3、「フェンリルさんの家」
子犬モフモフしてぇぇぇっ~!
子犬になったフェンリルさんを思う存分可愛いがった後は、衣食住を揃えるために行動する事にした。
「フェンリルさん、この辺りに人里はありますか?」
「なんだ、もう終わりか……人里などない」
「そうですか……では、この森周辺はどんな感じになってるんですか?」
「フッ、此処は我を隔離する監獄。結界が張られていて、出られぬ。だから周辺の事など分からんわ──」
フェンリルさんから色々聞いた所、この森はかなり広いらしい。そして、人が来る事もないみたいだ。
人と関わりたくなかったから丁度良いと思った。
此処を拠点にし、ゆったり過ごせれば良いな……。
さて、次は肝心の衣食住だな。どうしたものか……と、思ったが、フェンリルさんから朗報がもたらされた。
「家と食うものならあるぞ」
「えっ! 本当ですか!?」
良く良く聞いてみると、俺とフェンリルさんがいるこの場所は森の中央部らしく、此処から東に行くと同じように拓けた場所があり、そこには家と食料があるみたいだ。
なんでも、娘が飢えないようにと、フェンリルさんのお父さんであるロキさんが定期的に送ってくるらしい。しかも、腐る事がないみたいで、一人では食いきれない量が貯蔵してあるそうだ。
これで、食住はなんとかなりそうか?
とりあえず、そこへ行ってみよう──
★★★★
「うわ~、想像の斜め上だな……」
フェンリルさんの案内で家がある東の拓けた場所へ行くと、そこには、パルテノン神殿顔負けの大きな神殿が建っていた。
もしかして、これが家?
「さあ、ここが我が家だ。早く入れ」
ああ、やっぱり家なのね……。
因みにだが、フェンリルさんは未だ子犬の状態で、俺の胸に抱かれながら偉そうに指示を出している。
フェンリルさんに急かされて中に入ると、だだっ広い空間が待っていた。天井付近の柱一本一本には、かがり火が灯され、神殿の中を妖しく照らしていた。
「中央に見える噴水はなんですか?」
「飲み水にも出来る澄んだ水だ。後、ほれ、奥に地下へ続く階段が見えるだろ」
階段? どれどれ……あ、確かに、奥の方に下へ続く階段が三つ見えるな。
「ありますね。あの下は何が?」
「うむ、左の階段は食糧庫。真ん中は風呂。右は寝室だ」
「見ても良いですか?」
「ああ、好きにしろ」
フェンリルさんの許可を得たので三つの部屋を見学する事にした。まずは食糧庫から行くか──
噴水の奥まで移動し、左の階段を降ると、教室二つ分ほどの空間に出る。ここも天井付近にかがり火が灯されていた。
「凄いですね……こんなに大量だとは思いませんでした」
「そうか、遠慮は要らん。我一人では食いきれぬから、好きに食うが良い」
俺の驚いた顔に満足そうなフェンリルさん。そりゃ、驚くさ……教室二つ分の部屋一杯に、あらゆる食材が山のように積まれているんだ。
ここから積まれた食材を見ると、果物、野菜、肉、穀物、主食のパンなどが揃っている。これが腐らないんだから、神の力って流石だよね。
「ありがとうございます。助かります」
「うむ、次に行くぞ」
相変わらず偉そうだな……まあ、これで食の問題も解決したから、よしとするか。
フェンリルさんの指示で次の部屋へと向かう。
次は、お風呂があるという部屋だ。
真ん中の階段を降りていくと、湯気のような暖かい空気を感じる。人間が入れるような温度ならありがたい。
「さあ、ここが風呂だ。我もたまに入るが、貴様も好きに入って良いぞ」
お風呂場も広さは食糧庫と同じ位で、半分は大理石の浴槽になっていた。壁から浴槽へお湯が流れ、湯気を放つ。一体、どんな仕組みなんだろう……。
「助かります。お風呂は衛生面で大事ですから。そう言えば、名前を教えてなかったですね。俺の名前は弦と言います」
「ほう、ユズルか。名前を教えるという事は、とうとう我に気を許したという事か?」
「え、ああ、まあ……そんな所です」
「ハッハッ! そうか、それは良かった。ならば、更に親睦を深めるのため、背中を流し合おうではないか!」
名前を教えたのが嬉しかったのか、突然そんな事を言い出すフェンリルさん。俺の胸から飛び出し、また女性の姿になってしまった。
「フボォッッ! だから、その姿は不味いですよ!」
慌てて顔を上げ、艶かしい体を直視しないように抗議すると、フェンリルさんは笑っていた。この人、わざとやってるな……。
俺をからかって満足したのか、子犬の姿に戻って、再び俺の胸へと飛び込んで来るフェンリルさん。
「ほれ、次へ行け」
全く……後で仕返しを考えなきゃ。
ああ、そうだ、次へ行く前にお湯の温度を確認していこう。
浴槽に貯まったお湯に軽く触れてみる。
うん、丁度良い温度みたい。これなら大丈夫そうだ。
確認を終えお風呂場を後にする。
次は、寝室へ繋がる右の階段だな。
最後の階段を降りると、天幕付のキングサイズのベッドが置いてある部屋へとたどり着いた。
広さは食糧庫やお風呂場と変わらないが、用途は本当に寝るだけ、という感じがする。部屋の中のかがり火も少なく、寝るには丁度良い暗さだ。
「さあ、これで全部だ。上に戻るぞ」
「は──ん? 奥に扉が見えるんですけど、あれは?」
「扉? 我にはそんなもの見えんな」
明らかにしらばっくれるフェンリルさん。
隠したい秘密の部屋なのか?
でも、さっきの仕返しもあるし……よし、突撃だ!
「俺には見えるので、ちょっと見せてもらいますね」
「や、止めろっ! なにもないと言ってるではないか! ああっ、ダメだ! そこを開けるな!!」
ふっ、やっぱり見えてるじゃないか。
こんなに慌てるほどの秘密が? さて、何があるのかな。
フェンリルさんの制止を無視して、一番奥の扉を勢い良く開け放つ。すると、そこには……。