笑顔、泣き顔
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!逮捕って何も悪いことしてないですよ!魔法も使えない手足がない僕がどんな犯罪を犯すっていうんですか!?」
魔王は笑顔を崩さない
「君が今いる場所は魔族国家ホライズンの領土だよ、我が国に住む人間は5人、全員把握しているが君は当てはまらない。
つまり不法入国だ」
ヤバイ たしかにそうだ
「たしかに不法入国かもしれませんが、これには事情がありまして...」
僕は召喚されてからの事を全て魔王に伝えた
魔王に感じた優しさにかけてみた
……………
全てを伝え終えた時、気づいたら僕は涙を流していた。
心の奥底で予想以上に傷ついていたのかもしれないな
そして、魔王も涙を流していた
「すまない、同情なんてしたら逆に君が傷つくだろうに、あまりに哀れで泣いてしまったよ。
君が崖から落ちようとしていた理由がわかった」
「いえ、同情でもなんでも嬉しいです。では逮捕は?」
「いや、とりあえず保護という名目で身柄は確保させてもらう。魔法を使えない身動きが取れない人間、下手に自由を与えるより呪いが解けるまで留置場の方が安全だろう」
「そうですか……………たしかにそうかもしれませんね、いま自由にされたところで何もできないですし」
「わかってくれたかな?さて、じゃあそろそろ行こうか」
魔王は僕を浮かせたまま向きを変え歩み始めた
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魔王は歩きながら(僕は浮かんでいるだけだが)いろいろと説明してくれた
ここは僕が召喚された人間国家トリスタンと森を挟んだ辺境の地
魔王はたまたま視察に来ていたらしい。
僕はとりあえず村の留置場で一晩過ごして呪いが解けた後に審査し、ホライズン国民として市民権をもらえるらしい
魔王は僕を村に届けたら急いで王都に戻らなければいけないとのこと
1時間ほど森を歩いただろうか
「見えてきたよ」
簡素な塀と柵に囲まれた村が見えてきた
そして門から角をはやした魔族の老人が出てきて跪く
「魔王様、おかえりなさいませ。ご視察ご苦労様でございます」
「ただいま村長、服が汚れるから立ちなさい平伏なんてしないでいいから」
「そちらの方は?」
「呪われた不法入国者って感じかな?訳ありでね、明日昼過ぎまで呪いが解けないんだ。ボクが王都でホライズン定住の手続きしてくるから留置場で保護しといてくれ。巻き込まれただけで悪い人じゃないから優しくしてあげてね」
「魔王様のお墨付きならば我々も安心でございます。客人としてお迎えいたします」
「そんなにかしこまらなくても仲良くしてくれればいいよ」
この人もいい人っぽいなー
「あの、よろしくお願いします。ご迷惑おかけします」
「いえいえ、何もない村ですが自分の家のつもりでくつろいでください」
ああだめだ人の優しさが滲みる、気を抜いたら泣いてしまう
村に入り進む脇では村人が皆平伏している
魔王はそれが苦手らしい
「あああもう皆やめてよ〜頭あげて普通にしてていいからさ〜」
わちゃわちゃ文句を言う魔王を村人は娘や孫を見るような優しい笑顔を、子供達はヒーローを見るような尊敬の眼差しを向けていた
「魔王様って人気なんですね」
「はい、ホライズンの国民はあの人を尊敬し愛しているんですよ」
なんだかこっちまで幸せになるような光景に癒されながらさらに村の奥へ進む
1番大きな家、村長の家の離れにある留置場
留置場といっても窓がついた風通しのいい8畳ほどの部屋にキレイな木製ベッド小さめのデスクに椅子がついている
現代日本の留置場とはまったく違うものだった
「さすがに普段なら逃走防止で窓を魔法で締め切りますがね、レン様は魔王様のお墨付きですからこのままで結構です」
「じゃあ降ろすよー」
ベッドの上に優しく降ろされた
「さて、じゃあボクは王都に戻るかな〜キミの定住の手続きして用事済ませたらまたここに来るから、まあゆっくり養生しときなね」
「あ、あの!いろいろありがとうございました!魔王様」
「はいよー あ 村長、話があるからちょっと来て」
魔王と村長が部屋から出て行った
ベッドに横たわり少し思考を巡らす
昨日、桂木に自殺に追い込まれて
死んだと思ったら異世界に召喚されて
スローライフを送れると思ったら実は呪われていて人間達から捨てられて
また死のうかと思ったら今度は魔王に救われた
なんだか僕の周りには碌な人間がいないな、魔族の方々の方がよっぽど人情があるな
ーコンコンー
ドアをノックした音が
「村長のエドウィンでございます」
村長さんエドウィンっていうのか、しかしなんだか声が震えている
「失礼いたします」
部屋に入るエドウィンさん
!?目が真っ赤だ!
「目が真っ赤ですけど、何かありましたか!?」
「いえ、あの...実は...レン様がなぜ今の状態になったのか今魔王様から説明していただきまして...あまりに不憫で...グスッ....すいません、勝手に同情心を持ってしまいどうしても溢れる感情を我慢できませんでした」
ああ
やっぱりそうだ
「本当に許せない!呪いがなんだというのです!?たいして解呪方法を調べもせずに国外追放だなんて、しかも手足を切断して!こんな非道があっていいのか!」
この人達は僕のために泣いたり怒ったりしてくれるんだ。
そんな事してくれるのは、両親しかいなかった
だけど、魔王様も村長エドウィンさんも、まだあって数時間なのに、こんなに僕の事を考えてくれている
胸がいっぱいになり多幸感が広がる
「フゥーッ、少し落ち着きました。お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
「謝らないでください、ありがとうございます」
「レン様は笑った顔が素敵ですね、魔王様と同じ、皆を幸せにする笑顔です。」
ドキッ何この爺、惚れちゃう!
「あ、大切な事を伝えそびれていました。魔王様は先程王都へ発ちました。」
「そうですか、魔王様は命の恩人ですから、もっとしっかり感謝を伝えたかったです。」
「すぐにまた会えますよ。話は変わりますがレン様、昼食はまだですよね?すぐにお持ちしますのでもう少々お待ち下さい。もちろん、食事のお手伝いも心配ご無用です」
「あ、」
そうだ、僕は今両手足がない
介助がないと食事もできない
これからずーっと他の人の手を煩わせてしまう...
僕が生きているて皆の迷惑に...
「レン様!」
村長の声で我に帰る
「レン様、あなたは今とても間違った事を考えています。私にはわかります。
人には助けを求めなければいけない時があります。レン様にとっては今がそうなんですよ。好きなだけこの爺を頼ればいいんです。魔王様でもいいですよ?いっぱいに頼ればいいんです。
最後にありがとうと言えばいいんですよ。
それだけなんです。ただそれだけのことなんです。何も悩む必要もありません」
「はい,,,,すいません」
僕は気づいたらしゃくり上げながら泣いてしまっていた
「ハッハッハッなんだかさっきから私たち泣いてばかりですな!
レン様、もし手足の事をお悩みでしたら何も問題ありません。この国には魔力で操る義手、義足があります。それらを用意しあとは呪いが解ければ簡単に解決します。明日の昼までの辛抱です。
なので、それまでしっかりと私たちに頼りなさい」
涙で歪んで見えた村長の笑顔は僕を幸せにしてくれる笑顔だった