6「料理の匂いに誘われて」
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──調理器具がない。そんな問題にぶち当たった夕方。
外では、フェンリルさんが楽しみに俺の料理を待っている。
調理器具なんて作れないぞ。どうする、俺……。
いや、待てよ……調理器具を作る材料は揃ってないが、料理の材料は揃ってる。
「はっ、そうだ！ 俺には調理器具なんて必要ない！ クリエイティブスキルで作ってしまえば良いのだ！」
「どうしたユズルー？ 出来たのかー？」
「うおっ、まだですー！ もう少しお待ちをー！」
興奮して大きい声を出してしまった……さて、やるか。
──数分後、俺の思惑はバッチリ嵌まっていた。
目の前には、揚げたてサクサクのカツ。
面倒な調理工程など無視で作れてしまった。
クリエイティブ様々だ。まあ、これが豚肉か分からないから、豚カツなのかは不明だが……。それを確かめるには、味見だ。
まな板、包丁、皿、コップは、木を組み合わせて作ってある。
まな板の上に乗ったカツを包丁で切ると、サクサクと小気味良い音を立てている。
肉汁もたっぷりで、美味そうだ。
早速味見をしなければ。
「……うむ、うめぇっー!! なにこれっ!! 今まで食べたカツで一番うめぇっ！」
「出来たのかー!! 我は待つのが嫌いだぞー!!」
「うおっ……も、もう少しで出来ますー!!」
あまりの美味さに叫んでしまった……。
これなら、フェンリルさんも喜んでくれるだろ！
後は、レタスっぽい野菜をちぎって、パンの上にカツと一緒に乗せる。よし、完成だ！ と、思ったけど何か足りない気がする。うーん、なんだろう？
あっ、そうだ！ ソースが足りないんだ！
だが、ソースを作るには香辛料が足りないな……。
よし、ここはケチャップとマヨネーズで、日本式のオーロラソースを作って代用しよう。ケチャップとマヨネーズの材料はありそうだしな。
──さらに数分後、クリエイティブスキルで作ったケチャップとマヨネーズを混ぜ合わせて、オーロラソースを作った。
これをカツにかけて完成だ！ よーし！ 味見だ！
「う、うめっ──危ない。また叫ぶ所だった……」
これは最高に美味いカツサンドだ。
肉の味や食感も豚と変わらない。
ついでにヒレカツサンドも作っておこう。
肉の好みもあるしね。
★★★★
「お待たせしましたー！ 特製カツサンドとヒレカツサンドです！」
木の皿に乗せたたっぷりのカツサンドとヒレカツサンドを、待ちくたびれたフェンリルさんの前に置く。
外は暗くなってきたので、クリエイティブで作った木のテーブルと椅子を神殿の中に用意した。獣人化したフェンリルさんは、そこに座って待っていたのだ。
「本当に待ったぞ。これだけ我を待たせたのだ。粗末な物なら容赦せんからな！」
「まあまあ、これを食べたら怒りもどっかへいきますよ。このカツサンドとヒレカツサンドは、俺の最高傑作です！」
まあ、クリエイティブスキルのお陰だけどね。
「フッ、泣いて謝るなら今の内だがな」
「大丈夫です！ 絶対美味しい筈ですから！」
「そこまで言うなら、早速食ってみるか……」
フェンリルさんがカツサンドを一つ掴み、口へ入れる。
あれ、なんか難しい顔してるけど……どうなんだ？
「なんだこれは。ユズルよ……なんて物を我に食わしたのだ！ これは、これは……」
え、ダメなの？ 口に合わなかったの？
「美味いっっ!! こんな美味い物を食った事などないぞ！ ユズル！ このカツサンドとやらは、この皿にある分で終わりか!?」
「と、とりあえず作ったのはそれだけですが、作ろうと思えばもっと作れますよ。食材はいっぱいあるし……」
「そうか！ ならば、もっと作ってこい！ これだけでは到底足りぬっ!!」
「は、はい！ ただいま！」
良かった～。どうやらお口に合ったみたいだ。
それにしても、凄い食べっぷり……かなり盛ってきた筈のカツサンドとヒレカツサンドが、あっという間になくなってく。
「このヒレカツサンドとやらも美味いな!! これも追加だ!!」
はいはい。作って来ますよ。てか、俺も食べたいんだが……まあ、喜んでくれてるし、後で良いか。
食糧庫に降りておかわりのカツサンドとヒレカツサンドを大量に作っていく。出来たら二つの皿に山盛りに乗せて持っていくが、ものの数分でそれを平らげてしまうフェンリルさん。
それを何回か繰り返した頃、事件が起こる。
「──何者だ!! 我がフェンリルの居城と知っての事か!!」
「「ひいぃぃぃぃっっ!!」」
なんだ!? 一体何があった!?
おかわりを作っていたら突然の怒号と叫び声。
急いで上へ向かうと、巨狼の姿に戻ったフェンリルさんが、二人の男女に向かって大きな口を開け、今にも喰らいつきそうな場面だった。
「ど、どうしたんですか!? てか、この人達は？」
「知らん!! 勝手に我が家に入ってきた行い、断じて許さん!!」
「ひぃぃぃぃっっ！ た、助けて下さい！ 見慣れぬ森で迷っていたら、美味しそうな匂いがして来てしまっただけなんです！ 許してぇぇぇぇ～」
「お、俺もだ！ 悪気があった訳じゃねえ！」
女性の方は、黒い肌に銀髪で耳が長い。もしかしてエルフか？
それも、普通のエルフじゃなくてダークエルフっぽい。
対して、男性の方は、長い顎ひげと毛むくじゃらで筋肉質な体だが、俺より一回り位小さい感じがする。これはあれだ。ドワーフってやつか？
「黙れっっ!! このフェンリルを怒らせた事、我の胃袋で反省するがよい!!」
めっちゃ怒ってるよフェンリルさん。とりあえず、本当に食べちゃいそうだから止めないと……って、もう食べる寸前じゃん!?
「フェンリルさん待って!!」
「ガァァァァッッ!!」
「「ひぃぃぃぃっっー!!」」
ヤバいっ!! 間に合わな──
