めてくれるのはうれしいけどー!助けて!襲われてるの!あれ!あそこの子!」
「なに?こういうイベント?」
「いや、俺の時はそんなのなかったッスよ」
すると確かに俺たちの3倍くらい大きく、目が赤い雷のようなエフェクトを放つモンスターが歩いてくるところだった。
「やっぱイベントじゃないのか?」
「あれがボスッスよ!でもこの子は......アップデートされたとかかな?うーん......」
(あとあんな目のエフェクトもあったかな)
モンスターが襲ってくるところでヨイチが言う。
「とりあえずとっておきってのを見せるッスよ!アクトスキル発動!」
そう叫ぶと体の周りからオーラのようなものが見え始め、弓を構えたヨイチが大きくジャンプする。
「五月雨の矢ぁっ!」
モンスターより斜め上の方を向いて放った矢が分裂をする。
さっき見たときには相手に向かって放っていたが、斜め上に放つことでモンスターから逸れようとしていた。
だが、分裂した矢の一つ一つが方向転換をし、モンスターの頭に直撃した。
モンスターはそのままよろけて片膝を地につけた。
「おお!やったのか!」
大きくジャンプしていたヨイチは着地をした後、黙ったままである。
「おいおい、かっこつけてるのかヨイチさんよー」
「おかしいんッスよ...ダメージが全然入ってな......」
ドンッっという音がし、目の前でヨイチがモンスターに吹っ飛ばされた。
パーティーステータス画面を確認すると死亡状態。
なにが起こったんだ?一撃で吹っ飛ばされるとか難易度設定おかしくない?...チュートリアルですよね?
すると先ほどの女の子が手を引っ張る。
「逃げるのよ!早く!」
「お、おい!引っ張んなって!」
引っ張られるまま進むと扉を抜けてしまった。
ここまでくればと考えていたら、先ほどのボスモンスターが扉を壊して飛び出してくる。
(いやいやいや、ボスエリアとか無いわけこのゲーム!バグか!?)
その場で咆哮をしたモンスターは体の色が黒に変化していく。
とても嫌な予感しかしない。
「あの子......弄られちゃってるのよねー......あなた名前は?」
「俺?俺はエイジだ。頭の上に名前出てるだろう」
「じゃあ、エイジにお願い。あの子を楽にしてあげて」
「楽に......って具体的には?」
「倒すだけでいいわ。簡単でしょ?」
「は?お前も見てただろ!ヨイチが一発で倒されたんだぞ!俺も強さは変わらねえよ!」
「たしかに今のままじゃ弱くて勝てないわよね」
「オブラートに包むって言葉知ってます?アナタ?」
女の子に改めて真顔でそんな事言われる経験は初めてである。
心が折れそう。
「なら想像して、あの子を倒せるような自分を。そしてあの子を倒せる自分自身を演じて」
「映画のヒーローじゃあるまいし......」
目の前のモンスターの変化が終わったらと想像すると冷や汗を感じる。
リアル過ぎるゲームってのも考えもんだな。
すると女の子が俺の胸に手を当てた。
「ちょっと動かないでー......よっと」
あらやだ大胆とか軽口を言う暇もなく、光が二人を包み込む。
ほんの数秒の間、自分の記憶が脳裏に浮かぶ。
平凡な学校生活、友人、家族、頑張った記憶、楽しい記憶、悲しい記憶......
そして、憧れにも近い好きな物の記憶。
「......わかったわ。なら、エイジにはなってもらおうかしら。私の......ヒーローに!」
光が消えた瞬間、俺の腕と腰に見慣れないものがある。
こういうシーンは映画でよく知っている。
「おいおいまさかこの展開嘘だろ?」
「嘘じゃないわよ、こういうのがお約束なのでしょう?」
「ってなるとやっぱり?」
「ええ、変身よ」
謎の少女って白髪多いのなんででしょうね。
この子は黒髪設定にでもしましょうか。
次回、ようやく変身です。